【世界のモバイル】iPhoneを日本は受け入れられるか? キャリアからメーカー端末へ


Appleの携帯電話「iPhone」は端末の機能や使い勝手のみならず、これまでの携帯電話業界の商習慣とは異なる新しいビジネスモデルとしても注目されている。iPhoneの目新しさの1つが端末の販売方法だ。この新しい販売スタイルは日本でも受け入れられることができるだろうか?


■iPhoneは“メーカー端末”

今年6月に北米市場で発売開始されたiPhoneは、Appleの携帯電話市場への初参入ということもあり市場から大きな関心が寄せられている。この秋からはヨーロッパでの発売も決まり、iPhone旋風は北米から全世界へ今後広がっていくことは間違いないだろう。

現在iPhoneを利用できる通信キャリアは北米ではAT&Tのみである。このため日本ではiPhoneを日本の携帯電話のように通信キャリアが発売している端末と見る向きもある。しかし実際のところiPhoneはAppleのブランドによるメーカー端末であり、日本の携帯電話のようなキャリア端末ではない。すなわち“AT&Tが発売する端末”ではなく“AT&Tの回線を利用できる端末”として販売されているのだ。このためiPhoneはAT&Tのショップ=携帯キャリア店舗だけではなく、Appleストア(実店舗、オンラインストア)で購入することもできる。購入するだけであれば身分証明書も何も必要なく、一般の家電製品やAppleのiPodを買うのと同様に、お金を払えば誰でも購入することができるのだ。

しかしiPhoneは購入しただけでは携帯電話として利用できないだけではなく、iPhoneの単体機能も使うことすらもできない。iPhoneは購入後にPC経由でAppleのiTunesに接続し、AT&Tとの回線契約を結ぶことでiPhoneそのものが“開通=アクティベート”され、これで初めて電話や各種機能を利用できるようになるのだ。このように購入しただけでは端末を利用できず、特定の通信キャリアと契約を結ぶことでハードウエアまでも利用できるようにする販売手法を本格的に採用したのはiPhoneが初めてと言えるだろう。

■アクティベート、SIMロックも解除方法が見つかる

iPoneはGSM方式に対応した携帯電話であるが、北米ではAT&TのSIMカード(回線)のみが利用できるようにSIMロックがかけられており、他のGSMキャリア、たとえばT-Mobile USAのSIMカードを利用することはできない。また購入後のアクティベート時にもAT&Tとの回線契約が必要であるため、北米でのiPhone購入者はAT&Tの回線のみを利用することになる。これによりAT&Tは他キャリアからのユーザーの移転や、iPhone利用可能キャリアとして自社のブランドイメージを向上させることができ、結果として加入者を増やすことが期待できるわけだ。現時点でAppleは各国1キャリアのみをiPhone利用可能な事業者としていることから、iPhoneが発売予定の国では水面下で各キャリア間の争いやAppleとの駆け引きが行われているとも言われている。

しかしだ。iPhone発売直後から“AT&T以外の回線を利用したい”もしくは“携帯電話機能は不要なのでiPhoneを単体で利用したい”という声が北米のみならず全世界から多く上がっていった。そして一部のユーザーから最初に必要なAT&Tとの契約によるiPhoneのアクティベートを回避する手法が発見され、最終的にはSIMロックそのものをはずす「ロック解除」までもが可能になってしまった。こうなるとiPhoneをAppleストアで単体で購入後、AT&Tを利用する必要はなくなってしまう。北米のほかのキャリアのSIMカードを利用できるだけではなく、北米以外の国でもGSMキャリアのSIMカードを装着すれば世界各国でiPhoneを利用できるようになってしまったのだ。

iPhoneがもしもキャリア専用の端末であれば、AT&T専用のサービスやメニューが用意されAT&T以外で利用する場合は「ただの音声通話端末」にしかならなかっただろう。すなわち無理してSIMロックを解除してまで使うほどの端末にはならなかったはずだ。しかしiPhoneは前述したようにキャリア専用端末ではない。iPhoneはiPodと同等のメディアプレーヤー機能を搭載するほかは、WEBブラウザなどインターネットへアクセスし、インターネット上のサービスを利用する機能を備えている端末だ。すなわちAT&Tと契約したとしても、AT&Tの特定のサービスは利用しない。メールの利用にしても通常利用しているプロバイダやフリーメールなどを利用するものであり、AT&Tのキャリアメールを利用するわけではないのだ。すなわちAT&Tと契約を行っても利用するのはAT&Tの回線そのものだけであり、他社のSIMカードが利用できれば、AT&Tと同様に他社の携帯回線下でiPhoneのフル機能を利用できてしまうわけなのだ。

なおiPhoneは9月時点で100万台が販売されたという調査会社の報告がある。しかしiPhoneを唯一利用可能なAT&Tからはその分だけの契約があったとの発表はまだされていない。実際には多くの数のiPhoneがAppleストアで販売された後、海外などに転売されSIMロックを解除してAT&T以外のキャリアでも利用されているとの推測もある。携帯電話にSIMロックをかける端末販売は全世界で行われており、SIMロックをかければ自社以外のキャリアに顧客が流れにくくなるのがこれまでの携帯ビジネスの常識であった。しかしiPhoneは契約無しで先に端末単体だけが販売され、契約される前にSIMロックが解除されてしまう恐れがあるのだ。

iPhoneの販売台数だけ回線契約数を獲得できると目論んでAppleと契約を行った通信キャリアの販売戦略に影響を及ぼすことは必至であり、Appleも今後この販売方式を見直す可能性もありうるだろう。

■Apple主体の販売は日本では可能か?

現在のiPhoneはGSM版のため日本では携帯電話として利用はできないが、将来iPhoneの3G版(W-CDMAやCDMA2000対応)がリリースされれば日本での発売も現実味を帯びてくるだろう。このため“もし日本でiPhoneが出るなら、どこのキャリアから出てくるだろうか”といった推測もなされている。

しかしここまで書いたようにiPhoneはキャリア向けに販売される端末ではなく、キャリアサービスを受けるための端末でもない。通信キャリアはインフラを提供する黒子に徹することが求められるし、端末の販売もAppleストアとキャリア店舗のようにAppleの指定する取扱店のみでの扱いとなるだろう。価格もAppleが定め、通信キャリアが自社顧客向けに割引販売することも現時点では想定されていない。すなわちiPhoneとはすべてがAppleにコントロールされる端末なのだ。

そしてiPhoneはキャリアサービスを利用しない。iモードもおサイフケータイも、そしてデコメールも利用できない。“できない”というよりもそもそもが携帯キャリアサービスや携帯電話内のサービスを視野に入れていない端末なのだ。iTunesが利用でき、インターネットの広いサービスを直接利用する端末であり、携帯電話というよりも限りなくスマートフォンなのである。

キャリアが収入を得ようにもiPhoneそのものの利用は通信キャリアには直接的な収益をもたらさないのだ。またSIMロックが解除されてしまった場合、ライバルキャリアでそのまま利用することも可能になってしまう。日本の現状の携帯電話ビジネスとは相反する端末がiPhoneであり、日本で発売されるには通信方式の対応以前に通信キャリアがどこまで“iPhone(Apple)のビジネス”に対し腹をくくれるか、にかかっているのではないだろうか。

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山根康宏
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