ドコモのiPad用SIMカード発行断念は早計だった?iPadのSIMビジネスが加速する海外【世界のモバイル】


5月28日から日本を含む各国でiPadの販売が開始された。6月中にはさらに販売国は拡大される予定だ。iPadにはメモリ容量と3G機能の有無の違いで複数のモデルが存在するが、このうち3Gモデルは各国で通信事業者経由での販売が行われている。日本ではソフトバンクがiPadを販売しており、契約プランとプリペイド、2通りの販売方法で提供されている。

■iPadのmicro SIMカードとSIMカードの違いは大きさだけ
iPadの3GモデルはSIMカードを装着して利用するわけだが、従来のSIMカードではなく一回りサイズの小さいmicro SIM(マイクロシム)カードが採用された。micro SIMカードは、もともとM2M用途などで利用されていたものであり、コンシューマー向け製品としてはiPadが初の採用となる。従来のSIMカードとmicro SIMカードのIC基盤規格は同一であり、物理的な違いがあるだけで両者には互換性がある。
従来のSIMカード(左)よりmicro SIMカード(右)はサイズが小型化されている

■SIMMカードをカットしてiPadで使うユーザーも
iPad 3Gモデルを利用するためにはこのmicro SIMカードが必要となる。現時点ではiPadしか採用していないため、SIMロックフリーのiPadを入手したとしても、自分が利用している通信事業者がmicro SIMカードを発行していなければ利用できない。

ほかのメーカー端末がmicro SIMカードの搭載を開始すれば普及が進むことも考えられるが、全世界で10億台以上が流通しているGSM/W-CDMAの携帯電話が共通で採用されているSIMカードのサイズが今後すぐに変わっていくとは考えにくいだろう。GSM/W-CDMAが全世界で普及したのも、共通サイズのSIMカードの存在によるところが大きいからだ。

海外では従来のSIMカードをカッターなどでmicro SIMカードサイズに切り抜いて、自分のiPad 3Gモデルに装着している利用者も多いようである。基盤の位置さえ合えば利用できるため、SIMカードを自動的にカットできる工具なども出てきているほどだ。

■iPad未販売国でもサポートが開始されている
こうしたiPadでのSIMカード需要もあり、まだiPadが販売されていないにも関わらずmicro SIMカードの発行を開始している通信事業者がヨーロッパやアジアで現れ始めている。中でも海外からの並行輸入端末が大量に販売されている香港では、すでに2つの事業者がmicro SIMカードの発行に踏み切っている。

香港はもともとSIMロックの無い端末が流通しており、AppleのiPhoneもApple香港から直販でSIMロックフリーモデルが購入できる。そのため5つある通信事業者のうち、iPhoneを販売していない3つの通信事業者が独自の「iPhone用契約プラン」を用意しているほどだ。これはApple香港で買ったiPhoneを持ち込めば、基本料金が割引される専用プランであり、固定契約期間中の割引分の総計がiPhoneの本体価格相当になるというものだ。すなわちiPhoneを単体で買ってきても、結果として固定契約満了時にはiPhone本体分がすべてキャッシュバックされ、iPhoneを無料で入手したことになるわけである。

iPadも香港ではアメリカでの発売直後から大量に並行輸入されて販売されており、街中でも利用者の数は増えている。業界関係者によればすでに数万台以上のiPadが香港では利用されているとのことだ。そしてこれらの利用者を自社に獲得しようと、正式に香港ではiPadが販売されていないにも関わらず香港の通信事業者はmicro SIMカードの発行を開始したわけである。

口火を切ったPCCW Mobileは、iPhoneプランを先駆けて投入した通信事業者でもある。どこの国で買ったiPadであれ、同社に持込すればIMEI番号と紐付けで専用のiPadプランに加入が可能だ。しかも料金は約600円/月でホットスポット定額、パケット通信は5日間定額とリーズナブル。また約4000円/月のホットスポット、パケット完全定額のプランに加入すれば、24ヶ月の固定契約期間中に基本料金の割引が受けられ、iPadの本体相当分が全額返金されるのだ。
iPadプランを先行投入した香港のPCCW Mobile

■ドコモのmicro SIMカード発行断念は早計か?
このように香港ではたとえ自社が販売していない端末であろうが、SIMロックフリーであれば対応プランをすぐに開始する動きが一般的である。iPadも香港ではおそらくiPhoneを販売中の2つの通信事業者が発売するだろうが、他の事業者も手を加えて見ているだけではないのだ。

NTTドコモはソフトバンクのiPad販売が決定するや否や、micro SIMカードの発行を断念してしまった。だが海外からの渡航者向けや、海外でiPadを「お土産」として買ってきた消費者向けにmicro SIMカードを提供することは無理なことなのだろうか。成田空港で海外からの渡航者向けにmicro SIMカードレンタルサービスを用意し、日本滞在中にNTTドコモの回線を利用してもらうというビジネスは十分に成り立つのではないだろうか。

日本では「端末は通信事業者が販売するもの」という考えが常識になっているが、iPadは特定の通信事業者向けの製品ではなく、ましてやグローバルに同じ機種が販売されているのである。確かに日本の商習慣上、NTTドコモがmicro SIMカードだけを出すことは難しいだろが、「ドコモ回線でiPadを使いたい」と考える消費者のためにも検討してもらいたいものである。

なお現時点では海外のiPadは日本では利用できないが、将来的に画面上への「技適マーク」表示対応がなされれば、海外購入品であっても日本での利用が可能となる。

山根康宏
著者サイト「山根康宏WEBサイト」

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