「骨」それは自然が生み出した最高の造形美!写真で読む骨の世界【NEXT GENERATION】


写真の被写体には、様々なものがあるが、中でも生き物は神秘さと生命感溢れる題材だ。
動物の躍動感、筋肉の力強さ、生命の神秘に人は大きな感動を覚えるが、動物に活動を支える骨の存在は目にする機会が少ないものだ。

自然界がはぐくんだ骨は、時として驚くような造形美をみせてくれる。動物の中に秘められた骨そのものの魅力を余すところ無く表現し、アートとして骨をとらえた湯沢英治さんの写真展「BAROCCO」が、東京銀座のリコーフォトギャラリー「RING CUBE」9階で、4月20日〜5月22日まで開催されている。

■ウサギの骨との出会いから骨の写真集が生まれた
湯沢さんが、骨と出会ったのはウサギの頭骨だったそうだ。
「動物園で獣医さん(共著者の東野晃典氏)が骨の展示をしているところにたまたま行って。骨には人が描けないような複雑な線があるんです。最初に撮影したのがウサギの頭骨なんです。かわいい動物なんですけど、骨にすると歯の形が複雑で、とても気持ち悪いんです。」
この時の驚きと感動から、初となる写真集「BONES-動物の骨格と機能美」を作り上げていったという。この作品展は、サイエンスアート本として注目を集めた。

「市の博物館や動物園では、骨は貴重な資料でもありますし、貸し出しはさせてくれません。ですから出向いて、簡単なスタジオを作って、すべて自然光で撮っています。自然光だといろんな観点から見られるので、いろんな表情が見えてくるんです。

一番気に入っているのはホッキョクグマですね。頭部のデザインがF1の形にも見えそうだし、壺にも見えそうだし。ひとつの造形がそれにしか見えないより、多面性が見える方が面白いですよね。」

ホッキョクグマはウサギに比べると骨がすっきりしているそうで、
「歯で噛みちぎるような食べ方をすると、筋肉が強くなります。そうすると、骨の形も変わってくるのです。」

骨は土台であるのだが、筋肉によって形が作られていくのだそうだ。肉食と草食では、歯の形が違うため、骨の形も変わってくるという。

1冊目の骨の写真集「BONES-動物の骨格と機能美」は、このように骨の機能が話の中心となり、肢(あし)は本来の立っている状態のアングルで見せないといけない。それに対し、造形美をコンセプトとし自由なアングルの写真集「BAROCCO―Beauty of Bones 骨の造形美」が生まれた。

■アートとして骨を見る
一見、標本写真のようにも思われがちだが、湯沢さんは、動物学者ではなく、れっきとしたアーティストだ。
「本当にやりたかったのはアートなんです。でも日本でアート本は厳しい。そのため、機能を付けて分かりやすくしたのが、サイエンスアートとしての1冊目の写真集だったのです。この写真集の評判がよかったので、骨をアートにして撮ることに挑戦したのです。」

「機能美ではなく、造形美ですので自由に撮れるのです。たとえば、歯は上下逆に撮影することは機能から考えるとNGです。しかし、アートとしてとらえるのであれば問題ありません。見方をちょっとずらせば、花のように見えたりします。たとえば、角を組み合わせてツルのようにしたりしています。」

湯沢さんは、絵画的な手法も取り入れることで、造形美として骨以上の存在感を伝える写真に仕上げている。写真の中では、骨を自然が作り上げた彫刻のように撮っているのだ。

「中世の紋章のような形の骨もあります。職人が作ったようなデザインなんです。骨を通したデザインの本にもなっているのです。」
湯沢さんは、撮影するためにボーンコレクターの自宅に通って、骨を選び、検証し、時間をかけて撮影しているという。

撮影にはリコーのGR DIGITALを使っているという湯沢さん、理由はレンズの性能が高く、接写が可能なことだそうだ。
「1cmまで接写できることで、存在しているのに肉眼で見えない世界が見えてきます。親指の先ぐらいの小さな骨を拡大すると、見えてくるものがあるのです。一眼レフでも撮れるかもしれませんが、同じように撮れるのであれば、コンパクトな方がいいですよね。」
と、GR DIGITALの接写とフットワークの軽さが、今回の写真集でも役だっている。

■永遠を感じさせる骨というアート
「写真には、様々な情報が入り込んでいます。その中には時間が経つと古くなるものもあるのです。メイクやヘアスタイルなどファッションなどは時間が経つと古くなります。そうすると、それが写っている写真も古くなるんです。骨は、10年、20年経っても変わらないし、100年経っても変わりません。永遠の形を持っているのです。

また、日本でもフランスでもインドでも、どこにあっても違和感がありません。時間と国境を越えた作品になっているのです。」

骨の普遍性が、時間と国境を越えることの証明は、ある美術館内のブックショップで湯沢さんの写真集を購入された半数が外国の方だったことでも分かる。

湯沢さんは言う。
「読まなくても伝わるんです。写真は体験するものなので。撮るのも体験ですし、見るのも体験です。だから今回の写真集を海外に持っていきたいんです。流通させるには難しいので、これからですが。」

湯沢さんは、今後は骨以外にも新しいテーマに挑戦しようと考えているとのこと。湯沢英治さんのシュールレアリズムへの挑戦は、これからも続いていくのだ。


湯沢英治写真展「BAROCCO」
2011年4月20日(水)〜2011年5月22日(日)
開館時間:11:00〜18:00(火曜日休館)

湯沢英治
1966年 横浜市生まれ
海外の写真集やファッション誌を通して写真に興味を持ち、独学で写真技術を学ぶ。雑誌や広告分野で活躍するかたわら、水や石や生地のディテール、影、人の顔などの普遍的な事物をモチーフとした作品を撮り続け、シュールレアリズム作品の古典も多数開催している。2008年には初となる写真集「BONES-動物の骨格と機能美」(早川書房刊)を出版。アートと生物学の双方の視点から話題となり、多くの新聞・雑誌から高い評価を受けた。さらに2011年、骨をアートとして撮影した写真集「BAROCCO―Beauty of Bones 骨の造形美」(新潮社刊)を発刊した。

リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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