インタビュー:『ジャッキー・コーガン』アンドリュー・ドミニク監督 「そこには一抹の寂寥感、孤独感というのがあるんです」


ブラッド・ピットが「優しく、殺す」という独自の哲学をもつクールな殺し屋を演じ、レイ・リオッタ、ジェームズ・ガンドルフィーニら実力派、個性派俳優らが一同に会した犯罪サスペンス『ジャッキー・コーガン』がまもなく公開となる。2012年のカンヌ映画祭コンペティションでもパルムドールを争った話題作だ。

メガホンを取ったのは『チョッパー・リード 史上最凶の殺人鬼』や『ジェシー・ジェームズの暗殺』で、凶暴な犯罪者やアウトローを通して、人間の狂気と孤独をシニカルに描いてきたアンドリュー・ドミニク監督。

そのドミニク監督が電話インタビューに応じ、個性あふれる俳優陣の素顔や、作品の隠されたテーマなど、本作の魅力を存分に語ってくれた。

――「チョッパー・リード 史上最凶の殺人鬼」、「ジェシー・ジェームズの暗殺」、そして本作「ジャッキー・コーガン」と、犯罪にまつわる映画を撮られてきていますが、作品づくりにあたってどのようなことにこだわっていますか?

ドミニク監督:実は、犯罪映画が一番好きなジャンルかといわれると、そうでもないんです。すでに3本作ったので、次は少し違う作品も撮ってみたいかな…。犯罪映画は好きなんですけどね。犯罪映画以外のジャンルで言えば、西部劇はもっと作って欲しいな。

作品を作る際に一番考えていることは、登場人物の行動がどこか普通じゃなくて、変わっていたり美しくあるべきだということです。僕は、映画というのは、キャラクター自身が葛藤している姿を描くべきだと思っているんだよね。
この「ジャッキー・コーガン」でも、登場人物と他の人との葛藤というよりは、自分との葛藤のほうが大きく描かれているんだ。そこ(自分自身との葛藤)には一抹の寂寥感、孤独感というのがあるんです。

――ブラッド・ピットの他にも、リチャード・ジェンキンス、レイ・リオッタ等、実力ある俳優陣が顔を揃えています。彼らとの作品作りはいかがでしたか?

ドミニク監督:私の今までの作品はどれも非常にラッキーで、素晴らしい俳優に恵まれています。しかも、出演してくれた俳優たちとはすごく仲良くなるんですよ。なので、今回も楽しかったです。




――ジェームズ・ガンドルフィーニが、“すごい殺し屋”という肩書きで出てきて、あのようなキャラクターですが、あの演出の意図はどのようなところでしょうか?

ドミニク監督:ミッキー(ガンドルフィーニ)は原作どおりのキャラクターとエピソードなんですが、彼は、自分が壊れてダメになっているという事実を直視したくないがために、ドラッグとセックスで麻痺させようとするんです。けれど、それもうまくいかない。なぜ自分がこんなに惨めなのか、その理由すらわからない男なんですね。他人に対する態度も不快だしね。
僕は、そんなミッキーというキャラクターを演じる俳優にジェームズ・ガンドルフィーニがふさわしいと思ったんです。
ガンドルフィーニはとってもセンシティブな人で、自分が感じていることを感受性豊かに観客に伝えることのできる役者です。そんな彼に演じて欲しかったし、実際、撮影中もとってもスリリングで、すごくやりがいがあったよ。彼のシーンは、10分くらいの長まわしが二箇所あって、全然楽なことではないんだけれども、本当に特別だったね。

――銃撃シーンなど、スタイリッシュで美しい表現が魅力的な作品です。画作りで心がけていることがありますか?

ドミニク監督:1940年代のハリウッドで作られていた、スクリューボール・コメディのようなシンプルさを今回は追求しました。つまり、撮影の際に、色々なアングルから撮ってはいないんです。すごくシンプルで、ハリウッド黄金期のスタジオで作られているような作品です。
例えば喋っているだけのカットバックのシーンは、演技が素晴らしければ他に隠れるものもないですし、なるべくシンプルな撮り方をしました。

一方で、ときどき派手さを要求するシーンも、もちろん加わっています。
ヘロインでラリっているキャラクターのシーンでは、フレームインとフレームアウトを繰り返して撮影しているようなところもあって、それも描きたいシーンの空気感を形にしようとした結果なんです。

今回の作品を作るにあたって、黄金期のスタジオ映画のほかには、メイズルス兄弟の60年代のドキュメンタリー映画「セールスマン」(聖書の訪問販売をするセールスマンたちを描いたドキュメンタリー作品)の空気感も視覚的に表現しようとしています。
また、一昨年の経済危機の空気感も一部反映させようとしたかな。
醜いんだけど美しい、そういう画作りを心がけました。

――アメリカ経済を揶揄するような描写が印象的でしたが、犯罪ストーリーにそうした風刺の要素を加えた最大の狙いはどこにあったのでしょうか。

ドミニク監督:僕自身にとっても、お金の問題が重要だからだよ(笑)
アメリカという国そのものが、ある意味では犯罪ストーリーのようなものだ、と言いたかったのかもしれないですね。




――劇中では、シニカルで緊張感のある会話劇が繰り広げられます。脚本を書く際にどんなことにこだわっていますか?

ドミニク監督:セリフの量が多かったので、それが一番大変だったよ。
今回、劇中でキャラクターが喋ってる内容は、実はプロット的にはそんなに重要なことじゃないんです。自分たちの人生とか、その人たちが誰なのかっていうのをわからせるために喋ってるだけなんだ。
セリフの量があまりにも多いと、観る人に“もうお腹いっぱいだよ!”と言れてしまうし、逆にあまり少ないと今度は内容が薄くなってしまう。どこまで観客が耐えられるかという量を測りながらバランスをとるのが一番大変だった。
実際に書いた量全てが完パケに入らないことはわかっていたので、書いたものは全部撮ったんだけれども、そこから編集でかなり落としていきました。最初2時間くらいあった荒編から30分くらいのセリフをカットして、90分程度にまとめています。
カットしたシーンの中でも、特に最高だと思う部分は、4シーンをメイキングに入れて、他にもちょっとずつつまんだよ。

――音楽もとても評判が良いのですが、こだわりがあれば教えてください。ジョニー・キャッシュは特別な存在でしょうか?

ドミニク監督:ジョニー・キャッシュは大好きです。
今回、経済危機や大統領選のテレビニュースを背景として入れ込んでいるんだけれど、同じような感じで既存曲も使っています。使用した曲のいくつかは、もともと脚本の段階で書き込んでいて、今回のジョニー・キャッシュのナンバーもそうでした。
最初からスコアは使いたくなくて、既存曲を使おうと今回は思っていました。
これは全部試行錯誤なんだけどね。

――ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーのカップルには日本にも多くのファンがいますが、もし監督がこの2人の主演で映画を撮るとしたらどんな作品にしますか?

ドミニク監督:ロマン・ポランスキー的なパワープレイもの、支配するものと支配されるもの、みたいな作品かなあ。

――どちらが最終的に支配すると思いますか?

ドミニク監督:パワープレイだから入れ替わるのが面白いだろうね。…でもやっぱりアンジーかな(笑)。



『ジャッキー・コーガン』は4月26日(金)よりTOHOシネマズみゆき座他全国ロードショー

【作品情報】
『ジャッキー・コーガン』 - 公式サイト
@jackiecoganjp - 公式Twitter

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