【編集部的映画批評】映画史上最も残酷で美しい、異形の吸血鬼物語『リヴィッド』


 秋が近づいたとはいえ、まだまだ暑い日が続く毎日。今回カルト映画のフジモトが、久々にご紹介するのは、そんな暑さも吹き飛ばす、この夏最後のファンタジー・ホラー映画『リヴィッド』。若い妊婦を襲う戦慄の異常体験を描いた衝撃の18禁スプラッター『屋敷女』の監督による最新作だ。スプラッター映画から大きく進化したという、噂の本作を公開直前レビュー!

『リヴィッド』

ハロウィンを迎えた小さな港町。母を自殺で失った少女・リュシーは、新たな環境を求めて仕事を始めた。それは孤独な老人たちの世話をする訪問介護ヘルパー。指導役のミセス・ウィルソンと各家を回るうち、二人は大きな古屋敷に辿り着く。そこは、かつて厳格なバレエ教師として名を馳せた老婦人ジェセルの邸宅だった。ひとり娘・アナに先立たれた彼女は昏睡状態で眠ったまま。そしてミセス・ウィルソンによると、屋敷にはジェセルが溜め込んだ財宝があるという。その話をリュシーから聞いたボーイフレンドのウィルは、悪友のベンを誘い、強盗計画を持ちかける。最初は渋っていたリュシーだが、現在の希望のない生活から抜け出すため、計画に乗るのだった。夜更けにジェセル邸へ忍び込んだ3人は、固く閉ざされた開かずの間を発見。鍵を見つけ、扉をあけるとそこには死んだはずのアナが純白のバレエ衣装に身を包み、美しい人形のように佇んでいた。やがて、闇夜に悲しげなメロディが響き、ゆっくりと踊るように回転を始めるアナ。それは想像を絶する惨劇の始まりだった…。(作品情報へ

だいぶ控えめにはなったけど…ありそうなイターい残酷描写のオンパレード

 若者3人が出来心から金持ちの邸宅に忍び込む、という序盤の展開から予想できるように、お約束どおり彼らは次々と何者かに襲われエライ目に遭うことになる。監督は前作『屋敷女』で、妊婦のおなかをハサミでかっさばくという、まさに常軌を逸した残酷表現で有名になったお方。そのため同作は18禁の制限を受ける程の問題作だった。今回もそれはそれはえげつない描写があるのかな、と思いきや、拍子抜けするほどその部分は控え目になっている。ただし安心してはいけない。過剰な人体破壊はないものの、ありそうなイターい描写はモリモリ登場する。やっぱりハサミが大活躍し、「あ、ここ切られたら痛いだろうな」という身体の部位(首やら、ひざの裏やら)がチマチマチマチマ切られ、かえって生々しいので、常に緊張して観ることになる。もうこの監督の残酷表現に対する器用さは、才能という他ない。

痛々しいのに美しい、幻想的な映像に驚愕

 ところが、この映画は単なる血がドバドバ飛び散るスプラッターとは違うのである。それは本作の幻想的な世界観によるところが大きい。主人公リュシーたち3人が閉じ込められる邸宅は、中世を思わせる佇まいの巨大な屋敷。その周りには当然のように鬼火が灯っている。さらに暗闇から登場するのは、白いチュチュを身にまとった少女たち。時計仕掛けの人形のように動き出す美しい死体。主人公たちが屋敷に入った瞬間から、映画全体が完全にゴシック・ホラーの雰囲気に包まれるのである。ただ、前述したような“血がドバドバ”なスプラッター表現も次々と登場するので、かなり面食らうことになる。実は過去にもこのような組み合わせ(残酷表現+ゴシック)を用いた映画として、ダリオ・アルジェント監督『サスペリア』や、ティム・バートン監督『スリーピー・ホロウ』などがある。ただこれらは一方は残酷表現に偏っていたり、あるいはゴシック方向に傾いていた。『リヴィッド』はこれらのどちらとも違う、絶妙なバランスの世界観になっている。「痛々しいのに美しい」驚きの映像である。

スタイリッシュではない、異形のモノとしての吸血鬼

 そして、もうひとつ注目してほしいのが、この作品の題材である。本作はいわゆる吸血鬼の物語だ。ただ、最近多数を占めるようになった『トワイライト』シリーズのようなロマンチックな吸血鬼ではないし、『アンダーワールド』シリーズのようなスタイリッシュなものでもない。生々しい、“異形のもの”としての吸血鬼である。本作に登場する吸血鬼・アナは、その肉体ゆえ屋敷の中以外の世界を知らない。そのため、まったく無垢な状態なのである。そのため人を殺して、血を吸うことは単なる本能的な行動である。また、肉体的には少女で、通常の人間を超えた怪力や超能力を持っているわけでもない。ただただ長寿なことを除いて。そんな彼女を母親であるジェセルは、自分の思い通りにするためにバレエを教え、そしてやがて本当に“人形のように”扱うのである。それは吸血鬼というよりも、「フランケンシュタインの怪物」のように、恐れられながらも忌み嫌われる怪物としての扱いである。非常に切ない物語でもあるので、最近の“カッコいい”吸血鬼に慣れてしまった方には新鮮に映ることだろう。

 そんな“人形少女”アナの世界は、同じく“別の世界へ行きたい”主人公・リュシーと出会うことで、劇的に変わることになる。果たしてこの二人の運命がどのようなものになるかは、スクリーンで確かめてほしい。こんなにダークな世界観にも関わらず、そのラストシーンは吸血鬼映画史上、最も美しいといっても過言ではない。

『リヴィッド』は9月8日(土)より、シアターN渋谷にてレイトショー
ほか、全国順次公開



『リヴィッド』 - 公式サイト

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カルト映画のフジモトの所見評価

【残酷度】★★★★

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