短期連載 世界基準の仕事術 vol.1 【三木谷浩史×星野佳路×村上龍 スペシャルトークセッション】
記念すべき第1回目の受賞者には、三木谷浩史氏(楽天株式会社 代表取締役会長兼社長)と星野佳路氏(株式会社星野リゾート 代表取締役社長)が選ばれた。今回の審査には、シーバスリーガルアンバサダーで世界的著作家である村上龍氏も特別審査員として参加した。
そして、授賞式後にはアンバサダーとして参加した村上龍氏と受賞した両名が「仕事」について語り合うスペシャルトークセッションが実現。進行は元・フジテレビアナウンサーの内田恭子さん。
短期連載「世界基準の仕事術」の第一回目は、「カンブリア宮殿」以上に豪華な顔ぶれが揃ったこちらのトークセッションの模様をお届けする。
MC・内田恭子(以下、内田):まず、村上さんがお2人に対して持っているそれぞれの印象から伺ってもよろしいでしょうか?
村上龍(以下、村上):お2人とも以前に『カンブリア宮殿』に出演していただいたことがありました。そのときに感じた印象ですが、星野さんはとってもクールでストイックな方というイメージですね。人とのやりとりはとてもクールに振舞われるんですけれど、ビジネスの話になるとものすごく目が鋭くなって、それこそ獲物を狙う獣のような目になるんです。いい意味で動物的ですよね。そこで、以前聞けなかったので伺いたいのですが、クールなのか熱いのか、ご自身ではどちらだと思いますか?
星野佳路(以下、星野):自分自身をクールだと思ったことはないのですが、ストイックな部分はあるのかもしれません。ひとつのことに集中して「これだけは達成しよう」と思うと、そのためには生活のあらゆることを犠牲にしても「やってしまおう」と考えるタイプですね。そして、そんなところに喜びを感じてしまう自分でもあります(笑)
村上:おそらく優れた経営者というのは、熱さも冷静さも持っていないとダメなんだろうなと思いますね。クールでストイックな部分もありつつ、逆にホットな部分だけではダメだったり。両面あるべきなんだろうなと。
内田:では、三木谷さんの印象はいかがでしょうか?
村上:新しいビジネスの話をされているときには、すごくワクワクとした表情を見せて、いい意味で少年っぽい一面があるんですけど、逆にビジネスを進める戦術的、戦略的な進め方は、昔の中国の知恵者のような雰囲気がありますよね。石橋を叩いても渡らないような雰囲気とでも言いましょうか(笑) 逆に石橋がなければ「ジャンプだ!」っていう一面も感じられたりという、やはり両極端のバランス感覚をお持ちだと思います。
三木谷浩史(以下、三木谷):自身の中で慎重だったり大胆だったりと、いろいろな面はあると思います。でも、みなさんが思っているほど、判断や決断は大胆ではないと思っています。すごく大掛かりなプロジェクトを「失敗してもたいしたことないから進めよう!」といった大胆な判断もすれば、契約事項のほんの1項目を変えることをものすごく悩んで躊躇することもあります。周りのみんなには小さな判断に思われるかもしれないけど、将来的にものすごく大きなインパクトのあることが起こる原因になりそうがだ、とか考えてみたりですね。
村上:そのような“判断”をされるときには、自分自身の直感はどの程度信じていますか?
三木谷:直感である程度決めたものの中でも、後で冷静になってひとりブレストをしてみたり、あるいは周りの人に「どうかな?」って聞いて、その判断を変えることもありますね。
村上:いままでカンブリア宮殿という番組に出演された経営者の方々は、一様に「利益最優先ではない」と仰っていました。たとえばお客様第一主義であったり、社会的存在意義のほうが優先事項であったりとか。でも赤字では経営は成り立ちませんよね。お2人も以前はそのように仰っていたかと思いますが、利益最優先ではない中で、どうやって利益を引き出すのかを伺いたいのですが?
星野:ちょっとわかりにくいかもしれませんが、目標の中での最優先項目はやはり利益です。日本の観光産業の場合ですが、お客さんの満足度というのはとても高いんです。問題なのは利益。日本の観光産業は安定した需要があるにもかかわらず収益が出せないことが問題なんです。つまり、収益を出せる能力を我々は追い求めて行くべきだと考えています。そういった意味では、やはり「収益が最優先」となりますよね。何でもいいから売る、ということではなくて、きちんとした収益を出す能力を身に付けていくことが大事だという姿勢でビジネスをしています。
三木谷:ウェブサービスの場合で考えがちなのは、利益を出すために研究開発費を削るという選択です。研究開発費を削ると目先の利益は上がりますが、目まぐるしく動くこの業界では、他から優れたサービスが出てくる可能性が大いにあるので、賢い選択ではないですよね。そういった意味でも、中長期的なビジョンを持って経営していくことが重要だと思います。それに、利益ばかりを追い求めていると、お客さんの満足度は下がってしまいますから。
村上:結局はそういった点を理解されているからこそ成功なさっているんですよね。
―――大事なのは仕事に対する夢とかワクワク感を持っているかどうか(三木谷)
内田:先ほどお2人とも個人の性格で両極端な面を持っている、というお話を伺ったのですが、それをうまく使い分けていらっしゃるからこそ、経営の部分でもうまくいくんでしょうね。
村上:僕は今のお二人のお話を聞いて、ますますわからなくなってしまったんですけど、利益は最優先ではあるが、他に重要視することもあるということですよね。
三木谷:収益という意味では、「中長期的に安定して持続可能な収益モデル」が重要だと思います。インターネットというのは成長産業ですから、将来に対するビジョンを明確にすることはとても大事ですし、将来的な利益はとても大事ですよね。そして、ビジネスでお金を儲けるとともに、社会的なインパクトがあることも大切なことでしょう、事業ではあるけれど、事業でないという。そういったことを進めることで、どうやって世の中の人に会社としてのメッセージを伝えていくのかも大事ですよね。特にインターネット業界はその傾向が強くて、いま話題のフェイスブックの理念だったり、スティーブ・ジョブスが報酬1ドルで仕事してたりってこともありますよね。意地というか、既得権益への挑戦のポーズだったり。
村上:以前、番組に出演されたときに仰ってた「仕事でワクワクする感覚」というのもそのひとつですか?
三木谷:そうですね。会社という新しい製品を作ることでワクワクしている感覚でしょうか。
村上:ワクワクして、利益が上がれば最高ですよね
三木谷:ワクワクしないで利益が上がっても……まあそれはそれでいいんですけどね(笑)。だったら別の人がやればいいかなとも思いますし。
内田:私からもひとつ伺いたいのですが、お2人が事業をされていく中で、ワクワクする企画、そうでもない企画という両方があるかと思いますが、どちらがうまく進みますか?
星野:まず、先ほど三木谷さんが仰ったように事業を通して達成したい世界観というものがあるんですよ。私にしてみると日本文化の継承といったものでしょうか。親切できめこまやかな日本人のよさがありながら、今は外資系のホテルが多いですよね。おもてなしということであれば、もっと日本企業が出てきてもいいんじゃないか、という意地みたいなものもあります。仕事にワクワクする気持ち、というのは私たちにとっての仕事のやりがいとかモチベーションだったりすると思うのですがそれはもちろん、経営者だけではなく最前線にいるスタッフにとってのワクワク感が大切だと思います。「私たちはどこを目指しているんだろう」という点が明確にわかって、そこに一歩でも半歩でも近づいている実感があると達成感があって、努力する気持ちも沸いてきますよね。
三木谷:僕らがやっているウェブビジネスというのはものすごく流れが速くて、次々といろんなことが動いています。そして新しいものが出るたびに、あれやらなくていいのか?これは導入しなくていいのか?となるんです。そんなときに一番重要だと感じているのは、やれる人というのは、仕事に対する夢とかワクワク感を持っているんですよね。というのも、最初に思い描いていたものと全然違うものになることもあるんですけど、能力もそうですけど、そのサービスにのめり込んでやれてるかというところですよね。逆に言うと、そういう人は失敗しても、まあ一生懸命で失敗したのならばという気持ちになりますよね。
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