アベノミクスとは何か (10) 成長戦略こそが肝心!【ビジネス塾】




安倍政権は6月14日、成長戦略「日本再興戦略 ジャパン・イズ・バック」を閣議決定した。安倍首相はこれまでも、会見などで成長戦略の内容を示してきたが、全体が明らかになった。これにより、「量的・質的緩和」「機動的財政政策」に次ぐ、「アベノミクス」の「3本の矢」が出揃ったことになる。

日本経済復活の「切り札」ともいうべき、その内容を概括してみよう。

■他の「2本」との関係は?
安倍政権は成立直後に補正予算を組むなど、「3本の矢」のうちの「機動的財政政策」を先行的に実施した。ただし、将来にわたって公共事業などの財政出動を続けるという意味ではない。「機動的」という名前が付いている通り、財政再建への対応が急がれているからだ。

続いて行ったのが、黒田日銀総裁による「量的・質的緩和」である。2%の物価目標を設定した金融緩和で、市場のマインドと資金融通をよくすることである(公式には円安と財政ファイナンスは目的としていない)。これについては本コーナーで数回にわたって解説してきたので、省略する。

最後の「矢」が、今回の「日本再興戦略」である。先の「2本」がいわば「応急手当」であったのに対して、中長期的な経済戦略といえる。そのため、対象とする年限も長く、「国づくり」の根幹にかかわる戦略や目標設定が必要となるわけだ。「3本」の中でもっとも大事な政策といっても過言ではない。

■「GNIの150万円増」とは?
「日本再興戦略」の内容を大きく分ければ、(1)企業活力の復活、(2)最先端・予防医療、(3)攻めの農林水産業、(4)エネルギー産業の育成、(5)人材育成、(6)フロンティア創造の6項目である。これらにより、今後10年間で平均3%(実質2%)の成長をめざし、一人当たり国民総所得(GNI)を150万円以上増加させるというものだ。

まず、「GNIの150万円増」と言われると、私たちの年収が1人150万円増えるかのように思ってしまうが、そうではない。GNIとは、現在使われている国内総生産(GDP)に、海外からの受け取りを加えたもの。つまり、企業が海外で稼いだ利益、投資家が受け取る利子や配当も含まれる。「国民すべて」ではなく、企業も加えた「平均」であることに注意したい。

■具体的政策は…
「日本再興戦略」で掲げられた具体的な政策は、以下のようなものである。項目が多いので、主なものだけにする。

・減税による生産設備の新陳代謝などで、3年間で年70兆円の投資水準に
・医療品、再生医療などの医療関連産業の市場規模を2020年に16兆円に
・一般医薬品のインターネット販売を原則解禁
・「混合診療」の一部解禁
・10年間で農業・農村全体の所得を倍増
・2020年に女性の就業率を73%に
・2020年に30兆円のインフラ輸出
・中小企業向け融資の際の個人保証制度の見直し
・勤務地域などを限定した「限定正社員」制度の導入
・2018年までに貿易の自由貿易協定(FTA)比率を70%に
・「国家戦略特区」の創設で、容積率緩和、外国人医師による診察解禁等を実施

全体として、非常に意欲的な目標が並んでいる。これらが文字通り実行できれば、1990年代以来の長期のデフレに苦しんできた日本経済が、まさに「復活」するシナリオである。

■抵抗勢力はどうなる?
では、この政策は、何の問題もなく実行されるだろうか? 問題はそこである。

まず、さまざまな抵抗が予想される。野党の「反対」もあるが、これはたいしたことはない。むしろ、与党内の「反対」「慎重に」といった声である。実際、「混合診療」の全面解禁には日本医師会が、一般医薬品のインターネット販売には医薬店が、環太平洋経済連携協定(TPP)などのFTA拡大には農協がいっせいに反発しており、これらの支持を受けた議員の動きが活発化している。安倍政権が、小泉改革における小泉首相のような態度が取れるかどうかだ。

もう一つは、世界や日本の経済状況である。直近の株式市場の乱高下のように、世界経済には依然、不透明な要素が多い。「インフラ輸出」の目標を掲げても買う相手がいなければ売れないように、世界経済の動向が大きく影響しよう。むろん、日本の財政事情もあるが、これは黒田日銀の緩和策と併せ、改革を着実に進めることで市場の信任を得ることができれば、中期的には問題ないだろう。

いずれにしても、現在が日本経済再生の「剣が峰」であることは間違いなさそうである。

(編集部)

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