【編集部的映画批評】登場人物は3人!エキストラも一切なし


 今回は、「アリス」についての批評である。しかし、ジョニー・デップの『アリス・イン・ワンダーランド』ではない。6月11日に公開される『アリス・クリードの失踪』についてである。この映画は、大手シネコンで大規模にガンガンかけるような大作ではないが、なかなか味のある映画である。

『アリス・クリードの失踪』

 誘拐犯と人質という3人の関係が、ひとつの嘘をきっかけに目まぐるしく変化していく緻密な脚本と、実力派俳優たちの名演が相乗効果をなし、手に汗握る緊張の連続と驚きの展開が繰り広げられる。次回作として、『ダークナイト』の脚本家ジョナサン・ノーランとの企画が早くも発表されたイギリス新鋭監督による、クライムサスペンスドラマの傑作が誕生した。

冒頭約10分、全く台詞がない!

この映画は、誘拐犯の2人が、アリスを誘拐するための準備をするところから始まる。誘拐に必要な物品を購入したり、拘束するためのベッドを準備したりと、黙々と2人は作業をする。それが延々と10分以上も続くのだ。そして、全ての準備が完了して「行くぞ!」という感じに二人が短い言葉を発した後に、耳を割くようなアリスの悲鳴。この沈黙から悲鳴というギャップによって、一気に観客は映画の世界に引き込まれてしまう。新鋭監督のJ・ブレイクソンのこの才能には、圧倒される。

「誘拐される=弱者」ではない

普通、「誘拐された女性」と「誘拐犯の男性」と言うと明確な弱者と強者に分かれるであろう。しかし、この映画はそこが違う。これだけ聞くと「アリスってそんなに強いの?」と思うだろうが、そういうことではない。アリスは普通の女性(ちょっと気が強いが)だし、誘拐犯が貧弱ということでもない。ただし、アリスと誘拐犯の間の“ある関係”が判明したことにより、パワーバランスが崩れていく。そして、なんと誘拐されたはずのアリスが、逆に自分のために用意された身代金を手に入れるというチャンスも生まれるのだ。まだ公開前なので、ネタバレしてはいけないので、その関係を言えないが、3人の心理戦に注目である。

映画館の暗がりが最適

作品の内容的な話ではないが、この映画は、暗い場所で観ることをお勧めする。全体的に暗い場所のシーンが多いこの作品を明るい部屋で観てしまうと全く臨場感がなくなってしまう。それに暗い中だからこそ、微妙に牽制し合う3人の心理戦にのめり込めるのだ。映画館の暗がりがちょうど良いであろう。最近は、「3Dだから映画館で観ないといけない」と言って劇場に向かう人も多いだろうが、「迫力」だけが映画館の価値ではない。「暗がり」の力をプラスして映画を観るために劇場に行くのも一つの方法である。

 それでは、全体評価。脚本の奇抜度については、星4つ。冒頭の沈黙や3人の心理戦など「よくぞこのアイディアが出たな」と唸らされる。また、全登場人物が3人で、他に、エキストラ的な人物も全く出ないところもすごい。次にヒロインの姫っぽさについては、星を無しにしても良いくらいだ(笑)。王子様の助けを待ちます!みたいなことは皆無である。最後に、この映画、友達や恋人と観に行くというよりは、一人で観に行き、じっくり堪能、ウンウン頷きながら映画館を出てきて余韻を楽しむというのがあっている。勿論、複数人で行ってはダメということではない。玄人の一人映画としても楽しめるものであるということである。

ヒーロー妄想のカンタの所見評価

脚本の奇抜度:★★★★

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