【編集部的映画批評】おぞましい“先生を流産させる”映画の盛況の秘密とは


 今回カルト映画のフジモトが紹介するのは、『先生を流産させる会』。実際にあった“妊娠した女性教師を流産させる”という恐るべき事件を元に描くフィクションである。公開決定前からその過激なタイトルや、映画化そのものに対する批判も相次いだ本作は、実際の内容はどんな作品なのか。公開後、単館規模とはいえ連日満席のヒットを続ける、その人気の秘密に迫る。

『先生を流産させる会』

郊外の女子中学校教員・サワコ(宮田亜紀)は、厳くも優しく教え子たちを指導していた。そんなサワコが妊娠した。一気に色めく立つ生徒たち。それは少女たちにとってひとつの事件だった。最も過敏に反応したのがミヅキ(小林香織)たちのグループ。「サワコ、セックスしたんだよ。気持ち悪くない?」妊娠を汚らわしい事と考える彼女たちは、廃墟となったラブホテルの一室で、ある会の結成の儀式をたてる。名付けて、“先生を流産させる会”。(作品情報へ

おぞましいタイトルとは裏腹な、正統派教育映画

 タイトルからイメージされるものとは違い、その実態は極めてキチンとした教育映画であった。むろん物語を構成する“事件”自体は非常におぞましいものである。ストーリー自体も、実際の犯行にできる限り忠実に描いている。(参照:NAVERまとめ『先生を流産させる会』映画化…実際に起きた悲惨な事件の概要) だが本作で主に描かれているのは、そういった残酷な部分ではなく、“実際の教育現場での問題”である。例えば、凶行に及んだ生徒を学校側が体裁のためにかばったり、モンスターペアレンツたちに被害者であるはずの女性教諭が罵声を浴びせられる様子などが描かれている。実際の事件ではその後“犯人”と思われる生徒たちの実名を誤って報道するなどの問題も起きているのだが、こういった部分は省かれている。さらに極めつけは、被害者となる女性教諭の描き方である。妊娠4ヶ月のはずの彼女は常にハイヒールを履き、生徒に対する態度も厳しい。また、最終的には自分の子供よりも、生命の大切さを説く“教育”を選択することになるのである。つまり、この女性教諭を母親としてではなく、戦う教育者として描いている節があるのだ。これがリアリティのある表現かどうかは別として、明確に“教育現場”を描こうという意図があるのは確かである。

実行犯の性別を置き換えることで生まれた、新しい物語

 そして、もう一つクローズアップされているのが“思春期の少女たちが覚える感情”である。“先生を流産させる会”の中心人物のミズキは、女性教師が妊娠していることに対しあからさまな拒否感を示す。この感覚が凶行の引き金になっているのである。女性なら一度は感じるであろう普遍的な感情を、設定を変えることで表現している。またメンバー全員が同じ程度に嫌悪感を持っているわけではない。あるメンバーは恐怖心からリーダーであるミズキに従っているだけで、自主性を持って凶行に及ぶわけではないし、また別のメンバーは男性教諭への恋心から“流産計画”に消極的になったりもする。本作の元となった恐ろしい事件の実行犯は女子生徒ではなく男子生徒である。そして(実際のところは不明だが)彼らは日常のやり取りで、純粋に女性教諭を恨んでいたようである。こういった単純な悪意や、事件をただ再現するならばドキュメンタリーにすればよいだろう。ところがこの映画は、設定を改変することで、少女たちの新しい物語を構築しているのだ。少女たちが嫌悪したのは、女性教諭そのものではなく、妊娠している女性であり、自分達に起こりつつある性的変化なのである。

極めてエンタメ志向な、監督の恐るべき手腕

 こういった、一見きまじめな題材にも関わらず退屈せずに見れるのが、本作の一番驚くべきところである。舞台となる郊外の田園風景や、アジトである打ち捨てられた廃ホテルは恐ろしく美しく撮られているし、劇中に流れる重低音の楽曲と映像の組みあわせは、スタイリッシュとさえ言える。何より、“先生を流産させる会”メンバーと女性教師のやりとりが一方的なものではなく、海外のスプラッターやホラー映画のような“追うものと追われるもの”という対決形式になっている。作品全体に異常な緊迫感が漂っており、最後までハラハラさせられるのである。このような重い題材をエンターテインメント的に見せる志向は、一昨年に大ヒットした『告白』とも共通しているところ。これが、本作のロングランヒットの要因の一つではないだろうか。つまり、単純に監督の演出・編集の手腕が優れているのである。もちろん、その衝撃的なタイトルが、一番の宣伝材料になっていることは間違いはないが。

 フィクションとして映画化するのに、こういった題材を選ぶことに賛否はあるだろう。ただし作品への批判はやはり、それを観てから行うべきである。考えてみれば、過去にも極めて残酷な事件を元にした映画はいくらでもあるのである。例えば連合赤軍内部での凄絶なリンチ事件を描いた『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』や、東大阪集団暴行殺人事件を元にした『ヒーローショー』があり、海外のホラー・サスペンス映画を例に出せば枚挙に暇がない。そしてそのほとんどが、凄惨な題材を借りて“製作者が表現したいもの”をスクリーンに投影している。表現方法そのものを否定してしまっては、フィクションというジャンルそのものを否定することになるのではないか。

鑑賞の入り口となるそのタイトルは、かなり不快かも知れないが、是非一度は見ていただきたい。男性、女性、そして母親など、それぞれの立場で見えてくるものがかなり違う作品である。



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カルト映画のフジモトの所見評価

【衝撃度】★★★

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