【2012年先取り映画vol.3】日本で聞いた話を元に生まれた“大きな愛”の物語


 2012年に公開を控える新作映画の中で、MOVIE ENTER編集部オススメの作品を紹介する「2012年先取り映画」。「映画はビビビ! のマサキ」は、第64回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞し、第69回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にノミネートされている映画『少年と自転車』を紹介します。

 本作の監督を務めるのは、カンヌ国際映画祭で、5作品連続で主要賞を受賞するという史上初の快挙を成し遂げている名匠、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督。彼らが、2003年に来日した時に「赤ちゃんの頃から施設に預けられた少年が、親が迎えに来るのを屋根にのぼって待ち続けていた」という話を聞いたことがきっかけで製作された作品です。映画初出演となるトマ・ドレは、オーディションで100人余りの中から抜擢された13歳の少年。本作では、カンヌで主演男優賞候補とも目されるほどの堂々とした演技を見せています。

あらすじ

 主人公は、もうすぐ12歳になる少年・シリル(トマ・ドレ)。彼の夢は、自分を児童相談所へ預けた父親を見つけ出し、一緒に暮らすことだった。ある日、美容師のサマンサ(セシル・ドゥ・フランス)と出会い、週末を彼女の家で過ごすようになる。サマンサとともに父親を探しあて、再会を果たしたシリルだったが、父親から「二度とここへ来るな」と言い放たれてしまう。実の父親に再び捨てられる姿を目の当たりにしたサマンサは、今まで以上にシリルと真摯に向き合うようになる。そんな彼女に少しずつ心を開いていくシリルだったが、自分が起こした事件をきっかけに窮地に追い込まれる。

カンヌで主演男優賞候補と目されるほどの演技に注目

 シリルは、どんなに父親に避けられていても、また一緒に暮らすことが出来ると思っていました。父親が売った自転車を取り戻した時、その気持ちはさらに強まります。自ら頼んで、サマンサの家で過ごすことになったのも、父親と暮らすための手段にすぎなかったのでしょう。シリルの言動や行動を見る限り、誰よりも感受性の強い少年のように思えます。「二度とここへ来るな」と自分の口からなかなか言えなかった父親の心情にも気付いていたはずです。これは、ある事件を起こした後にとったシリルの行動が物語っています。喜怒哀楽をうまく表に出せないシリルの表情や仕草、サマンサと出会ったことで変化していく様子を完璧に表現したトマ・ドレの演技に注目です。

シリルを変えたのは“優しさ”ではなく“大きな愛”だった

 施設の人たちは、シリルに父親への気持ちを抑えつけるかのように言い聞かせてきました。それに対しサマンサは、彼の気持ちを尊重し、現実を教えてあげることで、一人の人間として接していきます。彼女のシリルに対する言葉のひとつひとつは、人としての“優しさ”や“同情”ではなく、母性のある“大きな愛”を感じるものでした。初めて、人の“温もり”を知ったシリルは、少しずつ“大きな愛”に応えようとします。真正面から全力でぶつかっていき、どんなに反抗されてもゆるがない彼女の強さは、次第にシリルの閉ざしていた心を開いていきます。

純粋に映画の良さを堪能できる作品

 ナレーションがなく、過去に何があったのか、どうしてシリルが施設に預けられるようになったのかといった説明が一切ありません。余分な部分を削ぎ落とし、彼らの言動や行動でその背景や心情を汲み取っていくため、作品の世界観を押し付けるのではなく、観ている側に作品が委ねられているような感覚になります。また、本作では、ダルテンヌ兄弟の作品で今まで使用されることのなかった音楽を使用しています。その理由について「おとぎ話の中には、当然感情の流れがあり、新しい展開を迎える瞬間があります」とコメント。3D映像や壮大な楽曲を使用した作品が多い中でもいいですが、本作のようなシンプルな作りの作品こそ、は純粋に映画を堪能することができるのではないでしょうか。

 映画『少年と自転車』は、2012年春より、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー。

映画はビビビ! のマサキの総評

【見どころ】音楽が使用されているシーン
【こんな人に観て欲しい】素直になりたい人
【おすすめ度】★★★★★

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