所有者の8割がストレスを感じている? スマホストレスの正体をさぐる


MM総研の調査によると、スマートフォンの出荷台数は昨年から急速に伸び、今年中には全携帯電話の出荷台数中の約半数にまで達すると予想されている。今年4月には、携帯電話購入者の半数がスマートフォンを購入した。そうしたスマートフォン普及の急拡大の中で、スマートフォン使用によるストレス機会が増加している。

より高機能で便利なはずのスマートフォンだが、アイシェア「グロスマ・ガラスマのユーザー特性に関する意識調査によると、所有者の86.4%が使用時にストレスを感じているのだ。

スマホストレスとは何か? 誰しも疑問に思うことだろう。

その秘密と正体について、ITジャーナリスト 神尾寿氏、杏林大学医学部精神神経科学教室教授 古賀良彦氏の講演があったので、ここで、紹介しよう。

■3つの指標でストレスを計測
ストレスはヒトの心理、身体の双方に影響を及ぼすものだ。心理面、身体面の両者のストレスを詳細に測定することにより、ストレスの強さを総合的に評価することが可能となる。

そこで今回の実験では、下記の評価と測定によるストレス指標を用いた。

1.VASテストを用いた心理状態の評価(VAS: Visual Analogue Scale)
心理面に与えるストレスの強弱を測定・検証する指標として、VASテストという、数直線上の左端をゼロ、右端を最大値として、気分などの心理状況を回答する手法を用いた。評価指標は、VASテストを通じた心理的負荷値(cm)となる。

2.唾液中のストレスマーカーの測定
身体面(内分泌系)に与えるストレスの強弱を測定・検証する指標として、唾液中のストレスマーカーを測定した。評価指標は、クロモグラニンA (CgA)蛋白補正値(pmol/mg)となる。

3.心拍計による心拍数の測定
身体面(自律神経系)に与えるストレスの強弱を測定・検証する指標として、心拍計による心拍数を測定した。評価指標は、心拍数の変化(bpm)となる。


■日常に潜むストレスを検証
今回、プレ実験として、日常に潜むストレス検証実験を行った。スマホストレスとの対照軸として、日常シーンに潜むストレスを検証した。また「安静時」として都心オフィススペースで10分間、安静にして座位の状態のストレスレベルを測定した。

具体的には、満員電車の乗車ストレス、計算問題を解くストレス、針の穴に糸を通すストレス、箸で細かいものを掴むストレスの4つを検証した。

結果は、総合的には「満員電車の乗車」と「針穴糸通し」でストレスが強くみられた。「満員電車の乗車」は心理的ストレスと内分泌系ストレスが強く、「針穴糸通し」は心理的ストレスと自律神経系ストレスが強くみられた。


■通勤ラッシュ時の「繋がらない」ストレスを検証
「繋がらない」「繋がりにくい」あるいは「うまくいかない」というスマホストレスを、日常ストレス「日常生活に潜むストレス検証実験」と比べてみるために、スマホストレスを検証した。

通勤ラッシュ時の「繋がらない」ストレス検証実験では、東京メトロ丸ノ内線 赤坂見附 - 新宿間で、夕方ラッシュ時(17時〜19時)に約10分間・立位で、満員電車内でのスマートフォンを使用するタスク遂行実験を行った。

被験者が満員電車内で実施したタスクは、下記のとおり。
1.添付ファイル(約300KB)付メールを受信・開封(ダウンリンク負荷)
2.添付ファイル文中にあるURLをタップしてブラウザを開く
3.ブラウザに表示されたボタンを押し終了(アップリンク負荷)

検証内容は、下記のとおり。
検証1:「繋がらない」ストレスの強さ
・通勤時に満員の電車内でスマートフォンを使うことによって、どの程度のストレスが生まれているのか?
・安静時と比較して、どの程度のストレスの強さとなっているのか?

検証2:「繋がらない」ストレスと日常ストレスの比較
・通勤時の「繋がらない」スマホストレスは、どのような日常ストレスに相当するのか?
・満員電車の車内では、「立っているだけの場合」と「スマートフォンを使った場合」でどのようなストレス強度があるのか?

検証3:「繋がらない」ストレスの端末比較
・通勤時の「繋がらない」スマホストレスには、端末間でどのような差が存在しているのか?

結果だが、「繋がらない」ストレスの強さは、通勤ラッシュ時にスマートフォンが「繋がらない」という心理的・身体的ストレスは非常に大きいことがわかった。特に心理的ストレスと内分泌系ストレスでの上昇が著しい。安静時に比べて、心理的ストレスは3.9倍増、内分泌系ストレスが2.2倍増、自律神経系ストレスが7%増となった。


「繋がらない」ストレスと日常ストレスの比較だが、通勤ラッシュ時にスマートフォンが「繋がらない」ことによる心理的ストレスは、日常ストレスの約2倍に相当することがわかった。

通勤ラッシュ時にスマートフォンが「繋がらない」ストレスは、単にラッシュ時に通勤するよりも、内分泌系ストレスの高まりが見られた。「針穴糸通しを10分続ける」以上のストレスであることが明らかとなった。


自律神経系ストレスでは、日常ストレスとの間に大きな差は生まれなかった。一方で、通勤ラッシュ時にスマートフォンが「繋がらない」場合、単にラッシュ時に通勤するよりも、若干だが自律神経系ストレスは強まっていた。
また、「繋がらない」スマホストレスでは、心理的ストレスで端末間に差が見られた。


通勤ラッシュ時の「繋がらない」ストレス検証実験をまとめると、日常生活における様々なシーンで、そのストレスレベルを測定すると、満員電車への乗車は日常の中でもストレスが強い活動である。

満員電車に乗車し、更に回線が繋がらない状況でスマートフォンを使用すると、ストレスはかなり強まる。そのときのストレスレベルは、日常ストレスと比較すると、心理的ストレスで約2倍になる。


■非ラッシュ時の山手線内ストレス検証実験
非ラッシュ時の山手線内ストレス検証実験では、JR山手線内全駅・主要ターミナル間(外回り)非ラッシュ時(20時〜23時)に線内を1周し実施・立位で行った。

疲労による影響を排除するため、スタート地点を3箇所(上野、品川、新宿)に分けて実験を実施した。

山手線内でのスマートフォンを使用するタスク遂行実験は、下記のとおり。
1.Webページ(文章・静止画)閲覧実験
・ブックマーク上に登録されたWebサイトを開く(ダウンリンク負荷)。
・Webサイトが全て表示され、一番下まで閲覧(スクロール)後、ブラウザを閉じて、Facebookアプリを起動。
・各端末に予め保存された写真(100kb)をFacebookに投稿する(アップリンク負荷) 。

2.動画視聴閲覧実験
・事前に受信したメール本文中にあるURLからYoutubeの動画を開き、Youtube専用ブラウザで視聴する(ダウンリンク負荷)。

検証の内容は、下記のとおり。
検証1:山手線内で感じる「繋がりにくい」ストレスの強さ
・山手線内でスマートフォンを使って感じる「繋がりにくい」ストレスは、どの程度なのか

検証2:山手線内のストレス最大区間
・山手線内でスマートフォンを使って感じる「繋がりにくい」ストレスは、どの主要ターミナル間・駅間で特に強いのか

検証3:ストレス最大区間と日常生活のストレス比較
・日常ストレスと比較してどの程度のストレスの強さなのか

検証4:山手線内における動画視聴ストレス強さ
・山手線内でスマートフォンによって動画を視聴すると、どの程度のストレスが生まれているのか?
・そのときの端末差は?

結果だが、JR山手線内の殆どの区間では、端末を問わず「繋がりにくい」ストレスを感じやすい。これは、例え電車が空いていても、スマートフォンでイライラすれば、「満員電車に乗る」以上のストレスを感じていることになる。


総合的にみると、「品川〜渋谷」間が「繋がりにくい」ことに起因するストレスが強い傾向にあった。心理的ストレスについては、混雑度の影響の方が大きいと考えられる。なお端末間では大きな差は見られなかった。

駅間で見ても「品川〜渋谷」間にストレスの強い駅間が多く見られた。なお端末間で駅間のストレスの強さに大きな差は見られなかった。

「品川〜渋谷」区間のスマホストレスは、非常に強いことが明らかとなった。心理的ストレスは「満員電車への乗車」ストレスより約1.5倍強く、「計算問題」ストレスの約1.9倍に相当する。身体的ストレス(内分泌系)は「満員電車への乗車」ストレスより約1.2倍強く、「箸で細かいものを掴む」ストレスの約2倍に相当する。

山手線内で動画を視聴するストレスはWEB閲覧時(文章・静止画)と同程度となった。よって混雑具合に関わらず、山手線内で動画視聴時にイライラすると、「満員電車に乗る」以上のストレスになる。

動画視聴時には高速無線通信(WiMAX)対応端末が、ストレスを感じにくいことが明らかになった。iPhone 4 (3G)では、心理的ストレスが強くみられた(平均比で約2倍)。最も動画視聴ストレスが弱いHTC EVO 3D(WiMAX)と、ストレスの強いGALAXY S II(3G)では、身体的ストレス(内分泌系)の差は約2.6倍に達する。


まとめると、山手線内でスマートフォンを使うと、「繋がりにくい」状態になり、電車の混雑状態に関わらず、「満員電車に乗る」よりも強いストレスを受ける。

「繋がりにくい」状態での動画視聴についても、Webページ(文章・静止画)閲覧と同程度のストレスとなる。動画視聴時のストレスの軽減に高速無線通信(WiMAX)対応端末が役立つ可能性が示唆された。


■操作時の「うまくいかない」ストレス検証実験
実施場所は、都心オフィススペースで、日中(10時〜12時)・座位で行った。実験内容としては、スマートフォンを使用するタスク遂行実験(コントロール群はPCを使用してタスクを行う)を実施した。
※通信回線は全てWi-Fiを使用。

被験者が実施したタスク(10分間)は、課金とおり。
1.名簿から「氏名」「電話番号」「メールアドレス」をアドレス帳に登録。
2.架空のスケジュールをカレンダーに登録
3.「Yahoo!乗換案内」で特定の目的地に所定の時間に移動するための乗車時間を調べる
4.クイズに対して答えをGoogleで検索し、回答する

検証の内容は、下記のとおり。
検証1:「うまくいかない」ストレスの強さ
・操作がうまくいかないことで、どの程度ストレス負荷が生まれているのか?

検証2:「うまくいかない」ストレスと日常ストレスの比較
・PCと比較して、どの程度のストレスの強さとなっているのか?
・現スマートフォンユーザーと、非スマートフォンユーザーの間では、操作がうまくいかないことによるストレスにどのような差が生まれるのか?

検証3:「うまくいかない」ストレスの端末比較
・操作時の「うまくいかない」スマホストレスには、端末間でどのような差が存在しているのか?

スマートフォン操作が「うまくいかない」ストレスは、総合的にはPCよりもストレス値が高い。心理的ストレスでは約1.7倍に達した。一方で、身体的ストレス(内分泌系)については、スマートフォン使用時にPC使用時を上回るストレスは見られなかった。

スマートフォン操作が「うまくいかない」ストレスは、心理面で日常ストレスの約1.7倍〜2.3倍に相当する。
操作性に由来する「うまくいかない」スマホストレスは心理面で端末の影響を受けやすい(端末差が大きい:最大で約1.3倍)、HTC EVO 3Dは相対的にストレスが弱い傾向がみられた。

被験者に課したタスク正答数・正答率が最もよかったのは、HTC EVO 3Dで、「よりストレスが弱い端末」=「タスクをこなしやすい端末」という傾向がみられた。


まとめると、日常的な操作の際に発生するストレスをPCと「スマートフォンで比較すると、スマートフォンの操作による心理的ストレスは、PC操作によるものよりも強い。

同様に、スマートフォンの操作による心理的ストレスは、日常生活における心理的ストレスよりも約1.7倍〜2.3倍強い。

使用端末によって感じるストレスに差が見られた。原因は操作性(ユーザーインタフェース)の違いにあると考えられ、これはタスクの正答数にも明確に示された。

実験結果を総括すると、下記のとおり。
1.一般的にストレスを解消するためには、楽しみを持ち、「夢中」になることが大切と言われる。
2.満員電車などでスマートフォンを操作する人は、「夢中」になることで、無意識のうちにストレスを回避しようとしていると考えられる。
3.しかし、回線状態や操作性によっては却ってストレスを強めることになる。


今回の実験結果により、スマホストレスを回避するためには、「繋がりやすく」かつ「操作しやすい(ユーザーインターフェース)」に優れた端末を選ぶ必要があるようだ。

スマホストレスラボ今後、1. スマホストレスに関する国内外の資料・データの収集と発信、2. スマートフォンに関する消費者動向の調査・発信、3. 公式サイト「スマホストレスラボ」(http://smartphonestress.com/)を通じた、以上に関する情報発信、4. 以上に関する各種メディアセミナーの開催 などを予定している。


スマホストレスラボ

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