伝統のバーボンウイスキーに学ぶコミュニケーションの秘訣


時代の移り変わりとともに、コミュニケーションの手段は変わっていくもの。そして、近年のコミュニケーションの主流が、顔を合わせるリアルなものから、バーチャルなものへと変遷していることも説明不要の事実といえる。しかし、顔を合わせるコミュニケーションが減っているのかと聞かれれば、決してそうとは言い切れないだろう。バーチャルコミュニケーションが増えたからこそ、人と人とが向かい合うことの重要性はかつてよりも高まっているのかもしれない。

“人と人の繋がり”を大切にし続けているブランドがある。アメリカを代表するプレミアムバーボン「ワイルドターキー」だ。同社でブランド誕生から変わらない味と製法を守り抜くのは、ジミー・ラッセル、エディ・ラッセルの親子。ファミリーカンパニーでないにも関わらず、親子でディスティラーを務める存在は欧米では非常に異色の存在だ。そして2人は、アメリカバーボン協会が定める殿堂入りを果たしており、父・ジミーが2001年に、エディが2010年9月に表彰されるなど、アメリカが認めるバーボンウイスキーアイコンというべき親子鷹なのだ。

今回は、2人が顔を揃えるという特別な機会を頂き、バーボンウイスキー造りへのこだわりから、親と子の絆、さらにはファミリーとしての存在までを聞いた。

親子でアメリカバーボン協会の殿堂入りを果たしたジミー・ラッセル氏(左)、とエディ・ラッセル氏(右)。(撮影:野原誠治)

――まずイメージ的な部分のお話からさせていただければと思います。“ワイルドターキー”と聞いてイメージするキーワードというのが“ワイルドターキー=バーボン=アメリカ”といったもので、すべてがイコールで繋がる印象を持っているひとが多いと思うのですが、そのあたりの“イメージ”に関してはご自身ではどう思われますか?

ジミー・ラッセル(以下、ジミー):ワイルドターキーはアメリカのもので、ワイルドターキーはバーボンである。そのことがしっかりと浸透していると感じますね。アメリカ、バーボンというキーワードとして連想していただくのは、つまり代名詞という捉え方をされているということだと思うので、非常に嬉しく、誇らしいことだと思います。

エディ・ラッセル(以下、エディ):付け加えるとすれば、そのイメージの先に「ワイルドターキー=プレミアムバーボン」というニュアンスが加わると、尚うれしいですね。

――プレミアムという言葉が出ましたが、他のバーボンと比べてプレミアムな部分はどこにあるのでしょうか?

エディ:まずは製造方法ですね。バーボンの製造方法というのは、アメリカの法律でとても厳しく定められているんです。そして、法律で決められているものよりも、さらに厳しい独自基準を設けて製造をしています。厳密な説明はここでは省きますが、こだわりの製法と熟成期間の長さが、プレミアムな部分と言えます。

ジミー:バーボンウイスキーは、コーンやライ麦といった穀物を原料としています。プレミアムなものを作るには原料にもこだわり、さらに熟成する樽にもこだわっているのです。ワイルドターキー1滴のために、すべてのマテリアルにこだわって造られているからこそ、プレミアムなのだと思います。

――その点がワイルドターキーの「オリジナリティ」であると言えますか。

ジミー:その通りですね。1954年に私がワイルドターキー蒸留所の門をくぐったときから、何も変わっていないし、何も変えていないのです。つまり、伝統的な製法そのものがオリジナリティなのだと思います。
そして、ワイルドターキーファミリー含めて一貫しているのは「近道はしない」ということです。品質の高い穀物と、いい樽を作って、時間を掛けて造るものなので、当然とてもコストが掛かります。しかし、クオリティを保つためにその手法を変えません。それこそが、ワイルドターキーのスピリットである「Top Of The Line(最高品質)」といえるのです。


――お話を伺う中で「伝統を守る」というキーワードが何度か出ましたが、親子で継承していくことに携わることも大きいですか?

ジミー:バーボン造りのスピリットを継承していくには「ファミリー」という概念がとても大切なものだと思っています。エディをはじめ、ワイルドターキー蒸留所にいるスタッフ全員が「ワイルドターキーファミリー」として受け継いでいくということです。人の手で作り、継承していくものなので、人が果たす役割というものがとても重要な意味を持っていると考えています。

エディ:伝統やバーボン造りなど、すべての事柄に人が介在するからこそ、伝統が受け継がれ守られるのだと思います。それは親子であり、ファミリーであるという考え方が大事だと思います。

ジミー:これは日本の製造業でも同じことだと思いますが、自分たちで造ったものに関しては、自信とプライドを持って世の中に出しますよね。我々も同じで、最高のバーボンを世に出すためにファミリーが共通意識を持って挑んでいるのです。

――お二人に伺いたいのですが、ジミーさんからエディさんへ引き継ぎたいもの、エディさんがジミーさんから受け継ぎたいものを、それぞれ教えてください。

エディ:私がジミーから受け取ったものは、すべての従業員に敬意を持って接するという姿勢ですね。そして、もうひとつは一貫性です。バーボンウイスキーの味の一貫性も当然ありますが、人としての一貫性、つまりその日の機嫌で人に接しないなど。

ジミー:彼に何かを特別に教えたということはありませんが、私自身はフェアであることを常に心がけています。自分自身、従業員、さらにはすべての物事に対してもフェアであれということです。私が彼に教えたのではありませんが、彼の振る舞いを見て感じられるので、自然と受け継いでくれたのだろうな、と感じています。そして、誇りを持って仕事をするということですね。人を貶めるのではなく、引き上げることを大切にしています。

――ファミリーであることが大事だと伺いましたが、多くの人と意識を共有する際のコミュニケーションの秘訣などあれば教えてください。
ジミー:一番簡単なことを挙げれば、蒸留所内では従業員全員がファーストネームで呼び合うコミュニケーションを取っていることですね。私も「Mr.ラッセル」ではなく「ジミー」と呼ばれていますから。簡単なことですが、たったこれだけのことでも組織の潤滑油になります。

エディ:いま蒸留所には100名程度のスタッフがいますが、私の場合は毎日、ほとんどすべての人とコミュニケーションを取るようにしています。そして、いつ誰が来てもいいようにオフィスのドアはいつも開けてあります。コミュニケーションをしっかりと取ることで、人と人は親密になりますから。

ジミー:蒸留所だけでなく、バーボン業界というのは業界全体がとても親密な繋がりを持っています。ですから、ワイルドターキーのスタッフだけでなく、他の蒸留所のスタッフでも、お客さんとも常に“Face to Face”のコミュニケーションを心がけています。


――ワイルドターキーのもっともおいしい味わい方を教えてください。
ジミー:この質問は世界中で聞かれますね(笑) 私はオンザロック、もしくはストレートで飲むことが多いです。これはあくまでも私個人の好みであり意見なので、みなさんは好きな飲み方で飲んでください。大事なことは飲み方ではなく「楽しむこと」ですから。
そして、私は世界中をあちこち飛び回ることが多いのですが、その国に着いてまずすることは水道水を飲むことです。水道水がおいしくない国では、氷は入れずに飲むことにしています。ちなみに日本の水は全く問題ないです。

エディ:私もオンザロックですね。日本では、バーで出される丸い氷が大好きなので、あの氷を目当てにオンザロックを注文します(笑)

――最後に日本のワイルドターキー愛飲者にメッセージをお願いします。

ジミー:私が初めて日本に来たのは25年以上前のことなのですが、日本のみなさんは当時から変わることなく、プレミアムバーボンとして楽しんでいただいています。そして、年齢層や男女問わず多くのファンがいてくれることに、とても感激しています。これからも我々が責任を持って出すバーボンウイスキーを、愛し続けて欲しいです。

エディ:ワイルドターキーにとって、日本のマーケットはすごく重要な市場ですし、しっかりとプレミアムバーボンを味わってくれる日本のみなさんにはとても感謝しています。私はこれからもジミーが造ってきたものを、何も変えずに造り続けていきたいですし、その中でスペシャル商品や限定品などもリリースしていきたいと思っています。

ワイルドターキー

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