“FAITH”が繋ぐ二人の心 - イーライ・ストーンとジョージ・マイケル -


 ―自分は何のために生まれ、何を成し得るべきなのか―

 誰しもの脳裏に一度はよぎるこの命題に、イーライ・ストーンは突如対峙して、上昇指向の強い野心家から弱者を救済する弁護士の道を歩み始める……。
 
 それにしても邦題の通り、“不思議”なドラマである。物事が起きれば二言目には“裁判”へと発展するアメリカらしい舞台で、一話完結の親しみ易い構造で展開されるプロットは、それでいてシーズン全体に通底する謎やテーマを持っている。そしてコミカルでファンタジックなストーリーによって“正義とは?”、“平等とは?”、“愛とは?”、さらに“神とは?”、“人生の使命とは?”と、毎回様々なテーマを視聴者に投げかける。時にコージーで、また時にはほろ苦い各回のラストの結び方は、さすが、名作ドラマの老舗・ABCスタジオと言ったところだ。

 映画『トレインスポッティング』で脚光を浴びた俳優・ジョニー・ミー・リラーが演じるイーライ・ストーンが幻覚(=預言)を見るシーンでは、お約束のようにポップスが流れる。キャロル・キングからエルトン・ジョンにアイアン&ワインといったアーティストの楽曲が流れると、画面はさながらミュージカル映画のような楽しさとなるわけだが、なかでも重要なキーとなっている存在が、本人まで登場してしまうジョージ・マイケルその人である。

 物語上の理由としては、イーライの初体験(笑)が関係しているわけだが、実のところ、何故この作品にジョージが大きくフィーチャーされたのかを筆者は知らない。だが調べてみると、ジョージは1950年代にイングランドに移住したギリシャ系キプロス人の父と、ユダヤ系の母との間に生まれたらしく、子供の頃から内気で、自分の中で「ジョージ・マイケル」という架空のヒーローを想像し続け、後に自分が世界中を席巻することとなるボーカルデュオ “ワム!”によるデビューの際に、もう一人の架空の自分として、「ジョージ・マイケル」を名乗ることにしたのだという。 

 そう、ここからはあくまで筆者の勝手な妄想なのだが、名前を変えることでスターダムの階段を登り始めたジョージと、幻覚を見始めてから、それまでとは違った生き方を選択して、徐々に自分の人生の使命を問うて行くイーライには、どこか通じる部分があるような気がしてならない。もし仮に実際のキャスティングの理由に“お仕事的”な背景があったとしても、劇中におけるその存在感のハマりの良さと、ショウビズの頂点と底辺―つまり酸いも甘いも―を経験した彼の経験に裏打ちされた台詞はなかなかの説得力を持っている。いずれにせよ、いやはや絶妙な設定ではないかと筆者は膝を叩いた。

〈そうさ信念を持たなくちゃ/僕は信念を持って誠実に生きるんだから〉

第1話で使用されるジョージの代表曲「FAITH」(1987年)で彼はこう歌っている。世界的ヒットチューンを生み出すも、アイドル視され続けていたワム!に決別を告げて、ソロアーティストとしての第一歩を踏み出したジョージにとって、この「FAITH」はまさに決意表明のようなシングルだった。

 また同様に劇中で使用されている「FREEDOM」は、ワム!時代の大ヒット曲「FREEDOM」と、敢えて同じタイトルを用いて、まったく異なるトーンの“自由(=フリーダム)”を歌った曲。過去の自分と現在の自分、その対比を暗示しているかのようにも取れる。そして1987年のリリース当時もセンセーショナルな話題を巻き起こした「I WANT YOUR SEX」という楽曲に至っては、まるまる一話分のエピソード(第9話)を担って、ジョージ自身も本人役としてノリノリの出演を果たしている(これは本当に見物!)。

 イーライは決してヒーローではない。むしろ野心家弁護士の道を脱線することで、どんどん人間としての弱さが露呈されていく。それは弱者の救済やタブーとされる弁護事案に関わる上での、自身の信念の“強さ”を問われる上で必然的なプロセスとして丁寧に描かれている。そんなイーライの物語をバックグラウンドで盛り立てるジョージ・マイケル。本稿で少しだけ彼に触れてもらうことで、さらにドラマを楽しんでいただけたら、妄想好きの筆者も存外の喜びである。

内田正樹 プロフィール
フリー編集者/ライター。前:雑誌『SWITCH』編集長。(現:コントリビューティング・エディター)他にも数々の雑誌を経て、現在は『IQUEEN』、『onyourmark』にも参加中。また椎名林檎、スガシカオ、桑田佳祐などのオフィシャルインタビュアーを担当。他にもファッションページのディレクション、コラム執筆など多方面で活動中。

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