年間1機種のiPhoneがAppleのシェアを上げていく理由【世界のモバイル】


調査会社ガートナーの2010年第1四半期(1-3月)の携帯電話販売シェアによると、ランキングの顔ぶれに大きな変動が起きている。

従来までの「トップ5社」という図式が崩れ、新たな勢力が顔を出している。

中でもBlackBerryが好調なResearch In Motion(RIM)はLGに次ぐシェア4位に躍進しているが、RIMの好調は一時的なものではない。その理由として昨年の同期から販売台数を約50%も増加させているところだ。本期の販売台数はついに1000万の大台にも乗った。端末ラインナップの拡充も続いていることから今後もRIMの勢いは止まらないだろう。

各社のシェア順位を見てみると、1位Nokia、2位Samsung、3位LGのトップ3は変わっていない。

一方RIMに抜かれたのは5位のSony Ericssonと6位のMotorola。シェア10位内の各社が昨年同期よりも販売台数を増やしている中で、この2社は30-40%も台数を落としている。両社は今後スマートフォンに特化していく動きを見せており、売上げの大半であったミッドレンジやローエンドモデルは、数が減っていくだろう。そのため利益率は上がるだろうが、シェアは今後さらに減少していくと考えられる。

各社販売シェア


さて注目のAppleは、昨年から販売数をほぼ倍増させ、ついにシェア7位に食い込んだ。Appleの昨年同期出荷数は337万台。今年同期は836万台に達している。Motorola(956万台)、Sony Ericsson(987万台)との差も約100万台でこの2社を抜くのは時間の問題だ。

Appleのシェア拡大は、iPhoneという優れた製品が支持を受けているためだが、夏に新製品を発表、それ以降毎月のように販売国を増やしている販売戦略が効果を挙げている。iPhoneは、年間でみれば「わずか1機種のみ」しか販売されていない機種にもかかわらず、売上げが落ちることなく通年での販売数を維持でするどころか、大きく販売台数を伸ばせているのだ。

さらに6月24日から発売されたiPhone 4は、従来のiPhoneよりもスペックが大きく向上しており、単体のスマートフォンとして考えても他社製品を大きく凌駕している。たとえばカメラは500万画素にすぎないが、ユーザーの利用実態を考えれば、この画素数でも十分に高性能だと考えるべきだろう。携帯電話で撮影した写真を大判で印刷するユーザーは多くないだろうし、WEBやSNSでの利用するユーザーが大半だ。必要以上に高画素化するよりも撮影後に写真を様々に加工できるアプリケーションが揃っているiPhoneのほうが、他社の高画素のカメラを搭載する携帯電話やスマートフォンよりも「高機能」と呼べるはずだ。

機能の上がったiPhone 4はこれまでのiPhone 3Gや3GSよりも売れ行きを大きく伸ばしていくだろうが、それを後押しするのが「iPhone 3Gの2年縛り」の終了だ。

Appleの販売戦略として、各国の通信事業者を通じて2年縛りの契約を行うことで、iPhoneの単体価格を大きく引き下げている。たとえばアメリカでは「iPhoneが199ドル」のようにアピールされているが、これはSIMロックがあり2年契約を行った場合の価格だ。SIMロックなし、単体の価格は例えば香港ではHK$538=約6万5000円となり、他社のスマートフォンと比べても決して安い価格ではない。だがiPhoneはこの「2年縛り」を基本とした販売を行っていることで、買いやすい価格を消費者に提供しているのだ。

そして今年7月以降、2年前にiPhone 3Gを購入した顧客の契約縛りが切れるわけである。携帯電話の買い替え意識調査報告などを見ると、iPhoneユーザーは次に買い換える端末も再びiPhoneである確率が高いという。昨年iPhone 3GSが登場したときは、iPhone 3Gを購入した客としては2年契約がまだ半分以上残っている状況であることと、3Gと3GSに大きな機能差が無いことから契約を解除してまで無理して買い換えることは無かっただろう。だがiPhone 4は従来のiPhoneとは全く違った、大きく進化した製品である。そのため2年縛りの切れたiPhone 3Gユーザーのほぼ全てがiPhone 4へそのまま機種変更して乗り換えていくと考えられる。

これから販売される国でもすでにiPhone 4のキャンペーンが始まっている


しかもこの「買い替え需要」はユーザー自らが買い換えを行うだけではなく、ショップへ寄ったついでに家族や友人も同時にiPhoneを買わせるという効果も引き起こす。つまり買い替えとは単純に新しい商品を購入するという行為だけではなく、販売店舗へより多くの消費者を引き寄せる効果も合わせ持っているのだ。

もちろん他社からも続々と対抗となる新製品が出てくるだろう。だがiPhoneは新製品の販売直後から一般メディアを含め大きな話題となる製品である。そのため同じ時期に他社が新製品を投入した場合、どうしても目立たなくなってしまうのである。そうなればiPhoneとの競合を避けて販売時期をずらす、という戦略をとる必要もでてきてしまう。

こうしたiPhoneを避ける対応により、さらにiPhoneに注目が集まる結果を招き、好循環がAppleにおきるのだ。今年第2四半期はiPhone 4への買い控えなどもあり、Appleのシェアは微増に留まるかもしれないが、夏以降は大きなシェア向上が見込まれるだろう。AppleとRIMが4位争いをし、「大手3社」に「スマートフォン2社」を加えた5社がマーケットシェア上位の座を確保する時代がやってきそうである。

山根康宏
著者サイト「山根康宏WEBサイト」

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