ANREALAGE(アンリアレイジ)|“東コレ”Bestブランド探訪!
【東コレを振り返る/クリエーション・リアルクローズ部門】視覚と触覚、カタチとトロンプルイユに対する挑戦 - ANREALAGE(アンリアレイジ) 2012年春夏コレクション
11年10月22日(土)18時30分、「ANREALAGE(アンリアレイジ)」による2012年春夏コレクションが、「belle salle SHIBUYA FIRST」(東京・渋谷)にて発表された。
「感じる服 考える服:東京ファッションの現在形」への出展、「毎日ファッション大賞」の授賞式でのプレゼンテーションなど、例年以上に過密スケジュールのなか、最新コレクションが発表された。
今季は「SHELL」をテーマに、様々な立体物の包装に使われるブリスターパック(中身を抜いた梱包)に着眼し、人体(立体)と布(平面)、そして素材という平面同士に対する視覚と触覚に対するアプローチを行った。
中でも一際注目をしたのは、テーマである「SHELL(かたちの殻、抜け殻)」を表現するにあたって、素材やアイテムの持つ特性と向き合ってブリスター加工を使い分けている点である。(詳細はテクニック項にて)また、従来のトロンプイユに対する概念である視覚での騙し(例:ポケットがあるように見えるが実はプリント)に対して、新たな衣服での表現として触覚での騙し(例:ポケットがあるように感じるが実はなにもない)という「騙し絵の歴史の更新」と「デザインの内側と外側の境界線」というメッセージが込められている。
そして、殻と抜け殻という関係性、それは私たちの日常にも起こる「服を観る人と服を着る人」という関係性にも読み取ることができる。
ここ数シーズン、「カタチ」に対するアプローチを立体や視覚的錯覚を駆使して表現してきたが、今季もそれらを継承しつつも、衣服と人間の五感において最も密接な距離にある「視覚」と「触覚」に挑戦し、更なるテーマ性の発展と可能性を追求した。
マルタンマルジェラ、コムデギャルソン、イッセイミヤケ、ジャンポールゴルチェ、ミハラヤスヒロといった90年代を中心に多くのデザイナーが身体と衣服の関係性や可能性を追求したコンセプチュアルな作品を多く生み出し、なにかと対比されがちなアンリアレイジだが、その取り組みは「アート」というよりも「プロダクト」的な日常視点を持って、新しい素材開発や加工に取り組み「着られる服=リアルクローズ」に落とし込んでいる姿勢こそが、アンリアレイジのオリジルナルティ、そしてアイデンティティを感じさせる最大の魅力である。
そして、これらの技術や思慮を今後のコレクションへどう反映させていくか、多くの可能性や期待を持ち合わせている。
ベストルック
ブルゾン(PVC)に千鳥柄とブリスター加工を施したことで、身頃部分に独特の立体感を生み出している。ラウンドネックを利用してインナーのシャツを見せているスタイリングもバランス良く収まっている。また、ハイウエストのスカート柄の千鳥サイズの違いによる視覚的錯覚が働き、重なりの表情が面白い。
ベストアイテム
一見すると普通のブラウスに見えるが、ボタン、胸ポケット、袖口のタックといった部分にブリスター加工が施されている。樹脂を埋め込んでいるアウターよりも控えめな立体感なのでリアルクローズでも着れる一着。また、透け感がある素材なので、柄や色のあるインナーとのレイヤードにも映える。
テクニック
【ブリスター加工(コットン)】このトレンチコートでは、雨蓋など「形骸化されたディテールの抜け殻」を表現している。
完璧な熱可塑性をもたない素材(ポリエステルとコットンの混紡など)に対して、コットン素材がもつ立体保持における欠性(経年することで形状がだれていく点)をリアルクローズにおいて補する為に、裏から表面に染みが出ないように薄い樹脂を流し込み、布面に対してしっかりと接着するようにオリジナルの混合率で立体を固定している。
この特有の立体感にこそ、単なる転写や樹脂を埋め込んだだけでは決して生まれないブリスター加工ならではの表情でもある。
【ブリスター加工(PVC)】
同じく「ブリスター加工」だが、PVC(ポリ塩化ビニール)を用いて、「本来は機能を果たす為に生まれたデザインの内側と外側のあいだ、その境界線を象りました。」と述べたように、ポケットやボタンのディテールを平面に浮き上がる立体として固定した。
コットンとは加工方法が異なり、まず布で製作したポケットやベルトをポリウレタン樹脂により硬化させ、それを石膏で型どりしたうえで、雄型と雌型を製作している。そして、熱可塑性をもった布(主にポリエステル)を非接触熱400度のヒーターの中で加熱し、その後真空圧(空気を抜き真空状態)をバキュームし、雄雌型でプレスと同時に冷却して完成している。
【ブリスター加工(ポリエステルサテン)】
一見、何の変哲もないウールあるいは転写プリントのように見えるこのスカートだが、これも同じくブリスター加工で出来ている。ここでは、「同じ糸から形成されるにも関わらず、組織の違いにより共存できずにいた布帛とニットの関係性に注目した。」と述べたように、ニットの編み目の立体感をかたどり、その凹凸の輪郭を熱可塑性をもつ布帛の上にブリスターの手法とプリーツの手法を用いて浮き上がらせることで共存させた。
実際に肌に触れるとニットのような質感をもつこの布は、ドレープの落ち感やヘムラインから読み取れるように軽くて薄い春夏ならではの生地に仕上がっている。そこにこそ「形とその意味、形と質感や触感の関係性を壊すこと。 生地や布地は平面、そして二次元である」というテキスタイルデザインに一石を投じるている姿勢が伺える。
【パッチワーク】
そして、テーマ性とは少し距離があるものの、忘れてはならないのが「神は細部に宿る」という信念のもと、学生時代から取り組み続けているパッチワークである。
一見プリントのように何の変哲もない千鳥柄に見えるこのスカートだが、「千鳥柄が千匹の鳥というように、様々な質感違いの白と黒の生地を用いて、一羽一羽の鳥の表情や質感が変わるようにした。」と述べたように、目を凝らすと多様な素材や模様を用いられているのがわかる。この気の遠くなるような非常に細かなストイックな手仕事にこそ真骨頂が垣間見える。
【スタッフ】
ANREALAGE(アンリアレイジ)
DIRECTION:SHIGETAKA KANEKO
HAIR/MAKE-UP:KATSUYA KAMO(MOD'S HAIR)
PIANO/SOUND:IPPEI SUGIHARA
PHOTO:SEIJI ISHIGAKI(BLOCKBUSTER)
【ブランドプロフィール】
ANREALAGE(アンリアレイジ)
デザイナー:森永邦彦。1980年生まれ。東京都出身。早稲田大学、バンタンデザイン研究所キャリアスクール卒業。a real、unreal、ageをミックスし、リアルでありながら、リアルでない時代というねじれを内包したネーミングで2003年から活動を開始。古着のリメークに始まり、「神は細部に宿る」を信念にマニアックなクラフトワークを探求。2005年、ニューヨークの新人デザイナーコンテスト「GEN ART 2005」でアバンギャルド部門大賞受賞。2009年春夏「〇△□」(まるさんかくしかく)というテーマのもと、球体、三角錐、立方体に合わせて形づくったシャツ、トレンチコート、カットソーなどを制作。独自のコンセプチュアルな方向を見つけ、その延長上に、「凹凸」「シルエット」「wideshortslimlong」などを発表している。
取材・文:スナオシタカヒサ(DESERTS)