【力説自動車.web】第2回:被災地のクルマたち
日本で買えるすべてのクルマを独自の機軸で評価し、日本の自動車社会を批評した二部で構成し、全ページを対談形式でまとめたものでした。
その復活版を発信しようと年明けから準備を重ねてきたところに、東日本大震災が発生。
それぞれが被災地を訪れた後に、被災地の様子とクルマについて語りました。
■【力説自動車.web】第1回:クルマ離れなんてウソ! 震災時こそクルマを!
◆プロフィール
金子浩久
1961年、東京生まれ。主な著書に、『10年10万キロストーリー 1〜4』『セナと日本人』『地球自動車旅行』『ニッポン・ミニ・ス トーリー』『レクサスのジレンマ』『力説自動車』(共著)。
【オフィシャルサイト】
小沢コージ
バラエティ自動車ジャーナリスト。横浜市出身。自動車メーカー、二玄社「NAVI」編集部員を経 てフリーに。現在『ベストカー』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『MONOMAX』『時計ビギン』などの雑誌『carview』『webCG』『日経BPネット』『Vividcar』などネットに多数連載。
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アルバムや写真は“思い出そのもの”
金子浩久(以下、金子):コージ君と行き違うタイミングで、僕も岩手と宮城に行ってきたよ。小沢コージ(以下、小沢):どこで何してきたのですか?
金子:以前に取材させてもらったことのある岩手の人が、宮城の南三陸町で被災したんだ。道路がガレキで埋まってしまったから、泣く泣くクルマを置いて歩いて岩手まで帰ってきた。その人と電話で話したら、「被災地のガレキの中には、アルバムや写真がたくさん泥だらけになって落ちていた。みんな、まだアルバムや写真なんかを顧みる余裕がないから、代わりに誰かが拾って上げられないか」と嘆いていた。それで、僕もそこへ行ったんだ。
小沢:でも、アルバムの復刻は地元カメラ屋の復帰仕事にもいいかもしれないですねぇ。
金子:クルマが通れるくらいの幅を確保するために、すでにガレキは重機で少しずつまとめられ始めてはいた。その間を歩いてみると、言われた通りに、すぐに落ちているアルバムが見付かった。
小沢:どんなアルバムでした?
金子:文房具屋とかで売っている、ごく普通のアルバムで、泥まみれになっていた。開けてみると、泥水が全ページに染み付いてしまっていた。中年の女性のものらしく、家族旅行や職場の同僚たちと撮ったもの、趣味なのかコーラスの発表会の様子なんかが撮られていた。
小沢:人のアルバムは…いろんな意味で重いですよね。
金子:うん。無事でいてくれて、このアルバムを再び手にすることができるといいなと願うばかりだった。
小沢:金に換えられない財産ですからね。俺も良く、「クルマバカ」を取材して写真の取り扱いには気を使いましたよ。無くしたらとんでもないことになる(苦笑)。
金子:普通の人の普通の写真が貼られたアルバムが、本当にたくさん泥まみれでそのままになっていた。僕が預かるわけにはいかないから、泥を拭って、何冊かまとめて、カゴや箱に収めて、雨に濡れないよう、倒れていない建物の中に置いてきたよ。
被災したユーザーには資金援助を!
金子:クルマについては、宮城県で買ったばかりの新車を津波で流され、手放さざるを得なくなった人に会った。小沢:本人は大丈夫だったんですか?
金子:幸い、ご家族ともども無事だった。流されたBMW120iは、300メートル先の知らない人の家に突っ込んでいたんだって。
小沢:結構近くにあるんですね。で、状態は?
金子:いろいろ調べたけど、ダメだった。エンジンやトランスミッション、電気系統などが海水を被って、電磁ロックのドアさえ開けることができなかった。
小沢:最新カーはそこがツライですよね。最新の高層ITビルと同じで。
金子:ハンドルロックも解除されず、トランクも開かないんだから。
小沢:すべてが電気仕掛けですからねぇ。海水を被ったら、一巻の終わり。
金子:その人は、レッカー業者を呼んでクルマを引き出したんだけど、その業者は新潟から来ていた。付近のレッカー車やクレーン車も一緒に津波で流されちゃったから、いま、東北には全国からレッカー業者が集まってきている。被災したのはユーザーやレッカー業者だけでなくて、ディーラーもそう。だから、ユーザーのクルマを修理したり、牽引したりしたいところなんでけれど、“申し訳ないけど、まだそれどころではない”というところが少なくないのが現状だった。メーカーやディーラーによって、対応にずいぶんと違いが出てきてしまっているらしいけれど、それも現時点では仕方がないかもね。
小沢:今後、被災“車”の保険問題はデカいですよ。買ったばっかで被災したひととかいるみたいだし…。
金子:彼に限った話ではないけど、津波は天災だから、車両保険が適用されないのが気の毒。廃車せざるを得なくても、生活と仕事のために、次のクルマを買わなければならない。
小沢:やっぱ中古の軽とか買う人が多いんですよね?
金子:僕もそう思ったんだ。そうしたら、彼は正反対のことを口にした。
「年式は少し落ちるかもしれないけど、同じ色の同じモデルを買って乗ろうと思うんですよ。乗りたくもない“足グルマ”で済ませて、萎縮なんてしたくない。同じクルマをもう一回買って乗ることで、気合いを入れたい。昨日、ちょうどネットで頃合いの一台を見付けたんですよ」
普通だったら、被災して家計が苦しくなるはずだし、道路だってまだ陥没したり、ヒビ割れたりしている。守りに入るはずでしょ。
小沢:かなりカッコいいですね、その人。
金子:だよね。でも、心の中では涙を流しても、それは見せないで涼しい顔して、あえて同じクルマを買い直して乗る。なかなかできることじゃない。クルマ好きの心意気に触れた気がして、ちょっと感激したよ。
小沢:泣けてくる話ですね。BMWジャパンの社長に聞かせてやりたい。
金子:その人も望んでいたけど、被災したユーザーがもう一台そのメーカーのクルマを購入する場合は、何らかの資金的な援助をすればいいと思うんだ。助け合いだし、ブランドロイヤリティは上がるし。
小沢:いいじゃないですか。同じクルマを買った人は1割引き! いや2割引き!! とか。
金子:行政は、被災者の被災したクルマの、3月11日以降の従量税と自賠責保険の還付を早く行うべきだね。
小沢:あ、俺も先日急遽引っ越したんで、火災保険戻ってくるんだった。忘れてた(苦笑)
(次回に続く)
■金子浩久blog「笑顔の向こう〜Behind the wheel〜」(みんカラ)