【世界のモバイル】″ブランド品″ケータイをもてない日本人! ″PRADA Phone″にみるブランド電話の魅力


LG電子製のPRADAブランド携帯「The PRADA Phone by LG」が海外市場にお目見えした。約10万円の価格もさることながら、PRADAそのもののデザインはPRADAファンのみならず携帯電話市場でも大きな話題となっている。携帯電話方式がGSMのため日本では利用できないが、仮に日本と同じ3G方式に対応しても日本で発売される可能性はあるのだろうか?

■The PRADA Phone by LGは"ケータイ"ではない?

The PRADA Phone by LG(以下PRADA Phone)は、LG電子とPRADAのコラボレーションによるPRADAブランドの携帯電話だ。ブラック1色のスクエアなボディーデザインのみならず、Flashを採用した内部ユーザインタフェースやアクセサリ、そしてパッケージングに至るまで全てPRADAの手によるものである。
写真:海外で発売開始になったThe PRADA Phone by LG
写真:ブラック1色でシンプルなデザインだ

PRADA Phoneのスペックを数字から見てみよう。サイズは98.8×54×12mm、重量は85g。カードサイズと呼ぶにはやや大きいが、必要最小限のボタン以外を排除したデザインからは、数値よりもスリムな印象を与えてくれる。3インチの大型ディスプレイはタッチパネルで本体前面のほぼ全体を覆っている。電話をかけるときはここに数字キーが表示されるわけだ。カメラは背面に2メガピクセル、外部メモリとしてmicroSDカードを利用できる。Bluetoothは2.0に対応、音楽やビデオなど各種メディアファイルの再生も可能だ。GSM 900/1800/1900MHzとパケット通信はEDGEに対応している。

さて、このスペックを見る限りPRADA Phoneはミッドレンジの上のクラス程度であり、決して"ハイエンド"端末ではない。にもかかわらず、PRADA Phoneの価格は約10万円だ。これはもちろんこの端末がPRADAの製品であるからであり、PRADAのデザインと品質を備えた製品として10万円という価格がつけられているのである。すなわちPRADAが好きなユーザーが、自己を表現するアイテムの一つとしてPRADAブランドの携帯電話を購入するための製品であり、他の携帯電話と比較して購入するものではないのだ。洋服やカバンと同様で、高級ブランド品を買う人に対して「それは無意味だ」と言うことに意味がないのと同様に、PRADA PhoneはPRADAを好きな人のための"PRADAの製品"であり、スペックや価格を比較して購入する"携帯電話"ではないわけだ。

■日本に存在する販売方法の壁

海外ではブランド品携帯として、すでにMotorolaがドルチェ&ガッバーナ(D&G)ブランドの"RAZR(MOTORAZR V3i)"を発売している。他にもAlcatelによるファッション誌"ELLE"ブランドの端末や、Sasmungによる"バング&オルフセン"のものなどが発売されている。それぞれ市販の端末にブランドロゴをつけた程度のものではなく、各ブランドがデザインやパッケージングまでをトータルコーディネートしたスタイルで発売されており、一目でそのブランドとわかるデザインを持っているのが特徴だ。
写真:海外では先に登場していたMOTORAZRのD&G版
写真:AlcatelのELLE携帯は毎年シリーズ展開されている
写真:Samsungによるバング&オルフセンの"Serene"は、なんとルイ・ヴィトンの専用ケースを発売している

海外では、これらのブランド品端末は、そのブランドが好きなユーザーをターゲットとしており、当然のことながら価格は高く、安売りはされない。また販路も携帯ショップだけではなくブランドショップでも扱われている。すなわち"携帯電話"でありながらも"ブランド品"として扱われているのだ。また特定の通信キャリア向けに発売されることもない。なぜなら通信キャリアとそのブランドには何の関連もないからだ。自分の好きなブランドの携帯を、自分の契約している通信キャリアで利用する、これがごくあたりまえのことであるわけだ。

ところが、日本ではどうだろうか?
実はドコモから"FOMA M702iS"のD&Gブランド端末が発売されている。すなわち日本にもブランド品携帯はあるのだ。しかし、この端末はすでに海外で発売されているMotorola V3i D&Gの日本版だろう。日本がオリジナルではなく、海外で発売されている同等端末の日本向けというわけである。ドコモによるとM702iS D&Gはドコモ、Motorola、D&Gのコラボレーションであり、この製品はドコモの製品ということになっている。しかしD&G店舗では直営店5店舗での予約販売のみであり、期間は3月1日〜14日のみ。現在は販売していないようだ。一方で全国発売はドコモのオンラインショップのみである。

すなわちM702iS D&Gは"D&G"のブランド品であるにもかかわらず、D&G店舗では自由に販売されておらず、全国発売はドコモが行う、ということのようだ。

これはM702iSが"携帯電話"だから、キャリアが主体となって販売するということなのだろうか? "ブランド品"として考えると若干疑問を感じてしまうのは筆者だけであろうか?

海外の多くの国(GSM、W-CDMA圏)では通信回線と端末が分離されているため、ブランドによる特別な限定端末がリリースされたとしてもそれを自由に使うことができる。一方日本では、携帯電話は基本的にキャリアが販売するものであり、そのキャリアが発売しないかぎりこのような"ブランド品"携帯を利用することができないのだ。

日本でもたしかにノキア・ジャパンが非キャリア端末として、ドコモでもソフトバンクでも利用できる3G携帯電話を発売しているが、国内のサービスをフルに利用できないなど、日本のキャリアは"非キャリア品"端末の利用に大きな制限を加えている。これでは一般的なユーザーが気軽に買えるものにはならず、リッチな市場向けではなく、ニッチな市場向けの製品に止まってしまう。たとえば将来、PRADA Phoneの3G版が海外で登場しても、日本でPRADAが独自に販売でき、日本のサービスを受けられないようでは、PRADAも日本で販売することはありえないだろう。

携帯電話はすでに大衆向けの日用品となっている。今後も技術の進歩は進むだろうが、一方で基本機能だけ利用できればいい利用者や、自分に必要のない機能を必要としない利用者も増えてくるだろう。そして海外ではPRADA Phoneのように、端末そのものに価値を持った製品も今後は続々と出てくることが予想される。

そうなったとき、日本が今のように"キャリアのみが端末を販売する" "キャリア販売品のみがサービスを受けられる"という状況のままならば、海外で発売される海外の魅力ある製品が日本に入ってくることがますます難しくなってしまうだろう。せっかく通信方式が海外と同等になったにもかかわらず、販売方法という大きな壁が海外端末の日本登場を妨げてしまうわけだ。

キャリアとは無関係な独立した端末が、日本でも自由に購入できサービスも受けられるようになることは、ユーザーにとってもメリットの大きいはずだ。世界中で販売されるブランド品携帯が日本だけは発売されない、そのようなことにはなって欲しくないと思う。


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山根康宏
香港在住の海外携帯電話マニア&研究家
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