異文化は刺激だ!現地に移り異文化を作品にした写真家たち【新-写真空間】


リコーフォトギャラリー「RING CUBE」で開催している「OVERSEAS 2011―世界を選んだ写真家たち― PartⅠ」 (2月4日〜2月17日)では、世界で活躍する3名の日本人写真家 亀井隆司さん、白井里実さん、宮本武さんが堪能できる写真展である。
日本だけにとどまらず、世界に飛び出し、異文化の刺激を受けた写真家たちは、写真の可能性を、さらに広げているようだ。


■亀井隆司さん「撮影後にモデルもハッピーだった作品」

ロンドンで活躍する亀井隆司さんは、人物をメインにしたアート作品を展示している。「普段はファッション雑誌、CDジャケットなどの写真を撮ることが多いので、このような形で展覧会を開く機会をいただけて嬉しいです」とのこと。

今回の作品は「撮影後にモデルもハッピーだったものを選んでいます。モデルから今日楽しかったと言われたり、写真がほしいと言われたりした作品ですね」と、モデルと壁を作らないスタンスが、亀井さんの作品に現れている。

ロンドン行きのきっかけは、音楽やファッションなど当時のロンドンのカルチャーが好きだったため。「大学では、デザインだったり、ファッションだったり、絵だったり、一通り基礎を学びました。中でも、一番合っていたのが写真だったんです」と、ファッションに関心が高いことが今回の写真にも表れているようだ。人物に存在感があり、創りこまれた美しさが感じられる作品となっている。

亀井さんは「次はニューヨークに行こうと思っています」と、新しい可能性、刺激を求める行動はと止まっていない。

今後は、「ファッション以外の写真で、興味があるものを撮っていこうと思います」とニューヨークでも新しい一面を見せてくれそうだ。

■白井里実さん「文化の違いを汲み取って作り上げていくアート」

日本にいたときは、「オーソドックスにポートレートを撮ったり、ストリートを撮ったりしていました」と、手を加えたりしない自然な流れで撮ることが多かった白井さん。「インテリアなどの雑誌や広告写真撮影の仕事も多かったため、撮影現場では作り込んでいました。構図のために物を置いたり、家具を動かしたり、現在の作品に生かされてますね」と、一見自然に見える作品でも、デザインが好きなことを生かした、かなり作り込まれた作品となっている。

ニューヨークは、「写真が活発で、アートのマーケットも大きく、アート/写真作品制作に集中したいと思い」決めたとのこと。1年ぐらいの滞在と思っていたところが、大学院でアートを学び、在学中からグループ展や個展で作品を発表していたそうだ。

今回の作品は、「微妙な文化の違いがテーマとなっています。日本では、洗濯物を外に干すのですが、ニューヨークだとランドリーで乾燥させるなとか、りんごは剥かないんだなとか、スイカ割りってないんだなとか。そういう日常生活で気づいた、小さな習慣や文化の違いからシーンを作ります」と、つい見逃しそうなテーマにも、しっかりこだわって作品にしている。

撮りたいものがあって、そこから物(被写体)を選んで並べ、友人と集って一つのモチーフからシーンを広げて作り上げていき、それに偶然性がプラスされた写真作品となっているのだ。

今後については、幅広いアート作品の多いニューヨークで、多くの人や作品から刺激されて作品制作していきたいとのことだ。

■宮本武さん「身構えない表情を引き出したポートレート」

航空会社での勤務経験を持つ宮本武さんは、休みのときに海外へ出かけていき、「きれいな風景などを残そうと、写真を撮り始めた。受動的ではなく、自分から何か作り出したい」という気持ちが写真を学ぶきっかけになったという。大学時代から旅が好きで航空会社に入っただけに、旅の風景やポートレート作品には経験が生かされている。

2009年からはパリに活動の拠点を移した。「自分を新しい世界に置いてみることで、新しい美意識や感性を磨けるのでは、と思ったのです。フランス文化は住んでみない事には分からないのでは、とも思いました。」と、実際のその国に移り住んで文化を吸収しようという行動力が宮本さんの作品に息づいているようだ。

住んでみると、現地の人は、フランス文化についての教養のレベルが高いことを感じたそうだ。しかし、今回の作品は、日本とフランスの文化背景の違いより、人間として、共有できる普遍的な思いを入れ込んでいるという。

作品は知人たちのポートレートを中心に選んでいる。「できるだけ、プライベートな空間で、その人自身の個性や感覚、感情ができあがるまで、カメラを持たずに普段の話をしますね。写真を撮るときにはリラックスしていますね」と素の姿が表現した写真となっている。

これからもパリで活動していく宮本武さん。「アジア、中東、アメリカなどを含めて違う文化の街で、ポートレートを撮って、何か発表できればと思っています」

海外と日本との違いを、実際に海外に移り住むことで写真というフレームに写しこまれている今回の写真展。そこから感じる文化を楽しんでみてはいかがだろう。

OVERSEAS 2011―世界を選んだ写真家たち― PartⅠ
2011年2月4日(金)〜2月17日(木)
11:00〜20:00(火曜日休館)※最終日は17:00終了
入場無料

亀井隆司
1977年群馬県生まれ。1997年に渡英し、2000年にはLondon college of fashionのFashion styling and photographyを卒業する。また2001年にはLondon college of printingのCreative media programを卒業。その後フリーランスでニック・ナイトのアシスタントを務めた。2009年より、FEMME に所属している。

白井里実
1996年武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科を卒業。2007年、International center of Photographyのフルタイム・プログラムに参加。2010年ニューヨーク市立ハンター・カレッジ芸術学部大学院修士課程修了。2011年4月にはドイツ、ミュンヘンのミチェコギャラリーでの個展、また8月にはアメリカ、ワシントンDCのスミソニアン・ナショナル・ポートレート・ギャラリーでのグループ展に参加を予定している。

宮本武
東京と香港にて外資系航空会社に勤務後、2002 年よりオーストラリア・メルボルンにて写真を学ぶ。2006年より拠点を東京に移し、エディトリアルを中心にフリーランスで活動する。2009年6月より渡仏し、現在はパリを拠点に国内外で活動している。

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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