自然は美しい!人工知能の芋虫が世代を超えて進化する作品【注目クリエイター列伝】


話題のクリエイターを紹介する「注目クリエイター列伝」の第9回は、Flashクリエイター 奥田透也さんに登場していただいた。

奥田さんは現在、クリエイター集団tha ltdでFlash制作とデザインを仕事としているが、プライベートな時間は「alumican.net」という自分のサイトで、独自のFlash制作に没頭している。

■面白いと感じたFlashとの出会い
奥田さんのサイト「alumican.net」を拝見すると達人レベルであるFlash制作の腕前を見ることができるが、奥田さんが仕事としてのFlash制作を始めてから、まだ2年だというから驚きだ。そんな奥田さんがFlashに興味を持ったのは中学3年生からだという。現在は26歳ということで、10年以上Flashに携わっていることになる。

奥田さんが中学3年生の頃は、ちょうどインターネットをやり始めた頃でもあり、インターネット上にカッコイイFlashコンテンツも現れ始めた時期だ。それを見て、「自分もやってみよう!」と調べたところ、それがFlashで作成されていることを初めて知ったという。

すぐにFlashを作成するソフトを購入したそうだが、「その時点で、人生で一番大きな買い物だったのではないでしょうか。Flash 5でしたけど、4〜5万円はしました。」と、奥田さんは当時を振り返りながら苦笑した。

パソコンは、小学生の頃からNEC PC-8801を遊び程度で触っていたが、インターネットには繋いでいなかったという。その頃は、まだ開発はしていなかったが、ペイントソフトで描いた絵を、反転ツールを使って2コマアニメにするなど、現在、Flashでやっているインタラクティブなことをすでにしていたそうだ。

今でこそ、プログラミングで様々なFlashを制作している奥田さんだが、当時Flashアニメーションが流行っていたこともあり、最初はアニメーションの制作から始めたという。最初のプログラミングは、自分が作ったアニメーションに「Now loading」を付けたいがために、スクリプトを勉強したとのこと。

当時はActionScriptについての知識があまりなかったので、スクリプトの記述は取っ付きにくかったそうだが、「Now loading」を作ったところ、「非常に面白いな!」と感じたという。これがFlashゲームを作り始めるキッカケともなった。最初に作ったFlashゲームはコンピューターと自分のコマをぶつけ合うようなベーゴマチックなゲームだった。

■人とは違う発想で物事をとらえる
奥田さんは、物理演算を使ったゲームが好きだという。大学ではプログラミングを使って数学や情報工学を研究していたが、研究が煮詰まったときには突発的にFlash制作に夢中になるそうだ。

「カオスは好きですね」という奥田さんは、「一見ランダムな模様だけど、パラメータを決めると、そこに沿ったものが出てくる。式は単純ですが、すごく綺麗なところが好きです」と、カオスを好きな理由を語る。

最近、どのようなことに興味を持っているかを尋ねてみると、「見て楽しい。触って楽しいものを追求してますが、手法としてFlashは出来ることが多くなってきたので、人があまりやっていないマニアックな技術を使っておもしろいことがしてみたいです。発想が普通と違うものを積極的に考えています。」とのこと。

実際、ブラウザだけでFlashが作れるネットサービス「wonderfl」でチェックメイトというコンテストがあり、「美味しいラーメンを作ってください」という、お題があったそうだ。そのままFlashでラーメンを作ってもつまらないので、ラーメンのどんぶりが丸いことから、どんぶりをまわしてみたり、まわして具をのせていこうと考えたときに、オルゴールに似ていることに気がついたという。
「美味しいラーメンを作れば、良い音楽が流れる」というコンセプトで攻めてみるなど、お題に対してひとひねり加えたものを作るなど、奥田さんは研究分野では地道にいろいろと実験を積み重ねている。

最近の研究では、Flashがマイクからの音声入力を波形レベルで解析できるようになったことから音声処理に興味をもっているという。具体的には、音声を解析したり、音声を作り出したりできるところを開拓して行こうと考えているが、音声処理は専門外なので、まだ勉強中だそうだ。

自力でフーリエ変換してスペクトルをとるところまではできるが、そこから先でスペクトルを組み替えてボコーダーを作るところは研究段階とのこと。

奥田さんは理系の大学を出ていることから論文は抵抗なく読めることから日夜研究に勤しんでいるという。軽いボスチェンジャーくらいだったら、今でも作ることができるそうだ。

物理演算を使ったFlashについて語る、奥田さん物理演算を使ったFlashについて語る、奥田さん

■ロボット好きの奥田さんは、人工知能好き
奥田さん、「人工知能は昔から興味があり、ロボットがすごく好き」と語る。大学ではロボット工学も勉強していた。

「日本人的な発想かもしれませんが、人工知能というと、どうしてもロボットを切り離せません。」という。

しかし、奥田さんは昔から人工知能に興味があったわけではなく、Flashを始めてから人工知能のような何かを作りたくなったそうだ。

キッカケとなったのは、「アストロノーカ」「がんばれ森川君2号」などのゲームを作った森川幸人氏の書籍「マッチ箱の脳」で、その書籍を読み、人工知能を身近なものと感じ、一気に人工知能プログラムを組んでみた。

「言ってみれば、人工知能はただの学習ですが、高校時代から何回もチャレンジし、何回も挫折した。すでに10回くらい挫折しているんですよ。」と、人工知能への並々ならぬチャンレンジを語る。

人工知能については、大学に入り、機械学習や遺伝的アルゴリズムを習ってあらためて理解することができたという奥田さん。最近作ったFlashコンテンツは、人工知能を応用した芋虫が歩き方を自律学習するコンテンツだ。

このコンテンツは、芋虫は歩行パターンを遺伝情報として持ち、そのパターンを実際に動かして評価し、交配させて新しい世代を作る、これを繰り返していくものだ。

※ちょっと解説
芋虫は、同じ遺伝子が入ってくると、必ず同じ歩き方をする。その遺伝子が優秀か否かで、子供を残せるか否かが変わる。優秀な遺伝子は次世代に子供を残せるし、そうでない遺伝子はその世代で死んでしまう。
最初はランダムに遺伝子を与えると、むちゃくちゃな歩き方をするわけだが、偶然にも少し良い歩き方をする遺伝子があると、それが優先的に子孫を残していく。それを何百世代も繰り返していくと、何となく自然に歩ける遺伝子が残っていく。

ここでの良い歩き方の定義だが、どんな歩き方でもよく、そこには制限を加えない。一定時間内でより長い距離を移動できれば、それは良い歩き方と定義する。転がっても良いわけだが、世代を重ねるごとに転がる尺取り虫でなく、尺取り虫らしいものが残っていったそうで、「自然は凄い」と、奥田さんは感動したそうだ。

芋虫を選んだキッカケだが、シンプルで動きがわかりやすい点と動きの面白さだ。奥田さんは、このバージョンアップ版として、ユーザーが自由にかたちを作っていけるものを考えている。

芋虫の遺伝子について語る、奥田さん

インタビューの最後に将来の目標について、奥田さんにうかがってみた。奥田さんは、
「人を楽しませるインタラクティブなものを作っていきたいです。僕は絵や音楽を創るのは得意ではないので、触って楽しいというところで、人を喜ばせていけるような作品というのを世界中の人に見て貰えるように活動していきたいです。」と、奥田さんはどこまでもインタラクティブなFlashにこだわる職人気質なクリエイターだった。

そんな奥田さんは、ロクナナワークショップが主催するセミナーイベント「GEEKs Flash モーションプログラミング」に出演する。

■関連リンク
alumican.net
tha ltd.
ロクナナワークショップ
GEEKs in OSAKA
GEEKs in TOKYO

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