心眼が生み出す写真家と観客の新世界 写真は芸術と認められるのか【新-写真空間】


心眼(しんがん)。それは心の目によって目では見えない真実を見抜く力のことである。

そんな、心眼をテーマにした写真展「Secret〜心で感じる写真展〜」が開催される。場所は、銀座のど真ん中にあるフォトギャラリー「RING CUBE」だ。

「心眼を極める」というテーマの今回は、チャリティーとして全作品一律の1万5000円で販売されるのだが、展示される作品の作者が公開されないのだ。つまり、来場者は、自分自身が作品だけを見て、手に入れたい写真を選ぶことなる。1作品に、複数の購入希望者がいる場合は、抽選で購入者が決定する。展示作品の全売り上げは、「NPO法人 やんばる森のトラスト」が実施する森林生態系保護プロジェクト活動へ寄付される。

作家名で作品を選ぶのではなく、見る人が作品1点1点と真剣に対峙し、作品に込められた作者の想いに触れて欲しいという想いが込められている。


「Secret〜心で感じる写真展〜」に出展された作家の柳瀬元樹氏と丸谷裕一氏にお話を伺った。

■作家名を見せない!そこには真剣勝負がある
丸谷氏は、「名前を出さないことに怖さはないですね。並み居る諸先輩がたと同じ土俵で勝負できるドキドキ感はあります。」と、作品だけで勝負できる緊張感をあげてくれた。

また、こうしたドキドキ感は、見る側にも大きいという。
「今回は、とくに買っていただくという行為が大きいです。見るだけと、自分が実際にお金を払うとなると、見極める力や決断する力は、すごいパワーいるわけです。そうした厳しい目の中で、自分の写真が選ばれて、購入されたら、すごくうれしいことですよね。」
作者名は非公開

柳瀬氏も、
「写真家は、写真家なりの心眼で撮っていますが、場合によっては見る人にとって、誰が写真を撮っているかなんて関係ないという側面もあります。とくに、写真を買うという行為の前では、作家の名声などとは関係ないところで、見た人が欲しいと思える写真を撮れたらいいなとは思います。

人が本当に欲しいと思ったら、それを買うじゃないですか。写真を買うという行為も、そうあるべきだと思うんです。」


写真を撮るのも出会い、写真を買うのも、また出会いだと二人はいう。

■日本のアートとしての写真とビジネス
日本には、欧米とは違い、写真をアート作品として売り買いする商習慣が希薄だ。そのことについて伺ってみた。

丸谷氏「日本には、写真を買うという文化がないですね。買う側にも自分で購入を決断せず、周りの雰囲気や固定概念の縛られやすい風潮があります。それは、写真は誰でも撮れて身近なモノとなっていることが大きいですね。」と、丸谷氏は写真家の作品と一般の人の写真が同じモノのように見られている現状を指摘する。

柳瀬氏も「写真家は、1枚を撮るために長年にわたり技術と感性を磨き、1枚の写真作品を仕上げるために多くの労力を注いでいます。」

確かにシャッターを押せば誰にでも写真は撮れる。だが、よい作品を続けて生み出すために、経験と投資をしてえられた技術があるからこそ、人の心に響く作品を作り上げられるわけだ。
作者名は非公開

■カメラは大事、されどカメラに依存しない
よく高級なカメラのほうが、いい写真が撮れると思ってしまうことがある。
「確かに、コンパクトカメラより一眼レフのほうが、撮影技術も画質面も有利ではあります。しかし、それは必ずしもよい写真を撮る正解ではないのです。」と丸谷氏はいう。

写真は、「技術と感性」、「機械(カメラ)と人」が真に融合して出来上がるアートなのだ。

柳瀬氏は「写真は撮っただけでは作品ではない。プリントひとつにしてもどう焼くかでまったく違うし、プリントだけでは飾ることもできない。額装も含めたフィニッシュが大切です。撮影から現像、プリント、額装までいろいろな行程があってはじめて写真作品となるのだと思うのです。」
作者名は非公開

■写真集とオリジナルアート
日本では、アイドルや有名写真家の写真集などは売られている。しかし、こうした複製でなく、オリジナルプリントの作品をユーザーに届けたいと二人をはじめ、今回の作品展の出展した作家たちは、思っているに違いない。


今回、オリジナルの写真を、お金をだして手に入れてもらうということは、小さい一歩ではあるが、写真家と見る人にとって、大きな一歩になるのかも知れない。

柳瀬元樹
1978年東京生まれ。
2006年より写真家として活動を始める。
2008年「ユーゴの残影」にて第4回名取洋之助写真賞受賞。
全世界をフィールドに撮影活動を行う。
www.genkiyanase.com

丸谷裕一
1974年青森県生まれ
2000年に訪れたタヒチの美しさに魅了され写真の道を歩み始める。
2004年株式会社シー・エム・エス所属となり、写真家テラウチマサトに師事。現在は人物、広告などの撮影のほかに撮影講師としてもフィールドを広げており、わかりやすい指導には定評がある。前職は洋服店店長、大工と異色の経歴を持つ。
2007年4月 グループ展「1+14 横浜写真アパートメント」参加・写真展示
 横浜・北仲WHITEにて開催
9月 同「横浜シャシンエキスポ」参加・写真展示 BankART 1929 Yokohamaにて開催
12月 写真集「GR SNAPS」作品掲載
2008年3月 リコーコンパクトデジタルカメラCaplio GX100スペシャルカタログ 作品掲載
4月 リコーフォトコンテスト展 作品特別出展 東京・銀座 洋脇ホールにて開催
2009年3月 PIE2009にてモデルポートレイト撮影講師
2011年2月 CP+2011にてセミナー講師予定


リコーフォトギャラリー「RING CUBE」

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