感覚・体験を共有する タッチ・インターネットが拓く未来(4)【テレスコープマガジン】




ライフジャケットのような服が ぎゅっと体を締め付けると、まるで誰かに抱きしめられているような気分になる。これは、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科のエイドリアン・チェオク(Adrian Cheok)教授が開発した、遠く離れた者同士でハグする「ハギー・パジャマ」という装置だ。チェオク教授は、触覚を始めとする五感を使ってコミュニケーションを行う「タッチ・インターネット」の研究を進めている。ネットで感覚や体験を共有できるようになった時、はたして社会はどう変化するのだろう。タッチ・インターネットが社会のあり方を変える
──タッチ・インターネットが普及したら、どのような変化が社会や個人のライフスタイルに起こるとお考えですか?
私たちはすでにハイパーコネクテッド(hyper-connected)な時代に生きており、あらゆる情報を手に入れることができるようになりました。

現在の東京の天気は? 東京の有名なスポットは? 東京タワーの写真は?
誰かの撮影した写真もネットですぐに見られます。今後は、撮影した写真を自動的にネットにアップロードするのが普通になってくるでしょう。

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しかし、東京タワーの写真を見て、現在の気温がわかったとしても、それがどんな感じなのかはわかりません。
タッチ・インターネットならば、気温や気圧、風を感じることができます。東京タワーに今いるという感覚を体験できるのです。これから、情報の時代から経験の時代への移行が進んでいくでしょう。

変化はまず映画などのエンターテインメントで進むと思います。映画の中で火が燃えていたら、観客も暖かいと感じる。そういうエンターテインメントに慣れてきたら、どんな場所にいるかとか、相手と触れ合っているという感覚を電話などで共有するようになっていくはずです。

五感を通じたコミュニケーションは、社会のあり方を根本的に変える可能性があります。ご存じのように、日本やヨーロッパなどの先進国では高齢化が進んでいます。歳を取ると旅行するのが困難になってきますが、自宅にいながら旅を体験できる仕組みは高齢者にとって有益でしょう。

さらに、地球の資源は有限であることを私たちは理解するようになりました。20世紀、私たちは望むだけの資源を自由に使っていましたが、もはやそういうわけにはいきません。飛行機であちこち移動するにも莫大な燃料を必要とします。

どうして飛行機を使って海外で行われる会議に参加しないといけないのでしょう? 今日のテクノロジーでは、その場に物理的に存在することなしに、誰かといっしょにいる感覚を得ることができないからです。
インターネットを通じて、その場に実際にいる 感覚を得られるようになれば、エネルギーや地域社会の側面からもメリットは大きいでしょう。

日本の首都圏人口は3000万人以上、通勤・通学による東京都の移動人口は約1000万人にもなります。
(参考:http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2008/03/60i3r100.htm

これだけの人口が、自宅と会社、学校を往復しているのです。テクノロジーを活用すれば、在宅勤務だってできるでしょう。現に米国では在宅勤務する人が増えており、エネルギーを節約しなければならない日本でもこうした変化が起こるはずです。今でも、人々は家を出て会社に向かい、会社でコンピュータに向き合ってまた家に帰っています。コンピュータと向き合うだけなら、わざわざ出かける必要などありませんが、人間にとってはその場にいるという実感がないと落ち着かないのでしょう。

触覚を含む五感を活用したコミュニケーションによって、異なる場所にいる人々がいっしょに存在している 感覚を得られれば、都市内での移動も減らせると考えています。通勤・通学がなくなったら、どれだけのエネルギーを節約できるか想像してみてください。

もちろん、鉄道会社はうれしくないでしょうが、社会はこれまでとは違う方向に踏み出すべき時期に来ています。

──運輸産業の人は、教授のことを嫌うでしょうね。
きっとそうでしょう(笑)。しかし、こうした変化はこれまでにも起こってきたことです。

かつて日本の石炭産業が衰退していった時、その産業に従事していた人は不幸だと感じたに違いありません。産業や企業のあり方は時代と共に変化していくものであり、それがZeitgeist(時代精神)です。

今の私たちにとって電車で通勤することは当たり前ですが、もしかすると20年後には在宅勤務が当たり前になって、どうして通勤していたのか不思議に思っているかもしれませんよ。

社会が変化すれば、新たな産業も登場してきます。鉄道ビジネスは縮小しているかもしれませんが、その代わり、在宅勤務者を対象にした新たなビジネスが生まれているでしょう。


(つづく)

記事提供:テレスコープマガジン

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