仮想化・クラウドの霧の中でIT日本の背骨が見えてくる技術者のしゃべり場を【デジタルネイティブと企業】


2009年は「仮想化」の年とも言われているが、ITニュースなどでも頻繁に「仮想化」というキーワードが飛び交っている。

一般の人にとって、仮想化という言葉は、驚くほどサーバーのコストダウンができるとか、業務の効率化ができるとか、魔法のように思っている人の少なくない。しかし、仮想化というキーワードは突然登場したキーワードではない。実はかなり以前から研究用途では仮想化技術は存在していたのだが、ここ1〜2年で急に実用として注目されてきたのだ。そうしたこともあり、技術者間でも現在の仮想化技術の最新状況は正確に認識されていないことも多く、実際の導入時に自社のシステムへの適性を見誤るケースもありえるという。

仮想化に限ったことではないが、ビジネストレンド化したため導入する経営判断が下されるケースはIT業界では過去にも幾度となく繰り返されてきたことでもある。こうした状況を改善するために企業間の壁を越えて技術者の情報交換と共有を計る活動が展開されている。

5月29日、仮想化技術の情報交換と共有を目的としたワーキンググループ「VIOPS」は、第3回のワークショップイベントを開催する。
今回のイベントを控えた、チェアマンでもある株式会社ネットワークバリューコンポネンツ 松本直人氏とボードの株式会社まほろば工房 近藤邦昭氏に現在の仮想化技術の状況と動向、そしてワークグループ「VIOPS」について伺った。

■小難しい話ができる場所を!- VIOPS は技術者のしゃべり場
VIOPSは、Virtualized Infrastructure Operators groupの略で、日本語でいうと「仮想化インフラストラクチャ・オペレータズグループ」となる。

松本氏に、VIOPSを立ち上げたきっかけを、お聞きすると意外な回答をいただいた。
「私も仮想化技術に携わる仕事をしていたのですが、仮想化について深くつっこんで話ができる場所がなかったんですよ。そこでないなら作ってしまえというノリで立ち上げたんです。それがちょうど昨年の8月ころでしょうか。」

仮想化技術が話題となっているが、実際にかかわる技術者は意外と限られるという。一つの企業内だけだと、仮想化技術について意見や情報交換を行いたくても相手がいないのだ。つまり企業の外に出て、他社や自社以外の技術者とコンタクトをとらないと情報の交換と共有はできないのだ。

また仮想化技術を導入しようという企業は、これから導入のためのオペレーターを育てようという企業も多く、オペレーター育成のためにも仮想化技術の情報を共有する場が必要だと感じており、このワークグループを通して仮想化技術のオペレーター育成に貢献できればという思いもあるという。

■サーバー内からネットワーク全体へ拡大する仮想化
仮想化技術の現状は、期待されている反面、イメージが先行し、誤解を有む可能性もあるという。

松本氏は、「仮想化にも用途と特性があり、仮想化だからといってやみくもに導入しさえすれば成果が出るというわけではありません。」と指摘する。

近藤氏も、
「ネットワーク全体を仮想化する方向に向かうと、一つの個体の中では収まりがつかなくなってきているんです。ネットワーク全体とか、地理的分散とかも考えて仮想化をとらえていかないといけないのです。
そうなると、運用技術とかも広く考えていかないといけないし、技術を共有していかないというネットワークの世界で行われてきたことが、仮想化の世界でも必要になっていると思います。」
と、業界全体で運用できる人材や技術の共有を進ることが、成果をだせる仮想化導入には必要になってきていると語る。
株式会社まほろば工房 近藤邦昭氏


ネットワーク全体で仮想化を導入することで、以前より大きなコストダウンやリソースの創出ができるようになった反面、導入時だけでなく運用面でも十分な技術と技術者がいなければ成果をだせないケースも出てしまうというわけだ。

■仮想化をバズワードとしないために
仮想化ととも最近、話題にあがるキーワードに「クラウド」がある。松本、近藤両氏は、クラウドの現状を例に仮想化の問題を指摘する。
「仮想化技術を使ったものとして『クラウド』がありますが、これは仮想化の技術を使ってリソースを切り出してサービスに落とし込んでますよね。つい先ごろマニフェストを作成して標準化して情報を共有しようという動きがありましたが、大半の技術者が賛同しませんでした。オープンであったものを企業ベースで囲いこむことへの反発もあり、うまくいきませんでした。」
近藤氏と松本氏


ただ、こうしたマニフェストが提案される背景には、ネット全体へ拡大する仮想化と同様にクラウド自体にも課題も隠されていると松本氏はいう。
「標準化しようというマニフェストの問題提議にも評価する面はあって、クラウドが普及し、あちこちでクラウドができてくると、インターフェイスが違うクラウド間でデータの持ち方などをすり合わせないといけなくなるのです。さらに進めば複数のクラウド間の連結(横串)という流れても出てくるといわれています。ですから標準化していましょうという提案は上手な提案なのですが、もともとオープンなものをメーカー主導で標準化していこうというのは、技術者の立場からすると軽々には賛同できないものだったりもします。」、

松本氏も近藤氏も標準化は必要だが、コミュニティによる標準化が業界にとっては恩恵が大きいと考えているそうだ。

■仮想化もクラウドも使い方次第
松本氏は、仮想化でも、クラウドでも用途があり、使い方を間違えないことが大切だという。
「技術者サイドだけでなく、経営戦略の面からだけで仮想化やクラウドといった技術が導入されると、想定した費用対効果に結びつかないというケースだって起きることがあります。」

すべての新しい技術が最大のパフォーマンスを発揮する環境に導入されることが望ましいが、不幸にもそうでないケースも現実社会では避けきれないリスクの一つだ。このようなリスクを回避するためにも、技術者間の情報共有とオペレーター育成の重要性は高いといえる。

近藤氏は、仮想化技術は有益な手法だが、現在のコンピューターが提供するサービス自体に直接の変化を与えているものではないことを指摘する。
「仮想化技術は、集約し新しいリソースを生み出しているだけで、仮想化自身は提供しているサービスそのものには何も与えてはいないのです。実はそのあたりがエンドユーザーや経営陣などに見えないわけです。
『仮想化してるからこのサービスはすごい』といった錯覚も起きやすいわけです。」

仮想化は、導入することでサーバーやシステムの高集積化が可能となる。また、システムの改修、統合、最適化などをハードウェア制限や追加なしに行えるので、企業のシステム管理を柔軟に運用できるようになる。こうして最適化によるサーバー台数の削減に伴うコストダウン、保守における人員負担の軽減、システムの統合・分割・再構成などの変更の作業軽減と簡略化により、企業は余力をほかの分野に投資することでサービス強化や企業力の向上を図れるというわけだ。

■日本のIT業界の真実を見て聞く VIOPS
現在のIT企業および業界では、情報通信技術の進歩に伴い、仮想化技術によるシステムの高集積化が始まっている。その最新の方法として仮想化に注目が集まっている。しかし、なんでも仮想化しておけば安心とかいう風潮は、せっかくの仮想化技術を生かし切れない可能性も内在している。

VIOPSでは、そうしたリスクを回避し、システム管理と省電力化に対する課題を技術者間で共有することを目指しているわけだが、今のITシステムを支える技術者の情報には、日常では目にしたり、耳にしたりできないIT日本の背骨が見えてくる。

今回の取材でも、松本氏と近藤氏の会話の随所に、ここでは書けない内容が数限りなく登場している。
クラウドのビジネス、99.9%の安全性の幻想、サービス保持とレスポンスのマジック、ハードウェア好き民族の特性などなど、リアルな日本の根っこにふれる情報が次々と飛び出している。

松本氏が冒頭で語った、「こんな小難しい話を思いっきりできる場所が欲しかった」という気持ちが、リアルに理解できるひとときだった。

そんな刺激的な内容も期待できそうな「第3回ワークショップ」で予定される内容とこれまでのワークショップを最後に紹介しておこう。

日本の背骨をのぞきみたい人は、参加してみるとよいだろう。

■第3回ワークショップの内容:VIOPS-3 Workshop
VIOPS-3 Workshop

10:00-10:15 仮想化技術エリアマップ
株式会社ネットワークバリューコンポネンツ松本 直人
サービス全般の視点から必要とされる仮想化技術およびクラウド技術について整理・体系化した情報を短時間で提供する。
対象: Webサービス開発者、サーバー管理者、ネットワーク管理者

10:15-12:00 Webサービスが求める仮想化技術(仮)
株式会社ライブドア 池邉 智洋
株式会社はてな 田中 慎司
株式会社クララオンライン 白畑 真

Webサービスを作る側が実際に欲する仮想化技術を提示、その課題を洗い出す。Webアプリケーション作成の視点からプロセス、サーバー、ネットワーク、ストレージなどの仮想化技術への期待と現実を紐解く。
対象:Webサービス開発者、サーバー管理者、ネットワーク管理者

13:00-14:00 (タイトル未定)
パラレルス株式会社

14:30-17:00 Xen vs VMware 徹底技術比較(仮)
シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社 平谷靖志
ヴイエムウェア株式会社 小松康二
XenとVMware双方技術の立場から、互いの優れている点を強調提示するパネルディスカション。性能面、運用面、機能面、将来性など、オペレータが導入すべきシーンを想定した技術討論会。また仮想マシンをネットワーク化して利用したシーンを想定した仮想化インフラ全体としての議論にも言及。
対象: サーバー管理者、ネットワーク管理者

■これまでのワークショップ:VIOPS-1 Workshop、VIOPS-2 Workshop
下記から、これまでのワークショップの内容をダウンロードできる。

VIOPS-1 Workshop
VIOPS01:PHOTO
VIOPS01:μ-solator 床免震
VIOPS01:「急がれるI/O 統合、そしてI/O 仮想化そのわけとは?」
VIOPS01:ルータ・スイッチの仮想化
VIOPS01:VMwareによる仮想化とネットワーク
VIOPS01:仮想サーバーホスティング

VIOPS-2 Workshop
VIOPS02: 第一部 仮想データセンター構築を目指して!
VIOPS02: 第二部 ヴイエムウェア株式会社 小松康二様
VIOPS02: 第二部 シーゴシステムズ・ジャパン株式会社 尾方様
VIOPS02: 第二部パネルディスカッション
VIOPS02:仮想化・フォーキャスト
VIOPS02 開催風景


■【デジタルネイティブと企業】記事バックナンバー
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