インタビュー:ニコール・キッドマン「実はとてもシャイで、電話で話すのは苦手なの」


映画『ラビット・ホール』は、ニコール・キッドマンが、ピュリツァー賞受賞の原作に惚れ込み、初プロデュース&主演を兼務したヒューマンドラマ。一人息子を交通事故で亡くし、喪失という穴に落ちた夫妻の姿を描く。素顔は「とてもシャイ」だと言う彼女が、同作について語った。
(文・構成:南 樹里)

――デヴィッド・リンゼイ=アベアーの同名舞台劇を映画化された経緯を教えてください。同作の映像化は、容易ではなかったと思いますが。

ニコール・キッドマン(以下、ニコール):まず、私はこの作品のテーマを信じていたわ。それに作るのが難しい作品を支援するのが好きなの。考えられないような重い悲劇にさらされながら、夫妻で異なるリアクションをするハウイーとベッカに、心を鷲づかみにされたのよ。ベッカとハウイーは、それぞれのやり方で悲しみに暮れながらも、一緒に生活している。そこに興味を感じたし、私がベッカを演じてみたいと思ったの。ブロードウェイの舞台では、(海外ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」のミランダ役で知られる)シンシア・ニクソンが、ベッカに命を吹き込んでいたわ。それで私は、このキャラクターを映画ファンに紹介することができれば、という考えに夢中になったのよ。

――本作では、プロデュースも務めましたね。

ニコール:ええ。私はいつも、極限の題材を扱った映画に興味を抱くの。基本的に、私が作る映画のテーマは、さまざまな形で現れる愛。私は人々が愛を渇望するとき、人々が愛を失うとき、その人々に興味を覚えるの。そして子どもを失うということは、自分が行きつく中でもっとも恐ろしい場所だわ。それに自分をクリエイティブに向かわせる場所は、自分が恐れを抱く場所でもあるのよ。

――原作のどのようなところに魅力を感じたのでしょうか?

ニコール:主人公の夫婦が自分たちの子どもを亡くしてから8カ月間。そのことに向き合いながら「どうやって人は生きていくのだろう?」。それに生きたいという欲求を奪い去ってしまうような大きなショックを受けたとき、「人はどうやって生き続けられるのか?」と考えたわ。それは「結婚」や「家族」に関することだから。

そしてこれは「生き続けること」と「希望」に関する問題だと思ったの。それこそ私がこの物語をとても素晴らしいと思う点なのよ。繊細さ、それに鋭い台詞を包括した手法。それと同時に驚くほど痛みが感じられること。誰かと共にいる理由だとか、人として痛みを通じてひとつになる時間が、この物語によって照らし出されるように思えたの。

――原作者のデヴィッド・リンゼイ=アベアーが、自ら映画の脚本を書いたそうですが。

ニコール:ええ。デヴィッドには天性の才能があると思うわ。映画的なセリフが、どのようなものかを分かっていたし。キャラクターたちのこと(彼らが何を体験してきたのか)を完全に理解してたから。彼との仕事は、本当に素晴らしい経験でした。

――そして今回、映画『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル監督を起用した理由は?

ニコール:私たちがジョンを監督に「選んだ」と言うよりは、「ジョンがこの作品を見出し、私たちはそんな彼を見つけた」。そう表現する方がしっくり来るわね。結局のところ、動機が純粋ならば、人は「この話を作りたい」と自然に集まってくるものなの。そうして知り合った者同士で企画を進めていくの。

――実際、監督とお仕事されて、いかがでしたか?

ニコール:ジョンは粋な人で、とてもオープンなの。役者にとって、オープンな監督と仕事をすることは、素晴らしいことなのよ。彼は監督であると同時に俳優でもあるから、演技をする上で欠かせないものを理解していたわ。しかも、この映画の題材自体が円熟した生々しいものだったから、登場人物の感情の多くを抑える必要があったの。そういったコントロールができる監督を求めていたので、ジョンは適任だったのよ。彼は、芝居がかった映画にならないように心がけていたから。

――夫・ハウイー役のアーロン・エッカートも素晴らしかったですね。

ニコール:アーロン・エッカートは、ハウイー役の第一候補だったから。彼が脚本を「気に入った」と聞いて、私たちは「やった! もしかするとアーロンはイエス(=出演する)と言うかも」と期待したわ。

――アーロンには、どのようにオファーしたのですか?

ニコール:すごく迷ったけれど、アーロンとは今まで何度か会ったことがあるから、私が彼に電話をしたのよ。実は私はとてもシャイで、電話で話すのは苦手なの。だから、誰かに何かを売れるようなタイプではないわね(笑)。

――「とてもシャイ」なあなたが、どのような口説き文句を用いたのか、興味があります。

ニコール:彼との電話では、俳優としてのあなたをとても高く評価していること、スクリーンで素敵な夫を演じられる男性だと感じている、といったことを伝えたの。

――そんなアーロンとの共演は、いかがでしたか?

ニコール:彼が加わったことで、この作品が輝いたと思うわ。アーロンは本当に素晴らしくて、彼があらゆる手段を試みる様子を見るのは最高だった。それに彼はとてもオープンだったから、一緒に仕事をするうえで理想的と言えるわね。

――交通事故の加害者である青年・ジェイソンを演じたマイルズ・テラーについてはいかがでしたか?

ニコール:マイルズこそ、まさに才能の発見だったわ。彼は顔が赤くなるという特徴があって、それがスクリーンで見て分かるの。素晴らしいわ! 俳優が顔色を変えられるというのは名演技の要素だから、そういう奇跡的なシーンがあることで感情がリアルに観客に伝わるのよ。

――主人公のベッカが置かれている状態(子供を失って以降の困難な状況)をどのように捉えましたか?

ニコール:子供を失くした女性なら、誰でもそういう感情を持つと思うわ。彼女は最愛の息子を失ったことで、弱りきってしまったのね。それでも毎朝目を覚まさなければならない。ベッカにとって唯一できるのは、ただ前に向かって進み続けることなのよ。彼女は必死になって人生を選ぼうとしている。だから絵画を取り外したり、家を片付けたりしながらこう言うの。「ただ悲しみに押しつぶされて死ぬなんて私にはできないわ。だったらどうやって生きていけばいいのかしら? その方法を見つけなきゃ」って。

――役作りは、どのようにされたのですか?

ニコール:ベッカを理解するために禁欲主義を試したわ。それで苦痛の中にいる彼女は、もし触れれば壊れてしまいそうだと思いながら演じたの。

――あなたの演技は、この痛切な物語にユーモアも与えていましたね。

ニコール:人生の中で、どんなにひどい苦痛に見舞われてもユーモアを失わないこと。それこそが人間の魅力だと思うわ。それが、このような物語を分かりやすくしていると思うの。だって、もし誰かが苦しんでいたとしても、その人を笑わすことができれば、多少なりとも心を開かせることができるわけだから。ユーモアは、いつだって存在するの。たとえ、それがダークな形をとっていたとしても。

――この映画は観客に何をもたらすと思いますか?

ニコール:映画の登場人物に対して、私たちは心を開くことができると思うの。それは彼らが皆、正直で本物だから。家族とはそういうものだし、映画を見た人たちは、登場人物たちと一緒になって彼らの体験を分かち合えると思うわ。

これぞニコールのはまり役と言えるベッカ役。愛息の死による深い哀しみを怒りに転じ、他者に対して冷淡になってしまう好演は、彼女にアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞主演女優賞にダブルノミネートをもたらした。大切な人を失った経験があれば、彼らの苦しみが自分のことのように感じられ、胸が締め付けられることだろう。

映画『ラビット・ホール』は、11月5日よりTOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国ロードショー。

映画『ラビット・ホール』公式サイト

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