【気になるトレンド用語】ネットが使えなくなる? IPアドレス枯渇問題って何?


いまや生活に必要となったインターネット。世界中の人に利用されているわけですが、一人一人の人(コンピューター)をどうやって区別しているのでしょう。

インターネットは、接続したコンピューターごとに住所にも相当するIPアドレス(グローバルIPアドレス)が割り当てられます。これで接続されたコンピューターを特定できるわけです。しかし、現在のIPアドレスは、割り当てる数に限りがあり、携帯電話などインターネットに直接接続する機器が予想以上に増えてきたことで、近い将来足りなくなるといわれています。

今回は世界的にも問題となっている「IPアドレス枯渇問題」について見ていきましょう。

■IPアドレスがなくなると、どうなるのでしょうか?
IPアドレス不足は、具体的にはどのような問題を引き起こすのでしょう。
新規に接続するIPアドレスの在庫がなくなったからといって、実際にはすぐにインターネットが全く利用できなくなるということではありません。現在のインターネットサービスのほとんどは、接続の都度、サービスプロバイダがプールしているグローバルIPアドレスを割り当てられ、切断後はプロバイダにIPアドレスを返すことでやりくりしています。つまり、末端のユーザーが固定のIPアドレスを持たなくても機能するようにサービスが構築されているのです。そのため、限定的な影響があったとしても、なんらかの代替措置や機能でカバーできると言われています。

しかし、末端のユーザーに対して個別のグローバルIPアドレスが必要なサービス、たとえばオンラインゲーム、ケーブルTVなどの一部の映像サービスやIP電話などは、サービス市場の拡大次第によっては影響を受ける可能性があります。

また、将来的に到来するといわれているユビキタス社会、すなわち「パソコン同士だけでなく家電等のあらゆる物と物、人と物、人と人がネットワークでつながる社会」の実現には膨大な量のグローバルIPアドレスが必要になります。ユビキタス社会には、IPアドレスの枯渇は致命的なのです。

■IPアドレスはいつなくなるのでしょうか?
IPアドレス枯渇問題とはインターネットの発展に伴い浮上してきた問題です。現在使用されている“IPv4”というプロトコルでは近い将来にIPアドレスの数が足りなくなると予想されています。

IPv4は32ビット幅のアドレス空間をもっています。単純計算では43億弱の固有アドレスを表現できますが、特定ネットワークを示すネットワークアドレスと、特定マシンを示すホストを処理することやプライベートIPアドレスとして割り当てている領域の存在によりアドレスは瞬く間に減ってしまいました。

調査会社IDCによると、2012年までにインターネット接続機器が170億台に達すると予測しています。それらすべてに固有のIPv4アドレスを割り当てるのは、絶対に不可能なのです。

有名な枯渇時期予測の数字はAPINICのジェフ・ヒューストン(Geoff Huston)氏の予測モデルに基づくものです。同氏のWebページで公開している考察と統計データによれば、現在のペースでアドレス消費が進めば、IANA(インターネット Assigned Numbers Authority)アドレス在庫が2010年9月29日に枯渇し、RIR(Regional Interenet Registry)アドレス在庫は2011年7月23日に枯渇すると予測されています(2007年11月20日時点)。

■IPアドレスの消費現状
インターネット発祥の地である米国は、非常に広大な IPv4 アドレス空間を既に確保しているため、ある程度余裕がありますが、IPアドレス不足は、特にインターネット利用が後発になってしまった新興地域で非常に大きな打撃を与えることになります。

2007年11月時点でIANAが保持し、欧州やアジア、アフリカといった各地域のRIRに割り振ることができる、いわゆる“/8”アドレスブロックは42個となり、2000年の段階で100個以上残っていたものが半分以下となっています。欧州やBRICsをはじめとする新興国でブロードバンド接続が普及しつつあるため、RIRからのアドレスの割り当て要求は加速しています。例えば、アジア圏のアドレスを管轄するAPNICが2007年に割り振ったアドレスの過半数は中国向けです。このままではIPアドレスの在庫が底をつくのは時間の問題です。

インターネットでは、IPアドレスの消費対策として、プライベートIPアドレスを設定した複数のマシンを一つのグローバル IP アドレスでインターネットに接続する「NAT」技術や、8ビット単位で区分していたネットワークアドレスを任意のビット幅で運用する「CIDR」といった技術でIPv4アドレス利用の効率化を行ってきましたが、それでも枯渇までの時間稼ぎに過ぎませんでした。

■IPアドレス枯渇の切り札は次世代プロトコル「IPv6」
IPアドレス枯渇問題を解決するために生まれたのが、次世代プロトコル「IPv6」です。IPv6は128ビットのアドレス幅をもち、天文学的な数の固有アドレスを表現できるほか、セキュリティや優先度を付けた配信など、機能面でも先進化を図っています。

IPv6への移行は、IPv4アドレス資源に余裕のある米国よりも、アドレス枯渇の影響を受けている中国などのインターネット後発組が積極的で、中国ではIPv6化を国策として推進しています。

優れた対策であるIPv6への移行ですが、障害もすくなからず存在します。既にIPv4を大量に利用している国では、IPv6ヘの移行に大きなコストと作業時間を要します。米国では、民間のIPv6移行は米国立標準技術研究所(NIST) の予測によると、ISPのネットワークで、2010年までにIPv6対応できるのは30%に過ぎません。また米国政府機関のIPv6移行コストは、約750億ドルかかるといわれています(米国政府は全政府機関のIPv6移行期限を2008年6月に設定)。

こうしたコストと作業時間の問題は、米国に限らず完全IPサービス化を目指す電気通信事業者やデータサービスの充実化を目指すケーブルテレビ会社も同様です。

■日本の対応はどうなってるのでしょうか
総務省は現在インターネットで使われているIPv4の国際在庫が早ければ2010年半ば、遅くとも2012年初冬に枯渇し、国内での新規利用が2013年半ばには不可能になるという見通しを発表しています。
現行のIPアドレス、3〜5年後に枯渇−総務省が見通し

国がIPアドレス枯渇の見通しを試算するのは世界でも初めてのことです。
総務省が見通しをまとめた理由には、関係事業者のIPv6への早期移行を促進するためといわれています。また総務省は、「インターネットの円滑なIPv6移行に関する調査研究会」を発足させています。
IPv4アドレス枯渇の対策を検討,総務省で研究会が発足

見通しが通りだとしますと、日本は遅くとも2013年に新規のIPアドレスの割り当てが困難になり、インターネット利用に大きな弊害が生じる事態となります。総務省データ通信課では、いたずらに危機感をあおる必要はないとしながらも、IPv4枯渇までに残された時間は短いと認識しているようです。

こうした総務省のIPv6の移行促進にもかかわらず、実際の移行は進んでいないようです。
IPアドレス枯渇で最初に影響を受けるといわれているのがインターネット接続事業者(ISP)ですが、既存のISPでIPv6を商用サービスとして提供しているのはごくわずかです。さらにインターネット上で事業を行う事業者や一般企業のIPv6への移行は現時点でほとんど進んでいません。

総務省は見通しを精査してより確実な予測を作成する考えですが、腰の重い関係事業者が対応に着手するかが、今後の課題といそうです。

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