繁栄か滅亡か!巨大なエネルギー「原子力」の未来【最新ハイテク講座】


「原子力」と聞くと、日本では原子力発電所の事故など、危険なイメージをもつ人も多いのではなだろうか。
しかし原子力発電は、資源が乏しい日本にとって必要不可欠なエネルギーともいわれており数多くの原子力発電所が現在も稼働中だ。

また海外に目を向けると、東芝の原子炉製造や北朝鮮の核無力化中断など、原子力発電に関わる話題はあとを経たない。
東芝、韓国の原発大手と提携…国際的建設ラッシュに対応 - IP NEXTニュース
<北朝鮮>核無力化中断「日朝交渉に影響」 家族会が懸念 - 毎日新聞

平和利用される原子力発電がある一方、原子力は兵器にも利用されている。広島や長崎に投下された原子爆弾は世界中で知られているが、今日でも最終兵器として軍事利用されている。恐ろしいことだが、現在の世界には地球を何度も破壊できるほどの原子爆弾が存在しているといわれている。

そこで今回は、神と悪魔の顔を持つ「原子力」を歴史とともにみてみよう。


■原子力の歴史
そもそも原子力とは何だろうか。そのエネルギーはどのように発見されたのだろうか。簡単にまとめてみた。

●原子力ってなに?
世の中にあるすべての物質は直径1億分の1cmの原子から作られている。原子はひとつの核と、その周囲をまわる電子からできている。

原子力は、この原子核が2つに分裂したり(核分裂)、2つの原子核がひとつになる(核融合)ときに生まれる「原子核エネルギー」の総称なのだ。


●放射線の発見
原子力の歴史は1895年、ドイツの物理学者ヴィルヘルム・レントゲン氏によるX線の発見から始まった。X線は波長が1pm〜10nm程度の電磁波で放射線の一種だ。物体にX線を照射して透過したX線をフィルムに焼き付けると、外からは見えない物体の内部の様子を知ることができる。このX線こそ、原子から発生するエネルギーなのだ。

フランスの物理学者ベクレル氏は1896年、ウランから発せられるX線と同様のビームを発見し、「放射線」と命名した。それから3年後、フランスの物理学者ピエール・キュリーとマリー・キュリー夫妻がラジウムを発見し、放射線の研究が本格的に始まることになる。

いずれの物理学者も人類史上に偉大な業績を残しノーベル物理学賞を受賞した人もいるが、当時は放射線による人体への影響がよく知られていなかったので、短命で生涯を終えた学者も多い。


●悪魔の力:原子爆弾の誕生
原子力発電や原子爆弾の元となる核分裂は1938年、ドイツの物理学者オットー・ハーン氏によって発見された。それから7年後の1945年、アメリカは人類最初の原子爆弾「ガジェット(The gadget)」を開発。ニューメキシコ州アラモゴード軍事基地の近郊の・アラモゴード砂漠のホワイトサンズ射爆場において「トリニティテスト」と呼ばれる核実験を行っている。

核分裂は重い原子核などの不安定核が分裂して2つ以上の軽い元素に変化する反応で、反応時にとてつもない巨大なエネルギーが得られる。ちなみに「ガジェット」とは、ちょっとした道具や小物を指す言葉だ。マンハッタン計画の目的を知らない人やスパイ活動による情報漏洩を避けるために原子爆弾の開発コードネームとして名付けられた。

原子爆弾が実際の戦争で使用されたのは太平洋戦争末期の1945年、日本の広島に投下された「リトルボーイ(濃縮ウラン型)」と長崎に投下された「ファットマン(プルトニウム型)」の2発だけなので、このときに得られたデータは今日でも放射線治療の貴重なデータとして利用されている。


●神の力:原子力発電の歴史
原子力発電は原子核反応時に生じるエネルギーを利用した発電だ。原子核反応には、核分裂と核融合の2種類が存在するが、商業用の原子力発電は主に核分裂が利用されている。

世界初の原子発電は1951年、アメリカの高速増殖炉「EBR-I」で行われたものとされている。このときに得られた電気は200ワットの電球を4個点灯しただけであったが、人類に灯した明かりは史実以上のものがある。

本格的な原子力発電が始まったのは1953年12月8日、アメリカのアイゼンハワー大統領が国連総会で行った原子力平和利用に関する提案「Atoms for Peace」以降だ。同提案は、それまで核兵器だけに利用されてきた核の力を原子力発電に向けるための大きな転換となった。

日本の原子力発電の始まりは1954年3月、当時改進党に所属していた中曽根康弘氏、稲葉修氏、齋藤憲三氏、川崎秀二氏により原子力研究開発予算が国会に提出されたことが起点とされている。ちなみにこの時の予算は2億3500万円。予算の根拠はウラン235にちなんだものだというから驚きだ。

通商産業省(現 経済産業省)の資源エネルギー庁が平成11年に発表した試算によると、原子力は火力※や水力に比べて1kWhあたりの発電コストが安価であり、1kWhあたりの二酸化炭素排出量は火力発電のおよそ1/30と水力発電に次いで少ない。
※LNG火力、石炭火力、石油火力



■神の力 原子力が抱える課題と今後
安全性をうたっている原子力だが、原子力発電所での事故はあとを絶たない。事故が起こると、いったい何が危険なのだろうか。また原子力に未来はあるのだろうか。

●放射能による被爆
原子力では、放射能を持つ物質(放射性物質)を利用しているが、人が放射能が出す放射線を一定量以上浴びると細胞に異常を起こして発がんや遺伝への影響が起き、死に至ることさえある。

たとえば、広島や長崎に原爆が投下時、運よく爆発を逃れた人の中にはあとから市街地に降り注がれた死の灰(放射能を含んだ灰)により命をおとしたり障害を背負った人も数多くいるのだ。

また、焼津のマグロはえ縄漁船「第五福竜丸」は1954年3月1日、太平洋のビキニ環礁においてアメリカの水爆実験「ブラボー」の「死の灰」を浴び、23人の乗組員全員が急性放射能症を発症している。
もっとも新しい被害では1999年9月30日、茨城県那珂郡東海村でJCOが核燃料加工施設で臨界事故を起こし、被曝による2名の死亡者を出している。

第五福竜丸の歴史をたどる - livedoor


●未来の原子力 - 常温核融合
現在の原子力発電は重い原子であるウラニウムやプルトニウムを利用するのに対し、核融合は軽い原子である水素やヘリウムを主に利用する。ウラニウムやプルトニウムは希少で入手や生成が困難だが、水素は自然界に多く存在しているので入手しやすく原子力発電で問題となる高レベルの放射性廃棄物が少ないというメリットがある。

身近な核融合の例は、太陽だ。太陽の中では、熱核融合反応によって水素がヘリウムに変換され、そのときに発生したエネルギーが地球に降り注いでいる。

そんな核融合は高温で高圧の条件下でなければ反応が起こらないとされていた。それが最近になって常温での核融合に成功したとの報告があった。ただし、追試で成功したとされる条件で現象が再現しなかったり理論的にはありえない現象であることから専門家の間では現在も物議をかもしだしている。日本の著名な物理学者である有馬朗人氏は「もし常温核融合が真の科学的現象ならば坊主になる」と発言したほどだ。

常温核融合の国際会議、ワシントンDCで開催:米海軍研究者らが主催 - WIRED VISION


原子力は原子力発電所のように平和利用すれば多大な恩恵を与えくれるが、原子爆弾のように人類を破滅に導く危険性も秘めている。原子力が人類にもたらすのは、繁栄なのか?、滅亡なのか?。

結論はまだでていないが、人類の未来は、我々の良識にゆだねられていることだけは確かなようだ。


参考:
原子力 | 原子爆弾 | 原子力発電 - ウィキペディアによる解説
高速増殖炉 | EBR-I | 放射能 - ウィキペディアによる解説
東海村JCO臨界事故 | 核融合炉 | 常温核融合 | 太陽 - ウィキペディアによる解説
経済産業省


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