auスマートフォンの裏主役SIRIUSαにみる隠された実力と二極化【世界のモバイル】

2010/12/03 08:00

2010年秋、NTTドコモ、au、ソフトバンクモバイル各社が恒例の新製品発表会を行った。だがその内容はスマートフォンを全面に押し出したものとなっており、これまでの“恒例”とは大きく異なるものであった。特に目立っていたのが海外メーカーの製品である。しかもSamsung、HTC、LGといった大手のみならず、HuaweiやZTEなど従来は発表会の最後のほうに通信モデムやエントリーモデルとして紹介されるメーカーからもスマートフォンが登場している。

このうちドコモとソフトバンクは海外と同じW-CDMA方式を採用していることもあり、海外メーカー品を日本向けにローカライズするなどしてそのまま市場に投入できる強みがある。両社のスマートフォン新製品のうち日本と海外の割合を見ると、日本製が2機種に対して海外メーカー製が4機種と倍の数になっている(ドコモは先行発表されたSamsung Galaxyシリーズを加える)。日本メーカー製品ばかりだった日本の携帯電話市場も、スマートフォンに関してはついに立場の逆転が起きているのだ。

一方auのスマートフォンはシャープと東芝をメインにした4機種。日本メーカー端末重視ということもあってか、これまでの製品ラインナップからの目新しさという点ではドコモ、ソフトバンクほどのインパクトは感じられないかもしれない。但しauのスマートフォンは日本のサービスをそのまま利用できることを売りにしており、ワンセグやおサイフ機能を重視しているため国産スマートフォンを大きくアピールしている格好である。

だがiPhoneやGalaxy S(SC-02B)のヒットを見る限り、スマートフォン単体に大きな魅力があれば日本固有のサービスは犠牲になっても構わない、と考える日本の消費者の数も少なからず増えているようだ。そうなるとauの「日本の携帯電話と同じ機能を持ったスマートフォン」というアピールポイントも、ドコモとソフトバンクの多種多様なスマートフォン製品群の前では霞んでしまう可能性もある。

そこでauも今回は海外メーカーのスマートフォンを発表している。韓国Pantech＆Curitel(以下パンテックと略)製のSIRIUSα IS06はワンセグやおサイフ機能には対応していないものの、3DメニューやAndroid OS 2.2を搭載しておりスマートフォン単体としてのスペックは申し分ない。パンテックはこれまでもau向けにローエンド機種などを出していたが、海外ではすでにスマートフォンも手がけている。

特に韓国ではパンテックに吸収合併された旧SKテレテックのブランド「SKY」がSamsung、LGに次ぐシェア3位と好調だ。SamsungとLGに負けじと機能アップやデザインに注力しており、韓国では女性や若い世代からの人気も高い。そう考えるとSKYの製品はauの顧客層にも十分マッチしている。

韓国SKYのWEBサイト。フルタッチスマートフォンラインナップが並ぶ

auはCDMA2000方式を採用しており、同じ通信方式向けのスマートフォン製品群の数は海外でもあまり多くない。加えてauの方式は海外と周波数の使い方が異なるため、海外で販売されているCDMA2000スマートフォンをそのまま日本で利用することもできないのだ。2009年に北米で大人気となったMotorola Droidや、発売が噂される米Verizon向けiPhoneなどのCDMA2000対応スマートフォンも、au向けにハードウェアのカスタマイズが必要となってしまう。

今後日本のスマートフォンブームが加速化すれば、ドコモもソフトバンクも「日本サービスに完全対応した日本メーカー品」と「海外の最新機能を搭載した海外メーカー品」のように、二極化した製品を投入していくだろう。特にタブレット端末はそのサイズからしてもおサイフ機能に対応する必要はないだろうから、海外メーカー品をそのまま採用する可能性が高い。

一方auとしては、日本メーカーのスマートフォンが海外メーカーのように「毎月新製品を発表する」ほどの勢いが期待できないことから、今後スマートフォンラインナップを拡大するためには海外メーカーへの依存度は高くなっていくだろう。またauの国産スマートフォンが従来からの携帯電話サービスをそのまま利用できるとしても、電池の持ちや文字入力の点など、まだまだ従来からの携帯電話のほうが優れている点も多い。手軽に、もしくはサブとしてスマートフォンを使いたい、そう考える層にとってSIRIUSα IS06は気軽に購入できるスマートフォンでもあるわけだ。

しかもau向けのSIRIUSα IS06は韓国ではW-CDMAモデルとして販売されているVEGA(IM-A650S)のau向けカスタマイズ版となる。SamsungやLGがW-CDMA、GSM、CDMA2000と異なる方式に同系モデルを同時に市場投入しているように、パンテックも通信方式は無関係に各国のマーケットに適した製品を提供する能力のあるメーカーなのだ。

SKY VEGAの特設サイト。VEGAの製品イメージをよく表している

SamsungやLGもCDMA2000対応スマートフォンを海外で販売していることから、auも将来は両社からの製品を導入することは十分検討するべきだ。但しドコモがSamsungのGalaxyシリーズを大々的にアピールしている現状では、auからもCDMA版Galaxyを出すのはマーケティングが重なってしまうことから難しいかもしれない。

来年の夏には各社がまた新製品を発表するだろうが、auとしては国産メーカースマートフォンの機能アップを図るのはもちろんのこと、海外メーカースマートフォンのラインナップを増やすことも必要だろう。そうなるとauのスマートフォン戦略の鍵を握るのは海外メーカー、しかもライバルであるドコモやソフトバンクとは無関係なパンテックとなる可能性もありうる。従来の携帯電話ユーザーをそのままスマートフォン利用に引き上げる製品は国産メーカーに任せ、バラエティーに富んだ製品や最新OS搭載モデルはパンテックに任せる、といったラインナップ分けも悪くは無い。

パンテックがすでに韓国で販売しているSKYブランドのAndroidスマートフォンは4機種。SamsungやLGとの差別化を図るために、特にデザインに力を入れたモデルが中心だ。中でも本体下部を透明素材とし、光沢ある丸みを帯びたボディーのSKY IZAR(IM-A630K)のターゲットはずばり「女性」。実際に韓国では20-30代の女性に大人気だという。このように特化した製品を出せるのがパンテックの強みであり、日本でも同社スマートフォンが発売されればドコモやソフトバンクとは異なる、auならではの特色を出すことが可能だろう。スマートフォン戦略の遅れを回復するためにも、auはパンテックのような特色ある海外メーカーのスマートフォンを積極的に採用していくべきなのだ。