【最新ハイテク講座】イージス艦からスピードガンまで!遠くの物体がわかる「レーダー」の不思議


2008年2月19日、千葉県野島崎沖で海上自衛隊の最新鋭イージス艦「あたご」とマグロはえ縄漁船「清徳丸」が衝突する事故が起きた。イージス艦は「電子の要塞」とも言われるハイテク艦だ。数多くの高性能レーダーを備えているが、レーダーの技術は軍事利用だけでなく、実は我々の身近な生活にも活かされている。

たとえば、自動車のスピード取締りで速度を測る装置や野球の球速を測定するスピードガン、魚の群れを確認する魚群探知機もレーダーの一種と言ってよいだろう。

このようにふだん意外な場所やモノで使われているレーダーだが、どのようにして対象物を察知しているのだろうか? 今回は知ってるつもりのハイテク技術、レーダーの不思議に迫ってみよう。

■レーダーの歴史と原理
レーダーとは、Radio Detecting and Rangingの略称で、「RADER」と表記されることが名前の由来となっている。ちなみに世界初のレーダーは、第二次世界大戦の初期のイギリス本土防空戦において、イギリス軍がドイツ軍機の接近をいち早く捕らえるために使用した対空警戒レーダーだと言われている。

●レーダーを支える技術
レーダーの原理は、コウモリを例にすると理解しやすい。コウモリは暗闇でもぶつかることなく飛びまわることができる。

それはなぜか? 実は、コウモリは超音波を発して、跳ね返ってきた超音波から障害物を認識しているのだ。

レーダーは自ら電波を発射し、物体に反射して返ってきた電波を受信することで、目標物の距離や方位、形状を測定する。もう少し詳しく説明しよう。

小学校の数学で、「道のり(距離)」を「時間」で割ったものが「速さ(速度)」であることを習っただろう。数式に直すと、「距離=速度×時間」となりレーダーから発射される電波は、光と同じ速度(cとあらわす)※で、目標物までの往復に掛かった時間をTとあらわせば、レーダーから目標までの距離Dは、下記のように表される。
※およそ秒速30万km(3×10の8乗m)

D=1/2×cT

D:距離
c:電波の速度
T:電波を発射してから物体に反射し、レーダーまで戻ってくる時間

目標までの距離を計算する方法はわかったが、方向はどのように知るのだろうか? 方向を得るためには、実指向性のあるアンテナを使用し、物体の方向を把握するのだ。船舶用レーダーには、指向性の高いアンテナを360度回転させて使用する。通常、物体に反射して戻ってきた電波(反射波)は非常に微弱なので、専用アンプで増幅させたのち、映像としてディスプレイに表示させている。

そういう訳で、レーダーの性能は強力かつ波長の短い電波と指向性の高いアンテナで決まるため、通常は電波にマグネトロン※を使用する。またアンテナには、鋭敏な指向特性が求められる。
※真空管の一種。レーダーや電子レンジに使用され、強力なマイクロ波を発生させる


■レーダーの性能を決めるアンテナ
驚くかもしれないが、今日のレーダーを飛躍的に向上させたのは、日本の「八木・宇田アンテナ」がもたらしたといっても過言ではない。

●八木・宇田アンテナ
八木・宇田アンテナは、第二次世界大戦中に東北帝国大学 工学部 電気工学科の八木秀次氏と宇田新太郎氏によって考案されたアンテナだ。魚の骨のような形状で、FM放送の受信やアマチュア無線の交信に使用される。開発当時の日本ではあまり重要視されなかったが、欧州では同アンテナの持つ高い指向性が着目され、レーダーの発展に大きく寄与している。

八木・宇田アンテナは、地上アナログ放送のテレビ用アンテナとしても使用されているので、名前を知らなくても、形はご存じの読者も多いであろう。左右に伸ばした直線状の導線を持つダイポールアンテナに導波器と反射器を設けたアンテナだ。電波を放射器に導く役目を果たす導波器は、本数が多いほど指向性が鋭利になり、受信できる電波の量が多くなる。

また反射器を取り付けることで前方からの不要な電波を遮り、前方からの電波を放射器に導く役割を果たす。この特性によりレーダーは狙った方向の反射波を多く取り込むことが可能になり性能を向上させた。


●パラボラアンテナ
八木・宇田アンテナと並んでレーダーに使用されるアンテナに、パラボラアンテナがある。パラボラアンテナは、放物曲面をした反射器を持つアンテナで、形状が料理などを盛る皿に似ていることから「ディッシュアンテナ」とも言われる。

パラボラアンテナの原理は、凹型の鏡面を考えると、わかりやすい。凹型の鏡面に光をあてると、光は凹型の焦点に集中する。これと同様の原理で、パラボラアンテナは電波を一箇所に集中させて受信できる訳だ。パラボラアンテナは高い指向性を持ち、反射器によって得られる電波も多いので、高性能な輻射器を必要としない。


■レーダーに適したアンテナは?
ところで、八木・宇田アンテナとパラボラアンテナとでは、レーダー用アンテナとして、どちらが優秀なのだろうか?

レーダーでは、遠くの物体を正確に捕らえるため、アンテナには高い指向性が要求される。まず指向性を考えると、パラボラアンテナのほうが構造上、八木・宇田アンテナよりも高い指向性が確保できる。さらにパラボラアンテナは、サイドローブやバックローブ※といった不要な輻射が発生しないので、放射する電波にロスがないというメリットがある。
※目的の方向への電波の放射で最大のものを「メインローブ」という。「サイドローブ」は、メインローブとは反対の方向に生じる不要な輻射。バックローブは、サイドローブの中で最大のもの

ここまでの話を聞くと、パラボラアンテナのほうがレーダーのアンテナに向いているように思える。ところが、レーダーは指向性にある程度の幅を持たせておかないと、物体を察知する効率が悪くなってしまうので、通常のレーダーでは八木・宇田アンテナを使用することが多いのだ。


参考
アンテナ - ウィキペディア
八木・宇田アンテナ - ウィキペディア
パラボラアンテナ - ウィキペディア

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