絵画のように重なり響き合う景色 言葉にできない感覚を表現する【NEXT GENERATION】


新しい感性をもった作家が時代を切り開いていく。
若い作家にとって、その道は決して平坦ではない。挑戦的な企画の写真展を次々開催するリコーフォトギャラリー「RING CUBE」の「NEXT GENERATION」は、そうした新感覚の有望な若手写真家を支援する写真展だ。

日本では、写真コンテストなどで受賞した将来性のある若手写真家でさえ、その後発表の機会を十分に得られずに世に出られないケースが多い。こうした状況の中、無償で展示スペースを提供して新しい感性の有望な写真家を多くの人に見て、知って貰おうという思いから【NEXT GENERATION】はスタートした。

第2回となる今回は、まるで1枚の絵を見るように被写体を切り取る草野ユウさんだ。

分業が進んでいる写真業界では、撮影、現像、プリントなど、それぞれの作業を専門のプロに依頼することが多いが、草野さんは、フィルム現像や暗室でのプリント作業など、作品づくりの工程に関わる作業をワークショップなどでひとつひとつ学びながら、時間と手をかけて自身の作品づくりを試みる、手づくり作家でもある。

■絵画のように重なり響き合う景色 故郷への思いを表現
今回の展示は、2週間だが、1週毎に展示される作品が違うという。2つの作品群を一緒に展示する選択肢もあったが、撮影したときの「思い」の違いから、別々の展示方法を選んだそうだ。

草野さんの写真は、まるで日本画や、浮世絵、屏風絵を見ているような日本的な空間が表現された写真だ。
写真には西洋的な遠近法でダイナミックな空間を表現する作品が多いが、草野さんの作品は真逆だ。空間は圧縮されて、重なり合うように主張し合っているのだ。

1週目の作品、「海へ」:2010年9月1日(水)〜 6日(月)
この作品群は、訪れるたびに違う表情を見せる故郷の海と浜辺の空気感をすくい取った作品だ。ハイキー調に仕上げられているが、草野さん自身は、そうした意図はなく、撮影したときに自分に見えていた景色をプリントで表現した結果、こうした作品となったという。

響灘(げんかいなだ)。玄界灘(ひびきなだ)。
生まれ故郷、福岡の海。
帰省するといつも 父は私と母を釣り場の
海へと連れて行ってくれる。
静かに流れてゆく 海での時間。


2週目は、「佇む」;2010年9月8日(水)〜13日(月)
「海へ」とは一転して、旧家屋の中。芝居の舞台のように重なり合った家具同士の空間が圧縮され、独特の空間感を表現されている。絵画も描く草野さんの感性が、絵画のような写真世界を形づくっている。

もうすぐ取り壊される祖父母の家。
時間の流れに寄り添うように
そっと佇むその姿は穏やかで、
そこにある光、空気、時間とともに生きる
静かな息づかいが聞こえる。


草野さんは、これまでグループ展示が中心だったとのことで、今回が初の一人での展示となる。

そんな草野さんの制作活動の始まりとこれまでを伺ってみた。

■見たものから感じる、言葉にできない感覚を伝えたい
草野さんとカメラとの出会いは小学生の頃。その頃は身近な機械を分解することに夢中になっていて、カメラも分解の対象だったそうだ。そして、写真を撮り始めたのは中学生の頃から。使い切りカメラで身近なものや友人を撮っていたという。

大学に入ってから初めて中古のフィルム一眼レフを買った草野さんは、絞りもシャッタースピードもわからないまま、手探りで撮影していたそうだ。その実験のような感覚が楽しかったという。

また、幼少時代から絵を描くことが好きだった草野さんは、2001年から5年間、絵画を学んでいる。抽象画などを好んで描いているそうだが、絵を描く理由を聞いてみると、
「言葉で上手く表現できない感覚を、時間をかけて形にできるから絵を描きたいと思います。写真作品をつくりたいと思うのも、同じ理由です」とのこと。

草野さんは、言葉で気持ちを説明するのが苦手だそうで、そんな性格も作品づくりの原動力となっている。

■作品づくりの過程を大切にしたい
意識して写真づくりを始めたのは2006年頃。
美術館主催のモノクロプリントワークショップに参加したときに、暗室でプリントする面白さと奥深さに感動したこと、そして、人に写真を見てもらうために六切以上のサイズにプリントするようにとアドバイスを受けたことも転機だったという。

写真作品づくりのひとつひとつの過程に時間と手をかけることは、日常の時間の流れの中ではあまり効率的なことではないかもしれない。しかし、こうした写真作品づくりすべての過程を大切にしたいという思いから、草野さんのスタイルができあがった。

草野ユウ プロフィール
1976年 福岡県生まれ。東京都在住。
1999年よりドローイング、イラストレーションなどの
制作・展示を始める。現在は写真作品の制作を中心に活動中。


草野ユウ ウェブサイト

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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