【編集部的映画批評】美しいだけじゃない!血湧き肉踊る人体破壊カンフーも登場 『グランド・マスター』


梅雨入りが宣言され、どんよりした天気が続く季節、こんな時こそカンフー映画で気分をスッキリしたいところ。ということで、今回カルト映画のフジモトが紹介するのは、ブルース・リーの師匠、葉問(イップ・マン)の激動の半生を、美しき映像で描くアクション・ドラマ『グランド・マスター』。名匠、ウォン・カーウァイが17年もの歳月をかけ完成させた渾身の作品はどのような仕上がりなのだろうか。あえてアクション映画フリークの視点からご紹介する。

『グランド・マスター』

舞台は1930年代、日中戦争の足音が聞こえ始めた激動の中国。北の八卦掌を極めた宗師(グランド・マスター)・パオセンは引退をひかえ、武術界の南北統一を成し遂げられないことを悔いていた。そこで彼は南の佛山で引退試合を開き、自分に勝った者を「真の宗師」とし、南北統一を任せようと決める。直弟子のマーサン(マックス・チャン)、奥義六十四手を受け継ぐ娘のルオメイ(チャン・ツィイー)らが高みを目指す中、南の武術界も詠春拳の宗師、イップ・マン(トニー・レオン)を送り込む。一方、激化する戦争の裏では、八極拳の宗師、カミソリ(チャン・チェン)もある目的のため暗躍していた。中国各地で、グランド・マスターたちの運命が動き出す…。
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これぞウォン・カーウァイ!美と退廃のラブストーリー

 本作は、カンフー映画ではあるが「激動の時代を舞台に達人たちがNo1を目指して戦う!」といった単純明快なものではない。退廃的な世界観と、映像美を得意とするカーウァイ監督らしく、生々しくも美しい「人間としての達人たち」が登場するのが最も大きな特徴だ。

主人公であるイップ・マンは、妻がいるにも関わらず、ライバルであるルオメイと微妙な関係になり、そのルオメイは愛と憎しみに囚われた人生を歩む。他の宗師たちも、ある人は面子のため、ある人は自らの欲望を叶えるため、そして迫り来る戦争の脅威を生き抜くために戦うのである。また、この時代の重要なキーワードとも言える「阿片」も、退廃的な世界観を象徴するアイテムとして登場する。ドニー・イェン主演の『イップ・マン』で、ヒロイックな葉問のイメージが出来上がっている方は少々面食らうかも知れないが、これがウォン・カーウァイ流の描き方なのである。

戦いの舞台として、娼館が登場するのも注目したいところ。達人たちは、武館(道場のこと)に属する武術家だけではなく、芸妓だったり、下働きの下男だったりするのだが、彼らすべてが集うコミュニティが娼館なのだ。監督は、こういった民間に密着した武術界を登場させることで、当時の中国の文化観を描きたかったのだという。この設定が、どこまで史実に沿っているかは定かではないが、カーウァイ監督は中国全土を周り、徹底的なリサーチを行ったとか。劇中で、伝記映画のごとく解説される数多の武術の流派や技、風習はその表れと言えるだろう。

もはやダンス!トニー・レオンVSチャン・ツィイーの華麗なる戦い

 小難しい話は抜きにして、ここからは本作のアクションを語りたい。制作中の早い段階で、トニー・レオン、チャン・ツィイー、チャン・チェン、マックス・チャンらが本物の武術家たちに弟子入りし、4年もの修行を積んだことが大々的に喧伝されてきた。はたしてその成果はどう現れているのか。特に、香港映画ファンの間でも「アクションが得意じゃない」という認識だった、トニー・レオンの仕上がり具合が気になるところ。

結論から言って、彼らは4人とも「アクションスター」レベルの見事なカンフーを披露している。ただし、それぞれに、動作の質の違いはあるといっておきたい。

トニー・レオンが披露する「詠春拳」は女性が創始者で、相手の力を利用したり、カウンターを取る技が特徴的な武術。またチャン・ツィイーが操る「八卦掌」も、相手の力をいなして攻撃する武術である。そのため劇中の二人の動きは特に華麗に描かれており、もはやダンスを踊っているかのように美しい。アクション監督のイェン・ウーピンによる最小限のワイヤーワークと、多用されるスローモーションと頻繁なカット割りは、映像をよりスタイリッシュに見せている。

中でも、娼館で行われるトニー・レオンVSチャン・ツィイーの直接対決は見もので、『HERO』や『グリーン・デスティニー』のような浮遊感のあるカンフーアクションがお好みの方には、特にオススメしたい。

カンフー映画史上屈指の激痛バトル!八極拳の達人、チャン・チェンの人体破壊ショー

 血湧き肉踊る、直線的なアクションがお好みの方も安心して欲しい。残る二人、チャン・チェンとマックス・チャンは、本作でガチガチのアクションを見せてくれる。

チャン・チェン演じるカミソリが操る「八極拳」は、日本でも『バーチャファイター』『鉄拳』など数々のゲームで登場している。その特徴は「一撃必倒」で、肘や肩で破壊力抜群の打撃を加えるところにある。カミソリが雨の中で数十人の武装した暗殺者軍団を相手にする場面では、「ゴシャ!」という鈍い音とともに骨がへし折れ、血が飛び散る、もはや人体破壊ショーともいうべき熱い戦いが繰り広げられる。『レッドクリフ』の孫権役など、演技派若手の印象が強いチャン・チェンながら、修行の末、八極拳の全国大会で優勝してしまうほどのカンフーの実力を身につけたという。その本物の動きは、カンフー映画史上屈指の「激痛バトル」に、かなりの現実感を持たせている。

最後のひとり、マックス・チェンは元々スタントマンで、4人の中でも身体能力が抜群に優れたアクション俳優。彼があやつる形意拳は、やはり直線的な動きが主体である。チャン・ツィイーとの、列車を背にした決闘シーンは、「一つ間違えば死」という緊張感あふれるものになっている。この闘いの末、どちらも大変な目に遭ってしまうのだが、まあそれは本編を観て確かめて欲しい。

いわゆるウォン・カーウァイ風味のドラマと華麗なアクション、ゴリゴリの骨太アクションと、好みによって本作の楽しめる部分は違うだろう。しかし、どの要素も名匠の名に恥じない高いレベルに仕上がっているので、劇場で確かめてみてはいかがだろうか。

『グランド・マスター』は5月31日(金)より、TOHOシネマズ日劇ほかにて全国ロードショー

『グランド・マスター』 - 公式サイト



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カルト映画のフジモトの所見評価

【美しきカンフー度】★★★★

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