【力説自動車.web】第3回:被災地を全部直すな、これぞ世界遺産だ!
■【力説自動車.web】
・第1回:クルマ離れなんてウソ! 震災時こそクルマを!
・第2回:被災地のクルマたち
◆プロフィール
金子浩久
1961年、東京生まれ。主な著書に、『10年10万キロストーリー 1〜4』『セナと日本人』『地球自動車旅行』『ニッポン・ミニ・ス トーリー』『レクサスのジレンマ』『力説自動車』(共著)。
【オフィシャルサイト】
小沢コージ
バラエティ自動車ジャーナリスト。横浜市出身。自動車メーカー、二玄社「NAVI」編集部員を経 てフリーに。現在『ベストカー』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『MONOMAX』『時計ビギン』などの雑誌『carview』『webCG』『日経BPネット』『Vividcar』などネットに多数連載。
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あえて残す英断が欲しい
小沢コージ(以下、小沢):それからね、金子さん。被災地を見て思ったのは、これを全部直すなってこと。絶対直したがると思うんですよね、全国から集まる土建屋とか道路族とか。それになにかって油が腐るとか、子供に危険だからとか、遂行派の口実は山ほどあるでしょう。でもある意味、宝の損失だと思うんですよ。1000年に一回の人類に対する警告じゃないですか。ある意味、現代版『モーセの十戒』の現場そのものですよ。世界遺産にもなり得る。金子:全くの同感。これは日本のグラウンドゼロ(9・11のワールドトレードセンターのNY跡地)になると思う。思いを忘れない、尊い記念碑になる。なにより今回の復興は何10年も渡る地道な作業。となるとシンボルが絶対にいるしね。
小沢:それとこれは反対意見も多いはずですが、単純に観光資源という考え方もある。
金子:その表現は、ちょっとな。
小沢:確かにオモシロ半分の観光では困るけど、人類への教訓として残せば海外のバックパッカーや冒険者だけでなく著名政治家も来ると思うんですよ。放射線カットのN95マスクを付けて。実際、これからの東北地方は経済的落ち込みが激しい上に、根拠なき偏見と闘うわけじゃないですか。海外の人には無理してでも生で来て貰う必要があると思う。一度来たら格好の民間“FUKUSHIMA大使”になってもらえますよ。同時に、どこまで放射能被害が広がっているのか、どこまで世界的に大丈夫なのかを身を以てアピールして貰うことができる。これこそ国が取るべき英断だと思いますけど。
金子:正論ではあるな。ただし、行方不明者の捜索などもまだ途中だし、被災者の感情を考えると説得が難しい部分もある。
小沢:その通りですが、障害者問題がそうであるように、配慮しすぎって絶対にあるんですよ。実は当人より回りの健常者の意見だったり、少数のネガティブ意見を尊重しすぎるあまり、思い切った対策が立てられない。それこそが地震前の日本人の悪しき体質だと思うんですけどね。
金子:原発事故も先延ばし体質が生み出したようなもんだからなぁ。
小沢:ところでどこがいいでしょうね。もちろん大津波でも残った陸前高田の高田松原の杉は既にシンボル化決定ですけど。
金子:それは論議の対象だけど、僕が見た範囲では宮城県の国道395号沿いの新北上大橋の姿は壮絶だった。鉄橋が3分の1流失していたからさ。
小沢:あとは見渡す限りの焼け野原もどこでもいいから残して欲しいな。
金子:これは現場の心を出来るだけ尊重すべきだね。
実は被災者化した小沢!?
金子:ところでさ。こないだ4月7日の夜、被災者になったんだって。どうだった、気分は?小沢:相変わらず嫌みな言い方が秀逸ですが、マジ焦りましたよ、あの時は。送迎ボランティアで宮城の亘理町に寝てたんですが、忘れもしない夜11時32分、めちゃくちゃ揺れて仙台は震度6強。
金子:電気消えただろ?
小沢:一瞬にして、ガスまで停まりましたね。懐中電灯の位置も分からないし、手探りでズボン履いて5分後には乗ってきたプリウスに乗って高台目指してました。ミイラ取りがミイラとはこのことかと……。
金子:周りの状況はどうだった?
小沢:火事場のゴキブリみたいにクルマが一瞬で出ていて、渋滞になってました。ただ、すぐさま警察が出て交通整理しているのはさすがだった。慣れてる。
金子:でも震度6前後の余震は4〜5回あるんでしょ、あの区域は。
小沢:その通りですけど、6強は「今までになくデカかった」って避難所の人は言ってましたね。
金子:地震は慣れということがないよね。というか慣れてはきてるんだけど、次にもっとデカいのが……と考えるから恐怖は減るどころか増えていく。
小沢:でもね、金子さん。おかげでクルマの有り難みを再認識できましたね。揺れた直後は知らない宮城の家でラジオも聞けない、暖房もない状態。でもクルマに行けば、いつも通りにキーをヒネれば音楽が流れて、雨つゆが凌げる。クルマ好きの原点に戻れた。
金子:僕はクルマじゃ避難しないけどね。渋滞の元となって、徒歩の避難者を妨げることになる。コージ君の言っていることは、「被災時には、クルマがもうひとつの“家”となる」ということなんだろうけれど、僕は、もともとクルマに“家”を求めないからね。“家”を出ざるを得なくなったから非常時なわけで、そこはキッパリと分けたいんだ。
アフター3・11のカーライフ
小沢:地震後のカーライフって実際どうなると思います? 金子さん。金子:簡単に言うと、「戻って欲しいもの」と「戻らなくていいもの」に分けられるだろうね。単純に便利でよかったものは、あまり価値がなくなり、本当に現代人にとって必要な価値だけが残る。
小沢パワフルな自動車、カッコいいスポーツカーはどうなりますかね?
金子:それは残るよ。移動の楽しさは人間にとって根本的なものだから。ただし、デザインは質が変わるし、SUV的存在は、本当にスペースが必要な人以外は求められなくなるかもしれない。
小沢それとインフラが問題になってくると思うんですよね。例えば地震の時、都内の立駐が動かなくなったって言うじゃないですか。クルマは本来、使いたいときに使えないと意味ないのに、エンジンがかからないどころか、ターンテーブルが回らずクルマが出せない、的な問題。こういうインフラは見直されるべきでしょうね。
金子:浦安あたりの液状化は尾を引くだろうね。マンション本体に比べ、駐車場の修理は後回しになるはずだから。
小沢あとは交差点の信号ですよ。個人的には一部、北海道だけでもいいから信号のいらない合流式の「ランナバウト」を入れて欲しい。欧米じゃ当たり前で、アレなら停電でも走行安全が保たれるし、なにより側面衝突がなくなる。
金子:有名なところではパリの凱旋門。1970年代前半までは、都内にもランナバウトは残っていたし、こんなに信号もなかった。もちろん、交通量も増えているからという側面もあるんだけれど、「信号で停めること、すべてイコール安全」と短絡していることは否めない。優先する道路とされる道路を峻別して、一時停止を励行し、ドライバーが主体的に判断しながら運転する機会を奪っている。要りもしないところに信号機を乱設し、安全確認のための判断すら信号にボーッと依存してしまう体質のドライバーを増やしてしまった。これは、地震が起こらなかったとしても問題だと僕は思っていたよ。
小沢言えてる。
金子:それより問題はEV(電気自動車)の未来だよ。これまで去年の三菱i MiEV、今年の日産リーフと順調に普及が進んでる感もあるけど、ここにきて過度な節電ムードもあって価値観が変わりつつある。
小沢そこですよ、そこ……問題は!
(次回に続く)
・vividcar