「波乱なし」のG20 底流にはより大きなリスク?【ビジネス塾】




オーストラリアのシドニーで20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が行われ、2月23日に閉幕した。

会議前には、米連邦準備理事会(FRB)による金融緩和の縮小(テーパリング)を契機とする、新興国からの資金流出問題への対応策が焦点になると予想された。編集部も、新興国からの批判の声があがると予想指定が、大過なく終了したように思える。

今回のG20の特徴は何だろうか。

■最大の特徴は「数値目標」
先進国と新興国は、資金流出の原因をめぐって意見の違いがある。新興国は、米国のテーパリングが資金流出の原因としているが、先進国側は新興国経済のぜい弱さが原因だという立場をとっている。

この見解の相違は、今回の会議では主要議題とはならなかった。最大の特徴は、共同声明で、世界経済の成長率を「5年で2%以上」底上げするという数値目標を打ち出したことである。G20で成長率の目標を掲げたのは初めてのことだが、各国ごとの目標には言及していないため、実質上は拘束力はない。

それでも数値目標を掲げた背景には、米国の意向がある。リーマン・ショック前、米国が住宅バブルで世界中から製品を輸入した結果、各国は米国への輸出で経済発展を遂げた。米国経済が回復に向かっているとされる現在、「夢よ再び」と考える国もある。米国は数値目標を打ち出すことでこれにクギを刺し、「各国で内需拡大を図る」ことを求めたのである。

実際、米国が会議前から、日本に「内需拡大」を求めていた。こうした動きは、安倍政権が初夏にまとめる予定の、新たな成長戦略に影響を与える可能性もある。

逆にこれは、米国とドイツとの関係に波風を立てている。もともと、ドイツは米国の要求に簡単に従う国ではない。現在、ドイツは経常黒字が膨らんでおり、それが「欧州随一」の経済を支えている。だから、米国からの「内需拡大」要求には簡単には従えない。しかも、「内需拡大」には財政出動がつきものだが、ドイツは財政赤字にきわめて敏感で、これまた応じにくいという事情があるのだ。

一部報道では、今回のG20を通して、「先進国対新興国」という対立軸に加え、「米国対ドイツ」という新たな対立が持ち込まれたという。先行きを見なければならないが、会議の結果からは、そうなる可能性があるといえる。

■新興国問題は「引き分け」
さて、新興国問題はどうなったか。

米国にテーパリングに対しては、「世界経済の影響に配慮すべきだということが改めて確認された」(黒田・日銀総裁)一方で、共同声明には新興国に「国内のマクロ経済政策や構造改革」を求める表現も盛り込まれた。

新興国が対立を無理にあおらなかったのには理由がある。もし会議が紛糾し、世界の投資家に「先進国対新興国」の対立がのっぴきならないという印象を抱かせてしまうと、新興国からの資金流出がさらに進んでしまう可能性があるからだ。実際、大過なく終わった会議を受け、新興国通貨下落は一段落している。この時点で、論争は「引き分け」というか、「先延ばし」されたといえるだろう。

ただ、対立がなくなったわけではない。中国の楼継偉財政相は「金融政策頼みの米国こそ、構造改革が遅れている」というニュアンスの発言を行い、暗に米国への不満を表明した。ブラジルやインドも同様の意見を持っていることは知られているところだ。

波乱がなかったG20だが、逆に、底流にはより大きな波乱の材料を抱えていることが示されたように思う。新興国への投資は、まだ慎重に進めた方がよさそうだ。

(編集部)

※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。

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