【力説自動車.web】第4回:新型コンチネンタルGT、これぞ被災時代のリッチマンカーだ!


■【力説自動車.web】
・第1回:クルマ離れなんてウソ! 震災時こそクルマを!
・第2回:被災地のクルマたち
・第3回:被災地を全部直すな、これぞ世界遺産だ

◆プロフィール
金子浩久
1961年、東京生まれ。主な著書に、『10年10万キロストーリー 1〜4』『セナと日本人』『地球自動車旅行』『ニッポン・ミニ・ス トーリー』『レクサスのジレンマ』『力説自動車』(共著)。
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小沢コージ
バラエティ自動車ジャーナリスト。横浜市出身。自動車メーカー、二玄社「NAVI」編集部員を経 てフリーに。現在『ベストカー』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『MONOMAX』『時計ビギン』などの雑誌『carview』『webCG』『日経BPネット』『Vividcar』などネットに多数連載。
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小沢コージ(以下、小沢):遂に出ましたね、ここ何年かの2000万円カーブームを作り上げた時代の寵児の2代目が!

金子:そう、新型ベントレー・コンチネンタルGT。試乗中のガソリンが確保できないため、日本でのメディア試乗会は中止されたけど、受注は順調だって。

小沢:コイツの初代モデルの成功で、世界の超高級車マーケットは書き換えられたと言っていいですね。「2000万円でも安い」と言わせたから凄い。

金子:それまで、ごく一部の金持ちのクルマ好きにしか縁がなかった、浮世離れした超高級車が街でよく見る存在になった。ベントレーだけでなく、ロールスロイス然り、アストンマーチン然り。ブガッティやマイバッハなど、“復活”したブランドもある。

小沢:オオゲサに言えば一昨年出たフェラーリ・カリフォルニアにしろこれなくしては生まれなかったかもしれない。コンチネンタルGTが出る前のベントレーは80年間で販売約1万6000台、つまり単純平均で年200台だったのに、それ以降はコンチネンタルGTだけで年産3000台を超えるメーカーになっちゃった! ベントレー社の歴史を本にしたらコンチネンタルGT“以前”と“以後”と分けてもいい。それくらいデカい存在ですよ。一般的には「ベンツBMWより上」を広く認識させた。

金子:もともとの出自とそれに伴う事業展開規模や生産台数が違い過ぎるから、ベントレーとベンツBMWを上下という表現で比較しても、あまり意味はないよ。コージ君も知っているように、ベンツBMWはヨーロッパではタクシーやパトカーにも使われる“実用的な高級車”だからね。

小沢:でもまあ、コンチネンタルGTは、21世紀のオイシイとこ取りカーの象徴じゃないですか。ベースはフォルクスワーゲンが作った地味目なハイクオリティセダンのフェートンだけど、その上にイギリス様式をたっぷり盛り込んだベントレーのボディが載せてあって、その相性が超いい。ベントレーに足りないハイテクを、高級車の歴史がないドイツのフォルクスワーゲンが補ってて、まさに割れナベに綴じブタ!

金子:元をたどれば、以前は同じグループだったロールスロイス・ベントレー社を、フォルクスワーゲンとBMWが買収し合ったところまで行き着く。

小沢:アレって、いつ頃の話でしたっけ?

金子:1998年に、BMWがロールスロイスを、フォルクスワーゲンがベントレーを買収することでケリが付いた。ブランドの意匠権や生産設備の帰属など細かなことについては複雑な取り決めがあるんだけどね。

小沢:もう10年以上も昔ですね。でも、ベントレー自体は、80年以上も昔からありましたよね。なぜ今ごろ?

金子:BMWとフォルクスワーゲンの買収合戦は、ロールスロイスとベントレーだけを目的としたものではなかったんだ。1990年代中盤にアメリカとヨーロッパの自動車メーカーが一斉に買収と合併を繰り返すようになった動きの中のひとつだよ。

小沢:なるほど。セレブ同志の政略結婚のあげく、奇跡的に生まれた超優秀児みたいなもんか。家柄、見た目、中身と三拍子揃っていたと。



チャイナエディションの存在

金子:まあね。それとコンチネンタルGTが売れた理由はもう一つあってそれは新興国の存在。特に中国。あそこは既に年収1億円以上の人が1000万人以上いるって話で、多くの人がより優れたブランドを望んでる。比べるとヨーロッパなんかは既にクラスが固定してるから、ブランド品にしろそんなには売れない。ルイ・ヴィトンだって、以前は売り上げの4割(海外購入分を入れると5割以上)が日本だって話あったじゃない。今のブランドビジネスは確実に新興国あってのものなんだよ。悲しいかなここ数年、日本でのベントレー市場は3分の1になったけど、中国は10倍になった。中国のガソリン事情に合わせてエンジンをデチューンする必要があるのと、内外装に中国独自の好みを施したコンチネンタルGTの“チャイナエディション”というのがあって、赤ボディにグリーン内装とか、他の国ではあり得ないコンビネーションもラインナップされているんだって。

小沢:そんな色の組み合わせだったら、くれるって言われても僕は要りませんよ(苦笑)。

金子:コンチネンタルGTにチャイナエディションが設定される理由は、もうひとつある。中国の人は、どんな超高級車でも、注文して即納車じゃないと買わないんだって。だから、中国人好みの色であらかじめ造ってショールームに並べておく必要がある。

小沢:日本にだって、まだまだ「一番高いのを、いま持って来れたら買うよ」ってセールスマンにワガママ言うオヤジはいますよ。

金子:コンチネンタルGTに限らず、イギリスでベントレーを買う顧客の約8割は、イギリス中部クルーの本社工場に出向いていって、専任スタッフと話し合い、工場を見学し、素材見本を手に取って、自分好みの1台を納得いくまでオーダーしている。カタログに記されているボディカラーがコンチネンタルGTで42色、アルナージにいたってはなんと124色もある。内装の革やウッド、カーペットの素材など、ありとあらゆるものの中から選んで、“自分だけの1台”を注文するビスポーク文化なんだね。

小沢:中国は、その段階を飛び越しているから、即納じゃないとイヤなんだ。

金子:クルマに限らず、服や靴、鞄などの身の回りものを誂える文化は、衰えたとはいってもまだまだヨーロッパには残っている。

小沢:あれこれ考えてオーダーして、半年なり一年先の納車を想像しながら楽しむんですね。金銭的にも精神的にも、余裕がないとできません。

金子:負け惜しみじゃないけど、日本でのベントレーの販売台数は中国にアッサリ抜かれたけど、お仕着せや定番的、無難な組み合わせを選ぶのではなく、自分好みの一台を仕立て上げようという顧客は日本で増えてきているっていうから頼もしいよね。


ステルスウェルスとは?

小沢:それはともかく金子さん。新型、率直にどう思います?

金子:どう、って先日乗ってきたけどますます良くなってるよ。特に足。熟成されてノーズが妙に上下するところとか、荒れた路面でのふらつきはほとんど無くなったね。

小沢:いや、そうじゃなくって、ぶっちゃけ、旧型とほとんど変わらないじゃないですか。特に見た目は。
 
金子:そこだろうなぁ一番の争点は。中身は本当に良くなってる。足はもちろん、エンジンも相変わらず6リッターW12気筒だけど、15馬力もパワーアップして575馬力になってるし、ボディは全幅で28ミリもワイド化してあって、にもかかわらず材料変更で65kgも軽量化。環境にも配慮してあるという。

小沢:といっても車重、相変わらず2・3トンじゃないですか。確かにスーパーフォーミングって手法で型を使わずフェンダーにしろ、昔より繊細かつエレガントな曲線を出してるけど、それは非常にツウな目線で、素人さんから見ると「えっ、どこが変わったの?」って感じ。

金子:あのさ、小沢さ。ステルスウェルスって知ってる?

小沢:ステルスってあのステルス?

金子:そう、姿の見えない米軍偵察機の事で、既にヨーロッパのファッションジャーナリズムの間では当たり前の言葉。例えば何の変哲もないセーターなんだけど、素材は物凄く上質なカシミアだったりして、値段も5万円ぐらいしたりする。だけどブランドのマークは一切付いてないという…そういう服の価値がステルスウェルス。

小沢:わかった。要は分かる人には分かる高級、いや上質ってことですね。

金子:金子 その通り。正確に言うと新型コンチネンタルGTは、ノンブランドどころか世界最高峰のブランドだけど、こと控えめという点ではステルスウェルスに通じる。見た目は一見旧型と同じで、これ見よがしなところはまるでないけど、クオリティは物凄く上がってる。欧米にはそういうのを評価できるジャーナリストがいるし、実際に買うリッチマンがいるってことよ。

小沢:でもそれって中国じゃ売れないような気がしますけどね。

金子:いやだからさ。案外、今の日本に向いてるんじゃないかと思うんだよね。今ってお金使えるムードがないじゃない。でもある程度はリッチマンが確実にいて、そういう人にいい。

小沢:なるほど。まさに被災時代のリッチマンカーだと。

金子:お金持ちはさ、普通と全然違う目線を持ってたりするものなのよ。

小沢:イヤミだけどそういう人もいて欲しいですよね。今の日本。
(了)

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