トップランナーであり続けるために〜HONDAのエコ活動 第2回目


自動車の環境対策の先駆者とも言うべき本田技研工業株式会社(以下ホンダ)は、現在も最新の技術を駆使して環境に配慮したモーターモビリティを開発している。これは1972年にマスキー法に準拠したCVCCを発表したことで、一躍世界に認められる企業となった経験があるからだ。

前回はホンダの環境対策の歴史を覗いたが、今回は現在のホンダの取り組みを伺ってみたい。解説していただくのはホンダの環境安全企画室室長の篠原道雄氏だ。


――現在のホンダの環境対策は環境保全や緑化、教育など多岐に渡りますが、もっとも注力しているのはどの分野になるのでしょうか

篠原:やはり製品群ですね。現在、自動車を取り巻く環境問題は大気汚染から温暖化に代わり、CO2(二酸化炭素)の排出量を削減するという所に焦点が当てられています。このCO2は特に石油を燃やすと大量に排出されますから、CO2の排出量を削減するためにいかに燃費を向上させるかということが課題となっているわけです。

――燃費の良い自動車、というのはまさにホンダの真骨頂ですね。

篠原:はい。まず第一段階として車体をコンパクトにして、より適正で効率の良い内燃機関を使って燃費を向上させます。そして第二段階ではCO2を排出する燃料を最小化するためには車両の電動化の研究を進めています。他にもカーボンニュートラルという考え方(石油を使わず、CO2を吸収して排出する植物をバイオ燃料として使用すればCO2は出るが、植物もCO2を出しているので排出されるCO2の量は同じ、という考え方。)もあるのですが、バイオ燃料は物理的に量が少ないため、ガソリンの代替にはなりません。


――やはり自動車の電化が重要になってくるわけですか。

篠原:ただ、その電気をどこから持ってくるかという問題もあります。例えば中国やインドなどのような火力発電が多い地域だと、電気を作る時に大量のCO2が排出されます。そういった地域で一気に自動車を電動化すると、逆に大量のCO2が排出されるという事態を招いてしまいます。つまり自動車を電化すればCO2が減るというのは場当たり的な議論で、さらに言えば、現在の電気自動車は走行距離の短さ、電池の価格の高さ、充電時間の長さなど機能面で不便な所があり、既存の自動車の代替品となることは難しいでしょう。



――すると現段階ではどのような燃料方式が利便性を失わず、環境にも良いとお考えでしょうか

篠原:世界的な視点から言えばハイブリッドカーではないでしょうか。ハイブリッドカーは外から充電する必要はなく、走行で充電します。従来の車の走行距離は平均20?/1ℓであるのに対し、ハイブリッドカーは平均30?/1ℓになります。少量の燃料と自家発電になりますので、とても効率的です。ですから短期的な見通しだと自動車はハイブリッド化してくると考えています。

――なるほど、ハイブリッドカーの時代がやって来るわけですね。

篠原:他にもプラグインハイブリッドも同じように登場してくるのではないでしょうか。これは普段の走行距離が少ない日は電気で走り、家庭用電気で充電をします。そして長距離走行の時はハイブリッドとなって走るという方式です。


――ユーザーにとってはかなり便利な方式ですね。ちなみにこのプラグインハイブリッドの次の環境対策も考えているのでしょうか?

篠原:実は、我々は水素を燃料として使う電気自動車を開発しました。これは空気中の酸素と水素を反応させて電気を発生させる燃料電池という電池を搭載し、発電しながら走る燃料電池電気自動車です。水素は地球のどこにでもありますからエネルギーのサスティナビリティという面では圧倒的に高く、しかも排出するのは水のみ、というクリーンなエネルギーです。電気自動車としての性能も高く、1回の水素補給で走行距離は600kmほどになります。


――大気も汚さず、大量にあるエネルギーというのは魅力的ですね。

篠原:ただ現段階では2点問題があります。1点目は使用している技術が高度なため、価格が高いこと。2点目は「水素は危険」という世間的な意識です。実際、日本で水素を使おうとすると行政的に難しく、水素補給スタンドの設置も難しいのです。



――確かに水素は洩れたら爆発するイメージがありますね。

篠原:そのイメージは正確ではありません。というのも水素は空気の29分の1の重さしかありませんので、漏れてもすぐに上空に飛散してしまいます。実際、アメリカの水素を研究するラボでは日本のように防爆の密閉空間ではなく、天井が空いていて、洩れたらすぐに飛散するようになっています。このように水素を燃料とする燃料電池は危険性が低い上にCO2を排出しない究極のエネルギーだと思っていますので、研究・開発は続けていきます。

――しかし、そういった水素の知識の普及など環境対策は今後も課題が多そうですね。

篠原:たしかに、環境対策の課題は山積みで、命がけでやっても簡単ではない。たとえば2050年までにCO2の総排出量を半減させる目標があるとします。現在、世界中の乗用車の平均燃費は1キロ走るのにCO2を300グラム排出しています。さらにこれから発展途上国の自動車台数は3倍に増えると言われています。そうなると車の量が3倍で全体の排出量を2分の1とすると、1台のCO2排出量を6分の1、1台当たりのCO2排出量を51グラムにしなければなりません。現在、CO2排出量が51グラムで走るのは、うちのカブくらいでしょうか。つまり2050年にはハマーやキャデラックもカブのCO2排出量で走るようにしなければなりません。


――排出量取引という方法もありますが?

篠原:ホンダはそういったメカニズムに頼るのではなく、業務の中でどれだけ削減できるかという考え方をしています。国の決定で買うことになれば対応もしますが、「買って達成した」とは発表できませんよね。「達成できなかったので買いました」と報告するでしょう。

――では最後にお聞きしますが、現在のエネルギーのクリーン化の流れは72年のマスキー法制定時のようにチャンスだとお考えでしょうか?

篠原:チャンスというよりは「絶対にやらなければいけない使命」だと考えています。ホンダ社長の伊東孝紳は「良いものを、早く、安く、低炭素で提供する」という理念を掲げています。つまり、まだ世の中に存在していないモノをどこの企業よりも早く、お得感のある価格で、しかも低炭素で提供するという考え方です。もしホンダがお買い得感のある上にクリーンなエネルギーを使う車を発表すれば、皆さんが乗ってくれますよね。そうすることで自然とCO2が削減されていく、そんな状況を目指していきたいと考えています。


ホンダほど企業の理念を製品に落とし込んでいる企業は珍しいのではないだろうか。特にはホンダの理念と技術を象徴しているように見える。ではホンダが開発した燃料電池電気自動車とはどのようなものだろうか。


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