【世界のモバイル】″モバイルWiMAX″は日本メーカーの救世主となるか


2.5GHz帯を利用する広域無線通信サービスの免許が総務省から2社に交付された。1社は次世代PHS方式を採用するウィルコム、もう1社はモバイルWiMAX方式を採用するワイヤレスブロードバンド企画である。このうちモバイルWiMAXは国際的に仕様が統一されたオープンなシステムであり、海外でもすでに数カ国でサービスが開始されている。日本の携帯電話関連企業は日本固有のビジネスモデルの影響などもあり海外進出に苦心しているが、モバイルWiMAXの開始は世界進出への扉を開く一つの足がかりになるかもしれない。

■国際的な標準規格のモバイルWiMAX
 モバイルWiMAXは国際的にオープンな規格を目指して仕様の標準化が行われており、業界の標準化団体「WiMAXフォーラム」が対応機器の互換性テストや認証を行っている。すなわち認証を受けた機器は基本的にどの通信キャリアでも利用することが可能であり、特定の企業向けだけの特定の規格というものは排除する方向で仕様が定められている。このためモバイルWiMAXを提供する通信キャリアは端末をグローバルな市場から安価に購入できるだけではなく、国を超えた国際ローミングサービスを提供することも可能になるのだ。消費者にとってもキャリアごとに端末を買い換える必要がなく、モバイルWiMAX対応機器を購入すればどのキャリアでも利用できるというメリットを授与できるだろう。
 日本のモバイルWiMAXのサービスは、まずはノートPC向けのデータ通信など高速インターネット接続サービスから開始される予定である。料金は最大でも月5000円程度の定額制となり、携帯電話のような従量料金制からのスタートではないのが特徴だ。ビジネスモデルもキャリアが主体となりハードウェアの仕様までもを制定する垂直統合型ではなく、モバイルWiMAXの規格に則った端末にサービスを提供する水平分離型となるようである。

■日本企業が海外進出するチャンス
 2009年に開始予定のモバイルWiMAXサービスでは、どのような端末が提供されるのであろう? 前述したように当初はデータ通信サービスが主となることから、通信モデムなどが投入されることになるだろう。ここで2007年にHSDPAによるモバイルブロードバンドサービスを開始したイー・モバイルを見てみると、国産以外にHuawei(中国)、Option(ベルギー)といった海外メーカーの端末が提供されている。モバイルWiMAXも世界規模で規格が統一されていることからおそらく海外メーカーの端末も数機種が日本向けに提供されることになると予想されている。

 しかし海外メーカーの端末が日本で利用できるということは、逆に日本メーカーのモバイルWiMAX機器が海外で利用できるということを意味している。特にデータ通信端末であれば端末の言語やUIを気にせず日本でも海外でも同じ製品を販売することが可能だろう。そして日本のメーカーも特定のキャリア、すなわちワイヤレスブロードバンド企画向けの専用端末を開発する必要は無い。標準規格に則った製品を開発さえすれば日本のみならず海外のモバイルWiMAXキャリアでもそのまま利用することが可能となり、グローバルに製品展開を行うことも可能となるわけだ。
 たとえばNECは2007年12月からモバイルWiMAX準拠の設備やデータカード端末を販売開始している。当初は海外のWiMAXサービスキャリア向けに販売するとのことであるが、将来は日本での販売も当然視野に入れているだろう。NECはまた台湾で大同電信とモバイルWiMAXのテストも行っており、同技術の海外展開に力を入れている。携帯電話では欧米韓の携帯大手メーカーの後塵を拝する日本企業も、モバイルWiMAXでは一足先に市場でイニシアティブを握ることができるかもしれないのである。

■新技術が勢力図を変える
 海外でW-CDMAが開始された数年前、端末ベンダーとして最初に市場参入したのは日本企業やMotorolaであったが、後から参入したLG電子に市場のシェアを大きく奪われてしまった。そして瞬く間にLG電子はW-CDMA市場でシェア1位に上り詰め、新技術の開始が業界内の順列を大きく入れ替えてしまったのだ。やがてNokiaの巻き返しによりLG電子はシェアトップの座から下ろされてしまうが、多くの通信キャリアが同社のW-CDMA端末を採用するなど、3Gに注力した同社の製品開発体制は今でも成功を収めている。

 さてモバイルWiMAXも同様に新しい技術である。しかも世界各国でサービスを提供するキャリアは携帯電話キャリアだけではなく、固定電話キャリアやホットスポット接続業者などこれまでの携帯ビジネスとは異なった企業が多数参入している。そのため携帯電話業界の既存勢力や力関係との関係は弱く、全メーカーが同時にスタートラインに立っている状態だ。ここで日本企業が存在感を表すことができれば、自動車や家電製品のように業界を牽引し市場シェア上位の座を確保することも期待できるだろう。そのためにもオープンな水平分離型のビジネスモデルを導入することは必須だ。すなわちモバイルWiMAXに対応した製品なら、どこが販売した製品であろうとも料金を支払えば制限なく回線接続が行えるようにするべきなのである。

 たとえばポータブルゲーム機は日本企業の製品がほぼ全世界で販売されている。これにモバイルWiMAXを搭載すれば、移動中でもインターネットにアクセスできる情報ツールにもなる。またiPhoneで一躍携帯電話業界の話題の星となったAppleが、iPod TouchにWiMAXを搭載すれば携帯電話での音楽配信ビジネスに大きな風穴を開けるものとなるかもしれない。そしてこれらの製品がモバイルWiMAXキャリアからの販売ではなく家電店で契約とは無関係に購入できるようになれば、携帯電話業界をも巻き込んだ業界の勢力図が大きく塗り換わる可能性を秘めているのだ。

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山根康宏
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