宇多田ヒカルやティム・バートン、現代の表現者たちに見る“推理作家ポー”の影響力
エドガー・アラン・ポーと聞いて、江戸川乱歩(エドガワランポ)と混同される人がいるかもしれないが、もちろん別人。名探偵・明智小五郎と怪人二十面相が登場する『少年探偵団』シリーズの他、エロティックな迷宮感覚のある作品を数多く発表した、日本の推理小説の草分け的存在である江戸川乱歩は、本名・平井太郎が敬愛するエドガー・アラン・ポーからペンネームを取ったことで知られている。
“史上最高の名探偵”シャーロック・ホームズの生みの親であるコナン・ドイルも、ポー作品の愛読者の一人。彼はポーについて「エドガー・アラン・ポーは探偵小説の父であった。しかし、彼は探偵小説に関するあらゆる手法を案出してしまったので、後に続くものは彼自身の創意をどこに見出したらよいのか、私にはその余地がほとんどないように思われる」と語っており、ポーの偉大さと後世への影響力の大きさが伺い知れる。名探偵と言えば、人気コミック『名探偵コナン』の主人公・江戸川コナンは、江戸川乱歩とコナン・ドイルから生まれた名前である。
ポーの影響は推理作家のみならず、死後160年が過ぎた現在もなお、映画や音楽など様々な分野の表現者たちの中には、彼のフォロワーが多数存在。映画監督ティム・バートンは少年時代からポー作品を愛読し、彼のゴシック好きはポーの影響が大きい。初監督作品『ヴィンセント』(1982年)では、主人公もポー作品の愛読者であり、代表作『大鴉(THE RAVEN)』(1845年)の一節をつぶやく場面もある。『大鴉』はアメリカでは教科書に載るほど有名な詩で、アーティストの宇多田ヒカルは、米国デビューアルバム『EXODUS』(2004年)収録の『KREMLIN DUSK』(作詞:Utada)の中で、『大鴉』をモチーフにした歌詞を書いている。
今もなお謎に包まれたままである、ポーの死の真相と最期の日々を題材に、ポーと彼の作品に魅せられた模倣殺人犯との命を賭けた頭脳ゲームを描いた、映画『推理作家ポー 最期の5日間』。監督を務めたジェームズ・マクティーグもまた、ポーのファンの一人だ。原題は『THE RAVEN』だが、その命名理由について「この映画のスピリットを最も端的に表現していると思ったからだ。全編を通し鳥のモチーフが登場することでも、あの詩がもつ“ムード”のようなものを感じてもらえるはずだ。『大鴉』は彼の名前を聞けば誰もが真っ先に思い浮かべる1番の代表作だし、ポーのことをよく知らない人でも、タイトルを聞いて「そうか、エドガー・アラン・ポーの映画なんだな」といった具合に興味を惹かれて、劇場に足を運んでくれるんじゃないかという期待もあった。広く一般に知られた人物やキャラクターを一種の“ブランド”として売り込みに使う、というハリウッドの常套手段を、僕なりに試してみたというわけさ。」と述べている。
また、『大鴉』と映画の世界観について「美と恐怖が巧みに混在するというのがポー作品の特徴だと思うんだけれど、この詩はまさにその最たる例だ。この映画でも、美しさ、愛、おぞましさ、といった一見対照的な要素が入り混じる彼独特の世界観を目指したつもりだよ。多種多様なジャンルがごちゃまぜになっているという点でも、この詩を含めたポーの作品と重なる部分があるんじゃないかな。時代の風潮を巧みにとらえた『大鴉』にはエンターテイメント的要素も大いにあるし、当時の大衆の間で人気を博したのも納得出来る。ポーは時代の気風を敏感に読み取って、人々が求めるエンターテイメントを提供するのに長けていたんだ。そんな彼に習って、この映画も今の観客に喜んでもらえるようなエンターテイメント作品に仕上げたつもりだ。」と共通点を述べている。
そして最後に、日本のファンへ向けて「日本の観客は僕がこれまで手掛けた作品も熱狂的に支持してくれたし、すごく感謝しているんだ。今までの作品とはちょっと毛色が違うとは言え、この映画にはホラーや心理スリラー、アクションといった日本で人気の高いジャンルの要素が詰まっているし、『落とし穴と振り子』(1843年)をモチーフにした殺人などショッキングなシーンも含めたスリリングなストーリー展開に、日本の観客もきっと喜んでくれるはずだよ。」とメッセージ。映画『推理作家ポー 最期の5日間』は、12日より全国ロードショー。
ミステリーファン必見!『推理作家ポー 最期の5日間』ストーリー
1849年アメリカ、ボルチモア。町を切り裂く悲鳴とともに猟奇的な殺人事件が起こる。密室に残された2人の女性の死体。1人は身体中を切り刻まれ、1人は殺されて煙突の中に宙づりになっていた。現場に駆け付けた若き刑事エメット・フィールズは、この事件が、高名な作家エドガー・アラン・ポーの作品「モルグ街の殺人」に酷似していることに気づく。酒浸りで、生活も困窮しているポーは容疑者と目されるが、狭められる捜査の中、挑戦するかのように、第2、第3の殺人が起こる。すべて、ポーの著作を模倣した方法で。
たてつづけに起こる連続殺人は、ポーのアリバイを証明することになり、ポーは容疑者から一転、著作を汚す犯人を追うことを決意する。しかし、謎の殺人鬼は、ポーの婚約者エミリーを誘拐し、ポーに殺人の偉業を新聞に連載するように「挑戦状」を叩きつけてきたのだった。死体”に残された殺人鬼からメッセージ。見逃したトリック。そして、奪われた恋人の行方を指し示す暗号。散りばめられたパズルを完成し、ヤツを捕えることができるのは、すべてを知り尽くしているポーしかいない。史上初の推理作家 VS. ポーに魅せられた小説模倣犯! 今、命をかけた5日間の壮絶な戦いが始まる。
・映画『推理作家ポー 最期の5日間』特集ページ
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