米国でもSIMロックフリーiPhone開始!孤立する日本は変わるのか【世界のモバイル】


アメリカでSIMロックフリーのiPhone4の販売がいよいよ始まった。iPhoneの販売は全世界で基本的に通信事業者を通して行われており、特にアメリカではAppleとAT&Tとの間で密接な販売協力体制が結ばれてきた。だが、そのアメリカで事業者を経由しない単体販売が開始されたことにより、AppleのiPhone販売戦略は大きな転換を迎えることになりそうだ。

では、この動きは今後日本にもやってくるのだろうか?

アメリカでのSIMロックフリーiPhone4の価格は16GB版が649ドル、32GB版が749ドルとなっており、日本円ではそれぞれ約5万3000円、6万円となる。

もしAT&Tと契約してSIMロックありのiPhone4を購入すれば2年契約で前者が199ドル、後者が299ドルで済むことを考えると、ロックフリーの価格は3倍前後高い。そのため「ロックフリー端末を買うのは損で、契約して買ったほうが得である」と一般には考えられがちだ。

だがSIMロックiPhoneはAT&T以外のSIMカードが利用できないため、例えば年に数回海外へ出張へ出ればデータローミング代金はあっという間に数万円以上となってしまう。

企業での導入を考えた場合、目先の端末台の安さでAT&Tと契約購入するよりも、渡航先の現地SIMカードを用意した上でSIMロックフリーiPhoneを購入したほうがランニングコストが安上がりとなるケースも多い。
現在はオンライン販売のみだが、いずれ実店舗でもロックフリーiPhoneの販売ははじまるだろう

また個人で購入する場合でも、データ定額の無い安価な回線と会社や自宅の無料無線LAN回線を利用したほうが2年間の基本料金の合計金額は安上がりになる場合もある。例としてAT&Tの場合、25ドル/月のデータ2GBプランを2年間払えば600ドルとなり、これだけでSIMロックフリーの16GB版iPhone4の価格相当になる。

無線LAN利用が多ければAT&Tと固定契約せずに安価な通話プランに加入し、ロックフリーiPhoneを買うことも十分「アリ」なのである。このケースは極端な例ではあるだろうが、「契約してロック端末を買ったほうが安い」とは必ずしも言えないのである。

このほかにも会社経費で自由に端末を買うことができるなら契約不要で買えるSIMロックフリー端末のほうが購入しやすいだろう。また誕生日プレゼントに端末だけを買って贈る、といったこともできる。あらゆる家電製品が単体で購入できるのに、iPhoneだけが契約しなくては買えない、というのは本来はおかしいことなのかもしれない。


このようにAppleが単体販売を始めたことで、アメリカでは契約セットでのSIMロック付きiPhoneと、単体でのSIMロックフリーiPhoneを消費者が選択できるようになった。しかしこのことはヨーロッパではすでに当たり前のこと。ヨーロッパではメーカーの共通仕様端末を各通信事業者が販売し、安価に提供するためにロックをかけている。

そのため固定契約が終われば元の状態、すなわちSIMロックフリーにすることが消費者の当然の権利となっている。国境を越えて携帯電話を使うことが日常的なヨーロッパでは渡航先のSIMカードを入れ替えて利用できるSIMロックフリー端末の需要も高く、端末価格よりもロックの有無を重要視する消費者も多い。

そしてアジアでは日本以外の国ではほぼSIMロック販売が行われていない。そのためAppleストアへ行けばSIMロックフリーのiPhoneをその場で購入することができる国も多い。香港やシンガポールではわざわざロックフリーiPhoneを購入に来る旅行者もいるほどである。

つまりSIMロックフリーのiPhoneの存在は、実はヨーロッパやアジアでは特別な存在ではない。そしてAppleによるロックフリーiPhoneの直接販売も多くの国で始まっているのである。
アジアでは自由にロックフリーiPhoneが販売されている

ところがアメリカではAppleはiPhoneの販売開始以来、一貫して通信事業者と密接な関係を築き上げてきたが、今回、自らがロックフリーiPhoneの販売を開始するということは、単純にヨーロッパやアジアの状況に追従したということでは無い。ましてや日本におけるSIMロックフリーの流れとも全く異なる意図のものだ。

Appleが直接ロックフリー製品の販売を始めた意味は、もはやiPhoneが特別な販売方式を必要とする製品では無くなったということが大きい。今やiPhoneの人気は全世界的なものであり、iPhoneの販売を特定のルートだけに狭めておく理由は無いとAppleは考えているのではないだろうか。

昨年からは各国で複数の通信事業者からの販売も始まっているが、通信事業者の力を借りなくてもiPhoneは売れるだけの製品に育っているのである。

もちろんロックフリーのiPhoneの価格は「定価」となり、契約セット購入より割高である。だが消費者がiPhoneを選択する理由は価格ではなく「iPhoneだから」だ。中には毎年新製品が登場するiPhoneを「わざわざ」2年契約で買いたいとは思わない消費者もいるだろう。

また一方では、世界中の通信事業者が今やデータ定額プランを提供しており、iPhoneを単体で購入しても自分の利用実態に合った通信回線を別途用意することも簡単になっている。データ定額が高額で一部の事業者のみが提供していた時代では無くなっているのだ。

では、アメリカと携帯電話の販売方式が類似している日本でもAppleはSIMロックフリーiPhoneを販売するだろうか?

日本におけるiPhone普及を支えたのはソフトバンクの力が大きく、同社の功績は大きいとAppleは認識しているはずである。Appleとソフトバンクの関係は良好であり、AppleがソフトバンクのiPhone販売を急に打ち切ることは無いだろう。

しかしAppleとしては、世界各国でAndroidに引き離されつつある販売台数の差を縮めていくためにも販売ルートを増やす必要に迫られている。もちろん重要なのは「数」よりも「利益」だ。だが数の多さはデファクトスタンダードを生み、Appleが優れた技術やサービスを市場に投入しても利用者を増やすことが困難になる恐れが出てくる。

ましてやAppleは株式会社であり、株主を納得させる理由がなければ日本での一社独占販売を続けていくことは難しい。日本のように国民の大多数がモバイル端末を高度に使いこなす国でシェアを取ることはAppleにとっても重要な意味を持つはずだ。

ドコモやauとの販売交渉が難航するのであれば、自社でロックフリー端末を販売してしまうのは手っ取り早い。AT&Tとの蜜月関係を打ち破った今回の例を考えれば、ソフトバンクだけがiPhoneを販売する状況も変わる可能性は十分にありうる。

仮にSIMロックフリーのiPhoneが日本で販売されても、おそらくその価格はアメリカと同等になるはずである。そうなると「ソフトバンクと契約すれば割安で購入できるiPhoneをわざわざ単体で買う人はいない」という意見も聞かれるだろう。

だが、イオンがはじめた日本国内最安値の980円/月のデータ定額プランでもiPhoneを十分活用できる消費者もいるはずで、それらの層にとってはSIMロックフリーのiPhoneはたとえ単価が高くともランニングコストを考えれば十分魅力的な存在になるだろう。



iPhoneの拡販のためには、消費者に今以上の購入の選択肢を広く与えることが必要となっていくはずだ。また今後ドコモ端末のSIMロックフリー化が一般的になれば、日本人消費者にもロック有無のメリット、デメリットが意識の中に根付いていくだろう。

アメリカと同様、Appleが日本でもSIMロックフリーiPhoneを販売する下地は整いつつあるのである。


山根康宏
著者サイト「山根康宏WEBサイト」

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