「アップルのソニー買収」は、なぜガセネタと断言できるのか【デジ通】


年末、韓国紙が「アップルによるソニー買収の可能性」を報じた。信ぴょう性が薄い記事ですぐに沈静化したが、これを材料に、企業買収というものについて考えてみたい。

■そもそも企業買収の目的は?
まず、企業買収(M&A)は何を目的とするのだろうか。一般的には、新規事業への参入、企業再編、事業統合による競争力の強化、および救済である。

アップルは800億ドル近い現金(キャッシュフロー)を持っており、その気になれば、企業買収はほぼ自在である。むろん、実際に行うかどうかは別だ。

アップルがすでにソニーと資本関係を結んでいれば、ソニー低迷の影響が及ぶことを避けるため、「救済買収」という選択肢もあり得るが、そのような関係にはない。

ジョブス前最高経営責任者(CEO)はソニーを「めざすべき企業」に挙げていたようだが、それは別問題である。

ましてM&Aの際は、買収につぎ込んだ資金を素早く回収できるかどうかが問われる。では、ソニーの各事業分野の中で、アップルにすぐさま現金をもたらしてくれる、買収したい部門があるだろうか? 問題はこの点である。

■ソニーは金融業
IT関係者にとっては複雑な心境があるだろうが、株式市場においては、ソニーは「電気機器」メーカーとは思われていない。

もう少し正確に言えば、業種分類では「電気機器」だが、株価の変動は金融他企業への連動色を強めている。市場関係者(主に機関投資家)は、ソニーを「金融株」と見なしつつあるのである。

これは根拠のある見方である。2011年3月期(2010年度)のソニーの部門別売上高を見ると、以下のようになる。

コンシューマー・プロフェッショナル&デバイス(CDP、51%)、ネットワーク・プロダクツ&サービス(NPS、22%)、金融(11%)、映画(9%)、音楽(7%)の順である。

ところが営業利益を見ると、金融(51%)、音楽(17%)、映画(16%)、NPS(15%)、CDP(1%)となる。CDP、具体的にはテレビやデジタルカメラ、半導体分野である。

この分野の売上高は大きいが、実は「もうからない」分野なのである。逆に、ソニー損保などの金融部門が利益を支えている。「金融株」と見なされる根拠はあるわけだ。

■アップルが欲しがるのは?
いくら「もうかる」とはいえ、アップルが「金融株」となったソニーを買収する可能性はない。金融部門への進出を考えるなら(ないだろうが)、アップルがもっと重視する米国市場で、そこそこの金融機関に出資してノウハウを積むところから始めるのがオーソドックスな道だ。

映画や音楽分野の買収はあり得ない。アップルが独自の映像・音楽コンテンツを持つことは、「身内」に近いディズニーはもちろん、タイムワーナーなどとの関係を悪化させかねないので、このようなリスクもとれない。NPS分野のゲーム機やパソコンについては、アップルの事業分野とばっちり重なってしまう。

「手強い競合を消すために買収する」という手法はあるが、アップルがWindowsパソコンを開発することはない。これらは、経営資源の分散につながるだけで、有害無益である。

ゲーム機については、iPadなどをゲーム用プラットフォームとして育成すること(だいぶ進んではいる)で、すでに対応が進んでいる。

CDP部門全体ではなく、テレビやデジカメという個別分野については、買収の可能性は皆無ではないが、きわめて低い。すでに述べたように、「もうからない」分野を引き取れば、その体質改善にコストがかかる。

アップルがテレビに参入(この可能性はある)するとしても、生産は引き続き、アジアの受託生産メーカーに任せればよく、自社で持つ必要はない。デジカメも同様である(実施すれば「再参入」となるが)。技術開発やデザインに特化するなら、企業の買収ではなく、人材募集と一定の設備投資で十分である。

■韓国マスコミの被害妄想
結論は、今回の記事はガセネタ、せいぜい「希望的観測」だということだ。アップルとサムスンの「対立」構造から、韓国のマスコミが被害妄想的に「サムスン包囲網」的なものを夢想したにすぎない。

当然ながら、ネット世論もすぐに沈静化したし、ソニーの株価も「一日だけの上昇」に終わった。

もっとも、筆者はソニーの先行きはそう悲観していない。改善、あるいは改革すべき点があるのは事実だが、世界有数のAV機器メーカーとして生き残る余地は十分にあると見る。

むしろ、損保などの金融部門を売却し、その資金をまるごと新製品の開発に回すようなことが望まれると思うのだが……。

大島克彦@katsuosh[digi2(デジ通)]

digi2は「デジタル通」の略です。現在のデジタル機器は使いこなしが難しくなっています。
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