【対談】:「想像力が作り出す日本人の伝統美」大河原邦男(メカデザイナー)×矢嶋千鶴子(伝統工芸品産地プロデューサー)


1979年の初登場以来、世界中でファンを魅了し続けるガンダムシリーズ。その魅力は、やはりメカデザインにあると言っても過言ではないだろう。同作品においてメカデザインを手がけた大河原邦男氏を迎え、イマジネーションの原点を聞きながら、日本人に手工業の今後のヒントを探るというトークイベント「想像力が作り出す日本人の伝統美」が、銀座アップルストアにて開催された。大河原氏自身、アップルのマッキントッシュやiPhoneのフォルムに魅了され、プロトタイプではあるが、iPhone4のケースを自らデザインしたという経緯から、今回のトークイベントが実現した。
ナビゲーターは伝統工芸品産地プロデューサーである矢嶋千鶴子氏。日本のものづくりとリンクさせるべく、ものづくりの大切さと手工業の真髄に迫る。

◆プロフィール
■大河原邦男
1947年東京生まれ。東京造形大学卒。大手アパレルを経て、1972年竜の子プロダクション入社。『科学忍者ガッチャマン』以後はメカデザイン専門となる。その後、中村光毅と「デザインオフィス・メカマン」を設立。『タイムボカンシリーズ』を経て、1978年からフリー。サンライズ作品では『機動戦士ガンダム』『太陽の牙ダグラム』『装甲騎兵ボトムズ』などのリアルロボットアニメから『勇者シリーズ』などのスーパーロボットアニメのメカデザインを担当。玩具やゲームなどの幅広い分野でメカデザインの第一人者として現在も活躍中。
■矢嶋千鶴子
1956年4月17日生まれ。Do Justice代表。デザイナー/DTP Web クリエイター/イラストレーター。2008年「きものウェスタン」をはじめとする様々なラインアップを世界に発信。2009年3月、東京中目黒にブランドショップをオープン。Made in Japanの誇りがCoolと考え、日本伝統文化の継承を目的にNPO法人トラディションジャパンを旗揚げ。




矢嶋千鶴子(以下、矢嶋):大河原先生といえばロボット、メカデザインというイメージが強いのですが、まず一番最初に学ばれたのはテキスタイルデザインだと伺いました。

大河原邦男(以下、大河原):(東京)造形大学での授業では機織やドレス製作がメインでしたので、テキスタイルデザインの基礎的な部分を実践的に学びました。もともと造形大学は服飾の方向性が強く、コスチュームデザインというものにも力をいれている学校でしたから。

矢嶋:ソフトなファブリックを扱うところから、今に至るメタルや鉄といった硬質なものまで、ベースとなる部分があるものなのですね。

大河原:実際に布を染めて、裁断して、着物を作るという一連の作業はすべて経験しました。機織、染物がメインでしたけれど、ファブリックを使った最終的デザインというのはやはりコスチュームだろうという考えがありましたから。

絵の上手いやつらにはかなわないと思って溶接の免許を取りました(笑)


大河原:われわれのアニメーションの業界って、当然ながら絵の上手いやつらばかりなんです。それはもう天才的に上手いので、私がいくらやっても、周りの同僚スタッフたちにかなわないんですよ。でも、ものづくりに関しては自信があったので溶接の免許を取ったんです。アニメーター達ってものづくりの得意な人はいないので、ここに生きる道を見出そうと思って(笑)溶接の免許を持っているメカデザイナーって、おそらく私だけだと思います(笑)

矢嶋:私はNPO法人で日本の伝統文化の普及・促進という活動をしているのですが、江戸時代ってとってもクリエイティブな時代だったと思うんです。基本的に江戸の庶民というのは贅沢な暮らしはしない人々で、着物に関しても「48茶100鼠」といって48種類の茶色、100種類のねずみ色を使い分けて、決して派手さはないにも関わらす、地味なものにも深みを持たせるということをやってきたわけです。とても窮屈な中でもへこたれないという気概ですよね。

大河原:窮屈であればあるほど、職人ってやる気を出す人種なんですよ(笑) 与えられたフィールドと素材だけでどうやってやるのかというところにやりがいを感じるものです。こんなにも厳しい条件で、こういうものを作っちゃったぜ、ということを職人仲間に向けてアピールしたい気持ちというものが常にありますから(笑)

矢嶋:モノが大量生産されていない時代では、茶碗の絵付けひとつ取ってみても「これでどうだ」って、ひとつひとつやっていたわけですもんね。

大河原:ただ緻密に作るというだけでなくて、細かな部分に職人の遊び心が加えられていたわけですよね。多分ですけど、職人たちはニヤニヤしながら作っていたんだと思いますよ(笑)
メカデザインの制作過程でも、甲冑、武士の髪型、仏像などといったものをモチーフにすることがあります。自分が作り出すものというのは、子供のころから見聞きしたものが、頭の中で再構築されて出来上がるわけですよ。言ってしまえば、ガンダムなんてものは全然新しいものではなくて、江戸時代からのものを再構築して引き出しているということなんです。よくよく見るとガンダムの頭の上にはちょんまげがありますし、兜の角飾りもありますから。

矢嶋:そういったものづくりに対するワクワク感を持っている人の最右翼といえるのが、アップル創業者であるスティーブ・ジョブス氏でしょうね。先生のお宅にお邪魔したときに、Macのキーボードを「これは素晴らしい」と褒めていらっしゃいましたよね。

大河原:そうですね。アップル製のキーボードは無駄がなく、そして美しいです。iPadを購入したときにタッチパネルの入力が億劫だったので購入したのですが、本当にいいものでした。

高度経済成長期には日本はアップルだった!?


大河原:『科学忍者ガッチャマン』が登場した70年代という時代では、アニメの中に出てきた「腕にモニターがある」ということは「ウソ」だったんですよ。携帯電話なんてものもお金持ちか一握りのビジネスエリートしか持っていない時代でしたから。
いままで私自身も携帯電話は持っていなかったんですよ。基本的に自宅で作業していますから、家の電話があれば十分でした。でも、今回、iPhone4のケースをデザインするというチャンスを頂いたので、早速購入してみたのですが、やっぱりパソコンをもっているような感じで楽しいですよね。これにお金を使うから、きっとプラモデルが売れなくなってくるんでしょう(笑)

矢嶋:ものづくりって、すべて商業に関わる場合がほとんどですが、利益を追求しないといけないので、自由にできない場合がほとんどなんです。コストやいろんな制約がありますからね。だからなのかもしれませんが、いまの工業製品って個性がなくなってしまっていますよね。

大河原:いまは小さな町工場から生み出される製品には個性的なものが多いですよね。憶測ではあるのですが、受注・生産の方法が大量生産型からwebでの個別生産に近い形になりつつあるので、採算をあまり考えなくてもできるものづくりに変わってきたのかもしれませんね。これからもっと変わっていくのだと思います。

矢嶋:そう考えるとアップルという会社は、スティーブ・ジョブスという人が作りたいものを作って、それが世界中で支持されているというものですよね。究極に作りたいものを作っている人ですよね。

大河原:昔はソニーもそうだったんですけどね(笑)高度成長期というのは日本が世界中に向けて「発信」していた時代だったんですよね。それを思うといまは悔しくてしょうがないです。つまり日本は昔アップルだったんだよってね(笑)そういうところは温故知新ではないですけど、もうちょっと見習いたいところですよね。

メカデザインという切り口から作ったiPhoneケース



矢嶋:大河原先生が作られたiPhoneケースをお持ちしました。こちら、早速ご説明していただいてもよろしいでしょうか?ちなみにこちらのは設計図を描かれて制作されるのですか?

大河原:いえ、私の場合はいきなり作っちゃいます。こちらのケースはアクリル製ですね。iPhone4をセットすると、背面の穴からアップルのりんごエンブレムが覗くようになっています。これはザクのモノアイを模しています。こういうディテールは職人が一番ニヤニヤして作る部分なんですよ。なるべく人に言わないところです。いま言っちゃいましたけどね(笑)

矢嶋:カバー背面にはきっちりエンブレムが見えるように穴をあけるんですね。

大河原:マックファンってこのりんごの存在ってすごく大事なんですよ。そのりんごを隠すということは、私にはできなかったですね。これはアルマイト製なんですよ。

矢嶋:アルマイトって、昔はお弁当箱の素材でしたよね。触ったときに懐かしい感じがしましたよ。

大河原:そうですそうです(笑)工業デザイナーというのは、洗練されたものを作るんですよ。私の場合、アニメのメカデザイナーという立場ですので、工業デザイナーと戦っても仕方ないわけですよ。そうなると何がアニメのメカデザイナーに必要かというと、キャラクタライズなんですよね。つまり遊び心とイコールなんですが、こういったようにわざわざ両方が外れるように作っておいて、ボルトで留めるような仕様にするんですよ。

矢嶋:ネジ留めされているというのは斬新ですよね。ガンダムでもボルトやネジというモチーフが多いですもんね。

大河原:最近、ガンダムとのコラボレーションをやりたがる人が多くて、それはとてもうれしいことなのですが、いま放映されているエースコックのCM、ガンダムがやかんを持って立ち上がるというあのCMなんですが、テレビで見て初めて知ったんです(笑)とっても遠くにお嫁に行ってしまった感じですね。2年前でしたか、お台場にガンダムが立ったときも、すでにプロジェクトが進んでいて、聞かされたのは完成の半年ぐらい前でしたからね(笑)本当に遠くに行ってしまいました。

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