【日本アカデミー賞特集】殺陣のシーンは斬られ役が支える、“協会特別賞”が熱い


 日本アカデミー賞の受賞式と言うと、どうしても作品賞や主演男優・女優賞に目が行ってしまうもの。しかし、それ程大きくメディアで取り扱われない賞でも大きな魅力を持っているものがある。その一つが「協会特別賞」である。(全部門の受賞一覧はこちら

 「協会特別賞」は、映画製作の現場を支える種々の職能に従事する人達の栄誉を称える賞である。今回受賞したのは、こちらの5人。

上野隆三(殺陣)
1959年に『鷹天皇飄々剣・吉野の風雲児』で殺陣師としてデビュー。『仁義なき戦い』シリーズや『柳生一族の陰謀』など時代劇、現代劇を問わず、現在に至るまで映画だけでも170本の作品を担当。50年以上の長きにわたり、現在も現役の殺陣師として第一線で活躍しながら、若手の育成にも尽力している。

久世浩(殺陣)
武家の作法や所作に深い造詣を持ち、時代劇映画には欠かせない存在だが、現代劇にも手腕を発揮。『野性の証明』『乱』『岸和田少年愚連隊』『武士の一分』、そして今回の日本アカデミー賞で優秀撮影賞などを受賞した『必死剣鳥刺し』など数多くの作品の殺陣にオリジナルの工夫を盛り込んだ。新人達の養成にも力を入れ、“久世七曜会”という会を主催している。

松本良二(装飾)
家具や出演者が身につける小道具など、映画に必要な全ての諸道具を用意するのが“装飾”。そこで選ばれる品は登場人物の身分や職業、性格、趣味、さらに健康状態や経済状態まで表現する。松本氏はそんな美術を含めた映画全般の教養が要求されるこの仕事の第一人者である。『ひかりごけ』『居酒屋ゆうれい』『OUT』など現在まで60本を越える作品を担当。

矢島信男(特技監督)
1960年代、テレビ特撮作品も数多く手掛け東映特撮の基礎を築く。株式会社特撮研究所を設立し『人造人間キカイダー』などのヒット作を世に送り出した。『宇宙からのメッセージ』『魔界転生』『里見八犬伝』などを数多くの作品を担当し精力的に活動。現在は後進に特技監督の座を譲り監修の立場に。2006年には第4回文化庁映画賞・映画功労表彰を受賞。

野上照代(記録・黒澤組プロダクションマネージャー)
スクリプターとして、プロダクションマネージャーとして、そしてエッセイストとして、日本映画の黄金時代の一翼を担う。『白痴』以外の全ての黒沢作品に記録、編集、製作補として関わった黒沢映画の創作の秘密を知る貴重な証言者。自らの少女時代を描いた『父へのレクイエム』は第5回読売女性ヒューマン・ドキュメンタリー大賞の優秀賞を受賞。同作は山田洋次監督により映画『母べえ』として公開された。

 まさに日本の映画界を支えているといって過言ではない大人物達である。受賞のコメントで特に印象に残ったのは、上野氏の「殺陣師はいくら頑張っても駄目。東映には“斬られ役”の専門集団がいて、その人達に助けられて今日ここまで来た。夜中の2時ぐらいに電話があって、「明日どの様に斬られれば良い」と聞いてくるそんな人達に支えられてきました。」という話。殺陣は華やかな“斬る役”だけでは成り立たず、“斬られ役”がどれだけ鮮やかに斬られるかということも重要だと言うこと、そしてその裏に徹する“斬られ役”への感謝の気持ちが胸に伝わってきた。さすがに半世紀も映画界を支えてきた大人物の言葉は深かった。

 最優秀作品賞や主演男優・女優賞に注目するのも良いが、この様な賞に注目してみるのもより映画の深さを感じることが出来て良いのではないだろうか。なお上野氏は、今回、撮影・照明・美術・録音の4部門で最優秀賞を受賞した『十三人の刺客』のオリジナル版(1963年公開)でも殺陣を担当していたそうだ。

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