【編集部的映画批評】みんなで繋がれば怖くない、自己責任爽やかホラー 『ムカデ人間』


 今回カルト映画のフジモトが紹介するのは、『ムカデ人間』。想像するのも恐ろしい人体実験を実行に移してしまうマッドサイエンティストと、実験の結果誕生した“ムカデ人間”のサバイバルを描くカルトホラーだ。続編『ムカデ人間2』公開も決まったので、次回作への免疫をつけるべく、爽やかに1作目を紹介!

『ムカデ人間』

 舞台はドイツ郊外。ニューヨークからの旅行者リンジーとジェニーはレンタカーで道に迷い、タイヤがパンクして森の中で孤立してしまう。携帯電話もつながらず、二人は歩いて助けを求めることに。降りしきる雨に凍えながら発見した人里はなれた邸宅には、かつてシャム双生児の分離で名を馳せた、元外科医のヨゼフ・ハイター博士(ディーター・ラーザー)が住んでいた。博士のおかしな様子に怯えた二人だったが、時すでに遅く睡眠薬で眠らされてしまう。気がつくと、2人は日本のやくざ・カツローとともにベットに縛られた動けない状態。3人の目の前で、ハイター博士は世にも恐ろしい演説を始める。今からリンジー、ジェニー、カツローの3人の口と肛門をつなぎ合わせ、手足の腱を切り、人類史上初の“ムカデ人間”を創り出す、と。やがて、世にも恐ろしい、常軌を逸した手術が始まるのだった…。(作品情報へ

爽やか!グロくない!自己責任制ホラー

 さて、誰もが気になるのが、実際「口と肛門を繋ぐとどうなるのか」ということだ。このあまりにおぞましい設定に、観ること自体を敬遠する方も多いだろう。劇中のハイター博士の説明を引用するとこうだ。
「A体、B体、C体の3つの人体の、ヒザの皿のじん帯を切除して四つん這いにさせ、A体の肛門とすべての歯を抜いたB体の口唇、同じくB体の肛門とC体の口唇を縫合して一体化させ、養分はAが口から摂取し、Bを通過してCの肛門から排泄させる」 
 実に恐ろしい発想である。しかし、設定だけに惑わされないでほしい。実はこの作品、びっくりするほど爽やかな映画なのだ。劇中では手術する様子は出てくるものの、いわゆるスプラッター映画のような直接的な残酷表現はほぼ無いと言っていい。最低限の部分を見せ、想像させる表現に徹しているのである。例えば、繋がれたムカデ人間の結合部を無理に見せようとはしないし、ましてや食事シーンなどは、出演者の台詞と表情のみに頼っている。実に爽やかではないか。おまけに完成したムカデ人間は、“オムツをした大人が、互いのお尻に頭を突っ込んでいる”という、もう笑うしかない外見なのである。逆に言えば、スプラッターや残酷描写のある映画を好んで見る方は、やや物足りないと感じるかもしれない。しかし、怖いもの見たさでドキドキさせてくれる、まさに自己責任制の良心的なホラーである。

がんばれ!ハイター博士!ちょっと間抜けなマッドおじいちゃんに萌えろ!

 さらに、人類史上初の偉業?を成し遂げる、ハイター博士のキャラクターが素晴らしい。今は引退してしまった高名な外科医という設定は、いかにも悪役だ。ところがこの人、かなり抜けたところがある。また、顔はちょっぴり怖いのだが、身体はか細いし、かなりお年を召したおじいちゃん。ちょっと非力だったりするので、何度かムカデ人間に逃げられそうになったり、捜索に来た警察にあたふたしたりと、そのおマヌケっぷりにはかなり萌える。だからこそ、ムカデ人間と博士のやりとりにドキドキするのだが、途中でハイター博士のことを少し応援したいとさえ思えてくる。

 しょっぱなから「人間は嫌いだ!」と宣言してしまったり、ムカデ人間の完成に涙を流したりと“マッドサイエンティストの鑑”のような行動もとるが、それさえも愛おしく見えてくるのである。この作品はおじいちゃん子だった、という方も必見の、“おじいちゃんムービー”でもあるのだ。まあ、実際こんなおじいちゃんがいたら嫌だが。

「関西のヤクザなめんなよ!」ムカデ人間1号こと北村昭博に燃えろ!

 前代未聞のムカデ人間に改造されてしまう面々もタダものじゃない。残念ながらムカデ2号と3号に扮した美人女優2人は、まったくしゃべれず唸るのみなので、ただただ哀れなだけなのだが、先頭に繋がれた1号役・北村昭博のキャラクターが強烈。登場時から「関西のヤクザなめんなよコラァッ!」「火事場のくそ力じゃこらあ!」など、極めて高いクオリティの関西弁で名台詞を連発。ちなみにハイター博士は英語、ムカデ1号は終始関西弁しか話さず、まったく最後まで会話はかみ合うことはない。この二人のちぐはぐなやり取りと、コメディ的サバイバル劇はこの作品の核だ。

 最終的にムカデ人間は、ハイター博士と対決することになる。この時の北村の演技が実に熱い。それまでこの関西のヤクザがどのような人生を送ってきたか、そこだけでもイメージできてしまう、素晴らしいシーンである。この出演がきっかけとなり、北村は邦画インディペンデント作品としては異例のロングランヒットとなった『サイタマノラッパー』シリーズの第3作に大抜擢。まさに海外からの逆輸入という形で、重要な役を演じることになった。ハリウッドの人気ドラマ「HEROS」が代表作だった北村だが、本作を見た人はもう、北村昭博=ムカデ人間1号、と刷り込まれてしまうはず。しかし、そんなイメージさえ打ち破ってくれそうな、そんな期待さえ抱かせる“熱さ”を感じさせる、今後が楽しみな俳優である。

そして伝説へ…『ムカデ人間2』はもっとヤバい!

 正直なところこれだけでもおなか一杯な訳だが、漏れ聞こえてくる噂によれば『ムカデ人間2』は一作目を超える壮絶さだとか。『ムカデ人間』では繋がれる人間は3人。しかし続編ではなんと4倍の12人が繋がれるらしい。しかもその12人を繋ぐ男が凄い。一作目とは違いマッドサイエンティストではないのだ。続編の主人公は警備員のおじさんで、『ムカデ人間』のDVDを繰り返し観ているうちに自分でムカデ人間を造りたくなってしまう、という設定だ。ハイター博士と違い、医者でも何でもない一般人によって、12人が口と肛門を繋がれてしまう…おわかりだろうか、この恐ろしさ。イギリス、オーストラリアではこの過激さ故に、上映禁止の憂き目にあったもよう。もちろん日本でも映倫の審査に引っかかったのだが、本編修正を加え“なんとか見れる残酷さ”に抑え、上映が決定した。きっとそこには伝説に残る悪夢が待っているはず。是非一作目で予習をし、続編で繰り広げられる凄まじい光景を想像して欲しい。きっと誰も見たことのない凄まじい映画になっていることだろう。だが、みんなで繋がれば、未知の世界も怖くはないはずだ!…たぶん。

『ムカデ人間2』は7月14日(土)より新宿武蔵野館にて禁断のレイトショー。

『ムカデ人間』『ムカデ人間2』 - 公式サイト
http://image.news.livedoor.com/newsimage/9/1/916efa74bb8f8c653f9cce0c76a6ce5f.jpg

カルト映画のフジモトの所見評価

【ホラー度】★★

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