阿部寛「僕一人で全ての女優とベッドシーンがあると誤解される」


 大人の男女の恋愛を描き続ける直木賞作家・井上荒野(「潤一」「切羽へ」)の同名原作を、恋愛映画に定評のある行定勳監督(『GO』『世界の中心で、愛をさけぶ』『春の雪』)が映画化した『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』。1月26日の公開に先駆けて、8日には完成会見が行われ、主演の阿部寛と、共演の小泉今日子、野波麻帆、風吹ジュン、忽那汐里、そして行定監督と原作者の井上荒野が登壇した。

――まずは、ご挨拶を。

阿部:全ての作品に僕は関わっている訳ではなくて、ある種、客観的に見られる所がたくさんあったんですけど、皆さん、女優さん方が思い切り芝居をしていることに驚きました。台本をはるかに凌ぐような女性像を皆さん演じていることに感銘したし、作品自体ちょっと重い作品のように思われるかもしれませんが、ここまでやると笑えるんだなと。コメディではないですが、不思議な極上の笑いのある作品だと思います。

小泉:私は数日間の撮影で自分のパートを終えたんですけど、完成した作品を観て、大人の恋愛のアンサンブルといいますか、こういう作品ってあまり日本映画には無いんじゃないかなと思います。映画を観ている時にどこかヨーロッパとか別の国の映画を観ているようで、とても面白かったです。音楽もとても素敵で、印象に残っています。阿部さん、他の女優さん方のお芝居も迫力があって、是非色んな世代の方に観て頂きたい映画だなと思いました。

野波:素敵な女優さん方と阿部さんと絡みがあればいいなと思ったんですけど、パートに分かれているので、私は皆さんと共演することができなかったのですが、フランス映画のような、なかなか日本映画には無いような作品に仕上がっていて、男女の面白さと言うか、可愛さ、可笑しさがすごく詰まっていて、素敵な大人の映画になってると思います。

風吹:映画の楽しみって、いつもと違う役者さんの顔が見られることだと思いますが、阿部寛さんの痩せ方、素晴らしい絞り方で、いつもと違うなと。客観的に見られるという意味では、小泉さんがとても面白くて、小気味良くて、気持ち良かったですね。出演していながら、こんなに楽しめる作品はなかなか無いのかなと、別の楽しみ方をしました。

忽那:私は大先輩の俳優さん、女優さんと同じ作品に携わらせて頂くことがとても嬉しかったです。私は一番年下の目線で、麻千子の愛の形を演じさせて頂きましたが、様々な世代の男女の愛の形とか描写がとても印象的な作品でした。

井上:私は原作者として、とても良いものを作って頂いたと思っています。私が小説でやりたかったことをキッチリ描いて下さっている。その一方で、映画として小説に挑戦している部分があって、すごく効いているので、その辺を見付けて頂ければなと思います。もう一つは、最後のクレイジーケンバンドの音楽で「ま、いいや -MA IIYA-」という曲が流れるんですけど、私は恋愛というのはこの世の仕方の無いことの筆頭にあると思っていて、この群像劇に出てくる女優さん達が皆それぞれの場面でふと「仕方無いや」という顔をするんです。その辺も観て頂ければなと思っています。

行定:こういう映画って今、作りにくい映画の筆頭に上がるというか、荒野さんの原作は素晴らしいのですが、人間関係が曖昧なものってなかなか形に出来ないですよね。我々は分かり易さに飼い馴らされている感じがするのですが、それぞれが考える映画になった気がします。多分この映画を観て、愛の形とは観客それぞれが違う形でご覧になると思うんです。自分の目の前にある愛とは、どういうものなのか?一度考える切っ掛けになる映画にもなっていると思います。この映画を成立させるためには、この豪華キャスト陣は絶対に必要だったんです。心から望んだ人達に集まって頂けたことは僕にとってもすごく大きな経験になりましたし、感謝しています。豪華キャストで攻め込んでますので、観客にも是非とも隅から隅まで楽しんで頂ければと思います。

――阿部さんは豪華女優陣と並んでみて今、どんな思いですか?

阿部:嬉しいですね。俳優は僕一人が出た訳じゃなくて、岸谷さんとか羽場さんとか他にもいらっしゃるんですけど、今日はなぜか僕一人で来ました。このポスターを見ると、僕一人ですべての女優さんに絡んでいるように、ベッドシーンがあるように誤解されるんですけど、そうではないんです(笑)。実際、一緒の撮影が無い方もいらっしゃいましたけど、女の人のあまり人に見られちゃいけないような姿とかまで、この作品の中に凝縮されています。ここにいらっしゃる女優さん達が惜しげも無く思い切りやっています。それが爽快なまでに受けました。本当に楽しかったです。

行定:撮影している時も、非常に勉強になったんですよね。如何に俺が女のことを分かってないかをすごく感じました(笑)。僕は男性な訳で、この女性達の心理とか精神性、表情は、ほとんど女優さん達に任せたと思っています。受け止める形で撮影に臨んだんです。女優さん達は、女性というものを、自分ではないですけど、ちゃんと持ち得ているというか、勝ち取れていると思ったし、怖い部分も、美しい部分も見ました。風吹さんも大竹さんも、僕より年代が上の方達の方が、愛に対しての感情の持ち方がウェットに感じるんですね。若くなっていく方がドライに感じたり。それは演じる上でそうなっているんですけど、愛とは曖昧なだけに、表現する可能性はまだこれからもっとあるんだなと気付かされたし、すごく面白かったですね。

――女優の皆さんは、それぞれ演じた女性に対して共感できた所は?

小泉:私が演じた環希という人は、つやの最初の男の妻の役で、素敵な小説家の夫がいて、そこそこ豊かな生活をしていて、今までそんなに感情をムキ出しにしないでも生きてこれた女のような気がするんですね。でも、松生からの一本の電話で、つやの存在を知り、水面に小石を投げたように波紋が広がって、つやに嫉妬してみたり、夫の愛人と闘ってみたり、初めて生まれた感情を見せる女なんです。環希は男の人がいて、その人を愛することで生きている人なので、爪の先まですごく女が詰まっている人のような気がしました。それは私が学ばなくちゃいけないことで、私はちょっと女が行き届いていなくて、仕事ばかり楽しんでいる所があるので、共通点はあまり見付かりませんでしたが、憧れであり、今後の人生の目標にしたいと思います(笑)。

野波:私は、つやの最初の別れた夫を好きになる湊という役をやらせて頂いたんですけど、湊は一見、渡辺いっけいさんと不倫をしていたり、同僚の男の子や、岸谷五朗さん演じる太田ともすぐ関係を持ったりするので、奔放で今どきの自由な女の子の感じがするのですが、本当は愛を求めていて、ちゃんと向き合える人をずっと探していて。結局、最後は太田のことを、ちょっと変な人なんですけど、男の人として可愛いなと思えるような所がある人を見付ける所はすごく共感できて、私が湊だったら絶対に太田のことを好きになると思ったので、湊のことを好きだなと思いながら演じていました。

風吹:ごく普通の真面目に生きている主婦で、母でもあり、夫が謎の自殺で亡くなった場所を毎週訪ねて、その向こうに繋がっている大島も見えない状態で、とても悩んで苦しんでいる所から、私のストーリーが始まるんです。メールを通して大島に行くことになるんですけど、答えを出していくという意味では、女性の強さが見えてくる。パンドラの箱を開けてしまうような、怖い現実を受け止めようとするのです。阿部さん演じる松生と出会い、いっぱい謎を持ちながら不思議な世界に入っていくんですけど、何が楽しかったって、阿部さんと自転車に乗れるなんて夢にも思いませんでした。スゴイんですよ!小さな自転車をこんな大きな体の人が乗るのか?という(笑)。それも立ち漕ぎで長い坂道を、とても大変だったと思います。とても良い経験になりました。その経験の末に、色々な聞きたくないこと、見たくないものを見てしまい、彼女は多分それを克服して生きていくのだろうなと。皆さんのストーリーの中では割と話がクリアに見えてくる立場だったので、私はそんなに悩むことも無く、演じることができました。描かれてない分、見えないことがあるかもしれませんが、海辺にずっと立っている女です。

忽那:私は、つやのために父親から捨てられた娘を演じました。この作品は、年齢が上の男女の愛が描かれていることが多かったので、私自身が計り知れない、分かり得ない部分がとても多くて。麻千子も母の気持ちが分からないからこそ、無茶な行動ではあったけど、彼女にとっては正論だったのかなと思って。彼女の回では実際に父親に会って、話が結構進行していくのですが、阿部さんとお会いするのも確かその日が初めてで。父親に初めて会うシーンで結構、自分の中では緊迫していて、あの複雑な感情は共感とは異なるかもしれないですけど、こういう感覚は不思議だなと感じることができました。

――原作者である井上さんは、このキャストだからこそ映像から肉付けされたと感じたことは?

井上:まず、自分の書いたものが立体的になって動いている驚きがありますよね。「一番重要な、中心になる男の松生は、誰だろうな?」と漠然と感じていたのですが、阿部寛さんだと伺った時に、私にとって阿部さんはすごく素敵で格好良い、スマートな方で、コミカルなドラマもよく出てらっしゃるので、ビックリして。でも、実際にお芝居している所を見たら、ビックリした所が全部裏返って、良い感じだったんです。哀し過ぎて逆にコミカルになってしまうとか、格好良い人がやつれた時にものすごい凄味が出るとか、素晴らしく演じて下さったと思います。それぞれの女優さんも、私なんかが言うことではないぐらい、難しいと思うんです。今、皆さんのお話を伺ってても完全には共感できない人間だと思うんですけど、共感できないということを含めて、役としてやって下さったような気がして、とても見応えのある演技だったと思います。

――では最後に、この作品をどんな方に、どういう風に感じてもらいたいですか?

阿部:色んなタイプの女性がいて、内面が浮き彫りになってますから、これは自分に近いかもしれないとか、これは分からないとか、色んなことが頭の中に巡ると思うんです。そういうのを楽しみながら、お茶を飲みながらでも、観終わった後に話せるような映画だと思いますし、日本にあまり無いようなこの映画を味わってもらいたいと思います。

小泉:私は、もちろん考えたりはしてますが、愛についてよく分からなくてすみません。もしかしたら監督とか俳優になりたい若者が観ても、色々と気付ことがいっぱいあるかなという気もしました。

野波:長年連れ添ったご夫婦が観てもまた面白い会話がその後に出来るんじゃないかなと思いますし、それぞれの愛の形を皆さんで考えて頂けたらなと思います。

風吹:僕が、私が、大人だと思う方には是非観て頂きたいと思います。色々な感想があると思うので、とても楽しめると思います。

忽那:沢山の登場人物が出て来るので、感覚的に同じものを得られるとか、照らし合わせて頂けたら面白いと思います。

井上:女の人にはもちろん観て頂きたいんですけど、男の人も積極的に観てもらったら面白いんと思います。夫婦とかカップルとか男女で観て終わってから色々話して、ちょっと揉めたりしても面白いかなと思います。

行定:試写会の傾向を見てると、観終わった後にロビーでずっと話してる人達がいるんです。普段だったらバラバラと帰っちゃうんだけど、話しちゃうような映画だと思うんですね。聞くと、男の固まりと女の固まりで喋ってるんですよね。そういう観方をするのが一番美しいかと。男女で話して頂いても良いのですが、ちょっと気マズい感じもあると思うんです(笑)。男、女、それで話し合った結果、男女で観に行くのが僕の理想です。あと、若い監督の方には是非観て欲しいと思っています。僕も若い頃に名作と呼ばれる恋愛映画を沢山観てきたんですけど、まだ大人じゃないから、分からないものなんですよ。でも、いつの間にか自分が成長していく中で、分かる瞬間があるんです。そういう経験が出来るのは若い時しかないので、若い人には是非、分からない部分もあることを前提で観て欲しいなと。分からないことがいけないことではなく、そういう経験をして頂けたら、作った者冥利に尽きます。

『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』特集ページ

1週間で10kg減、“暗い”阿部寛の役作りに女優陣が感動

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