【編集部的映画批評】“ガーリー”を極めたソフィアが次に描くのは、不思議な父娘の絆


 MOVIE ENTERの編集部員が好き勝手に映画を批評する「編集部的映画批評」。私は女子力アップの視点から色々な映画を紹介していきたいと思います。女子にとって映画のヴィジュアルはとても大切。オシャレなポスターや、予告編に使われている音楽などで「この映画観たい!」と判断する方も多いのでは?

SOMEWHERE

 ソフィア・コッポラ最新作である「SOMEWHERE」は、成功者で贅沢な暮らしをおくりながらも、心に空虚を抱える俳優ジョニー・マルコと、別れた妻との娘クレオの短い共同生活を描いたヒューマン・ドラマ。ソフィア自身の体験がベースにあるという事で、セレブ界の華やかさと空虚さが淡々と描かれています。その美しい映像と繊細な心理描写は大きな支持を受け、「第67回ヴェネチア国際映画祭」では満場一致で金獅子賞を受賞。現在公開中の話題作です。

近すぎず、遠すぎない不思議な距離感の映画。

 最近私が一番気になったのが、この「SOMEWHERE」のポスター。映画の舞台であり、実在するウェストハリウッドのホテル「シャトー・マーモント」のプールサイドで寝そべる父娘というシンプルな構図ながら、色のバランス、余白の使い方にセンスを感じます。

 まず驚いたのが映画の冒頭。あるシーンが延々と繰り返されるのですが、途中で「え、これいいの? 間違いじゃないよね?」と感じるほど。しかし、このシーンは後半にちゃんと意味を持ってくるのでご安心を。そして、最初少しイライラしてしまった自分が日頃、どれだけ展開が速い作品ばかりを観ていたのかとハッとしました。

 展開が“速い/遅い”が直接作品の“良い/悪い”に結びつくわけではありませんが、私は少しせっかちな観客になりすぎていたのも事実。ちょっぴり反省しつつ、このままゆっくりとソフィアの世界観に浸ろうと改めて気持ちを落ち着かせて鑑賞しました。すると、映画を観るというより、実在する父娘を遠くから見ている様な、そんな独特の距離を感じる事が出来たのです。

エル・ファニングの儚い美しさはこの映画でしか観れない。

 色々な女性と一度限りの関係を持ち、ポールダンサーをわざわざ部屋に呼んだのに、目の前で寝てしまうような“だめんず”ぶりを発揮する、主人公のジョニーですが、女の私が観ても決して不快な気持ちにならないのは、ロサンゼルスの明るい気候の故か、ソフィア作品の持つ独特の透明感か。とにかく、終始カラっとした快晴と共に物語が進行するので、まるでリゾートにいるかの様なゆったりとした気分を味わえます。

 そして、この映画一番の魅力は、ジョニーの娘・クレオを演じた、エル・ファニングの可愛らしさ。彼女がスクリーンに登場した瞬間に、ガラリと映画の雰囲気が変わるので注目です。素直で、少し大人びていて、父親の前では無邪気で…という様々な表情を使い分けるあたりに、実姉のダコタ・ファニングと共に大物になる要素十分。ただ、少女の繊細な美しさは「SOMEWHERE」を見逃したら、もう見れないかも?

 「ヴァージン・スーサイズ」「ロスト・イン・トランスレーション」「マリー・アントワネット」で、独自の世界観・空気感を炸裂させてきたソフィア・コッポラ。彼女の細部に宿るセンスは、「SOMEWHERE Digital Diary」でも見る事が出来るので、ぜひチェックしてみて。

女子力勉強中ナカムラの所見評価

センスに脱帽度:★★★★★

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