地デジの方式が複数あるのはなぜか【デジ通】


テレビのデジタル放送化は世界的に進んでいる。だが、デジタル放送の方式は複数ある。大きく分けると、米国方式(ATSC)、欧州方式(DVB/T)、日本方式(ISDB-T)、中国方式(CDMB-T)の4つ。各国とも、自国方式を外国に採用してもらおうと懸命だ。なぜ、こんなことが起きるのだろうか。

■映像・音声などの方式が違う
まず、デジタル放送の方式によって、規格が微妙に違う。映像方式は、ほぼMPEG-2を標準的なものとして採用しているが。音声は、日本方式はAAC(iPodで標準規格となっている)で、米国方式はドルビーデジタルという具合だ。米国方式では移動端末での受信ができないので、日本のワンセグ放送のようなデジタル放送は、別途用意しない限り不可能だ。ゆえに、デジタル放送に米国方式を採用した韓国では、移動体向けには「T-DMB」という別方式で放送を行っている。

■日本方式が南米で採用されたワケ
デジタル放送の電波は、もともと直進性が強い。米国方式・欧州方式とも起伏の乏しい土地に向いた規格で、山林などの障害物に弱い。これを避けようとすると、基地局を多く設置しなければならず、コストが上がる。日本方式は、これを避けるために独自に開発されたものだ。ブラジルやアルゼンチンなど、山岳部が多い南米諸国や、フィリピンのような島国で日本方式(正確にはその派生方式)が採用されているのは、そのためだ。

■政府はなぜ自国方式の採用を他国に促すのか
放送方式の異なる国には、それぞれに異なるテレビを売らないといけない。日本方式を採用する国が日本だけだと、家電メーカーは日本向けだけに製品を別途開発しなければならないので、コストが高くなる。これを避けるには、同じ方式を採用する国が多い程よい。政府は日本方式を採用するよう、中南米やアジア、アフリカ諸国に促しているが、極論を言えば、日本メーカーのためなのである。もっとも、これは他国もやっていることであるが。それにしても、南米でシェアの高いのが韓国メーカーだったりするのは、誠に皮肉なことだ。

■中国はなぜ独自方式にこだわるのか
中国は独自方式を採用している。方式をあとから策定した関係上、技術上の要素が変わったということもあるだろうが、最大の理由は、中国国内のメーカーを守るためだろう。他国メーカーからすれば、中国方式への対応はコストがかかるが、10数億の巨大市場を考えれば「背に腹は替えられない」。中国はその辺を見抜いた上で、自国メーカーに有利になるよう図っているといえる。

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大島克彦@katsuosh[digi2(デジ通)]

digi2は「デジタル通」の略です。現在のデジタル機器は使いこなしが難しくなっています。
皆さんがデジタル機器の「通」に近づくための情報を、皆さんよりすこし通な執筆陣が提供します。

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