【世界のモバイル】iPhone販売にみる″SIMロック″の限界
■販売好調なiPhoneだが...
10月22日にAppleが発表したところによると、iPhoneは発売から累計139万台が販売されたという。出荷台数ではなく販売台数という実数であることから、実際に売れ行きは好調であるようだ。しかし総数のうちおよそ20%程度のiPhoneがAT&Tとは契約されていないという。これらは北米の他の通信キャリアや北米以外の海外の通信キャリアで利用することを目的とし、SIMロック解除されて使用されている端末数とみられている。AppleとAT&Tから公式な数字は公開されていないが、iPhoneの利用者1人ごとにAppleはAT&Tから一定の金額を毎月受け取っているという。すなわち販売されたiPhoneはその単体価格で利益を上げるだけではなく、AT&Tで毎月利用されることにより、Appleはさらに利益を得ることができるわけだ。しかしAT&Tではなく他の通信キャリアでiPhoneを利用されてしまえば、Appleはその利益分配分を受け取ることができなくなってしまう。このためAppleはiPhoneに販売制限を加えるのだという。購入にはクレジットカードかデビットカードを必要とし、購入台数を1人2台までに限定する予定のようだ。iPhoneの販売制限は販売開始時に商品確保のため1人2台までとされ、その後は5台までに緩和されていたが、再び2台に制限されることになる。たとえば父親が子供と妻に購入してしまえば自分の分は購入できないことになってしまうわけだ。この制限はAT&T以外のキャリアでの利用を目的として購入する利用者や、自分では全く利用せずに転売する業者などの購入を制限するとともに、クリスマスシーズンに向けて十分な数のiPhoneを確保するためだといわれている。
しかし同じ同社の製品であるiPodは一人で何台でも購入できるのに、iPodに電話機能が搭載されたiPhoneだけ購入制限がかかってしまうのは消費者側としては納得のいかないものではないだろうか。AppleとしてもiPhoneの利用者が増えることは、iPhoneのすばらしさを広めてくれる広告塔としても貴重な存在のはずである。しかしiPhoneの販売により利用者を増やすことのできるはずである通信キャリアと通信キャリアから一定の利益を得られるビジネスモデルを構築したAppleとしては、指定した通信キャリア以外でiPhoneを利用されることは利益減を引き起こすことになる。すなわち現在の販売方法は“iPhoneを拡販したい、しかし特定の通信キャリアのみを利用してほしい”というメーカーと通信事業者の思惑通りには事が運んでいないということなのだろう。
■SIMロックは誰のためのものか
SIMロックをかけた端末販売はなにもiPhoneだけではなく、世界中で広く行われている。SIMロックをかけた端末を安価に販売するために通信キャリアは固定契約期間を設けることが一般的だ。これにより顧客を自社利用のみに制限することができる。一方消費者は頻繁に利用する通信キャリアを変更するのでなければ、端末が安価に入手できるSIMロック販売方式にメリット感じることができるだろう。しかしながら端末を安価に入手できることだけが消費者のメリットとはならないはずだ。特に一定期間特定の通信キャリアを利用しなくてはならないことは、たとえば他社がその間により安い料金プランを出してきた場合でもキャリアを容易に移転することができない。結果として契約縛りの後半には他社より割高な料金を払い続ける場合もありえるのだ。また固定契約は端末の自由な買い替えを妨げてしまう。たとえばiPhoneは2年縛りのプランがあるが、2年前と現在の通話料金を比較してみれば、現在のほうが安価で使いやすいプランが登場しているはずだ。また1年後にはおそらく新しいiPhoneが発売されるだろうが、現在2年契約を結んでいる利用者はその新しいiPhoneに即座に買い換えることがきないのだ。
ヨーロッパでは、端末を安価で提供し顧客を自社に引き止める、すなわち通信キャリアによる囲い込みを防ぐためにSIMロック販売に制限を加えている国もある。SIMロック販売を認可していても一定期間が過ぎたり、顧客からの要望があれば通信キャリアがロック解除に応じる必要がある国もある。最近iPhoneの発売が決まったフランスでは、通信キャリアが端末を販売する場合はSIMロックあり、SIMロックなしの両方を販売しなくてはならないそうである。すなわち公正な競争を市場に与えるとともに、顧客に選択肢を与えているのだ。
このようにSIMロックというものはメリットもあるがデメリットもあるものであり、どちらを選択するかは消費者が決めるものではないだろうか? 特にiPhoneのような革新的な製品が特定の通信キャリアでしか利用できないことは、消費者にデメリットを与えていないだろうか。日本では端末は通信キャリア専用品であり、キャリアと端末の選択肢は無い。このためiPhoneの販売方式には疑問をはさまない意見が多いかもしれないが、ヨーロッパやアジアでは自分の好きな端末を自分の選んだキャリアで利用することもできる。すなわちすでに顧客に選択肢のある市場では、北米同様のiPhoneの販売方式はスムースには受け入れられにくいだろう。
そしてSIMロックは最終的には解析され、解除されてしまう運命にあるのは携帯電話の歴史が示している。このためアジアでは端末にSIMロックをかけて安価に販売する手法は衰退してしまっているのだ。またiPhoneは世界中からSIMロック解除の解析対象となってしまい、あっという間にロック解除方法が解析されてしまった。それに対してAppleも新しいファームウエアの提供や保証を与えないなどの対抗処置をとっているが、それに対する対抗策が出てくるのも時間の問題かもしれない。すなわち今の販売方法を続けていく限り、永遠にいたちごっこが続いてしまうだろう。メーカーが通信キャリアから収益を得るという新しい収益モデルを作ったiPhoneだが、SIMロックに頼る販売方法はいずれ限界を迎えてしまう可能性があるのだ。
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山根康宏
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