イケメン社長、野菜を売る――、若林輝男さんに聞く“農業ビジネスのカタチ”


生産者と消費者が直接結びつく新たな市場として、農林水産省の補助事業として昨年9月に始まり、全国9都市で開催されるようになったマルシェジャポン。晴れ渡った3月の休日、大勢のお客さんで賑わう六本木の会場では、なんと“生姜(しょうが)のみ”を売る背が高くルックスのよい一人の男性を発見しました。

土日は都内のマルシェジャポン会場で、平日は三輪自転車を走らせ都心の駅前を中心に、高知産の新鮮な生姜や青森産の大蒜(にんにく)を販売しているリーベル・アソシエイツ合同会社の代表=若林輝男さんです。


人だかりで賑わうマルシェジャポンは、いまや全国9都市で開催されている青空市場だ


それまでは、広告プランニングの会社でマーケティングコミュニケーションのコンサルティングを行ってきた若林さんの転機は、同僚と立ち上げた合同会社で農業ビジネスに関わり、同業界の現状を知ったことでした。思い立ったら即行動――、自らが持つマーケティングのキャリアを有意義に発揮できると感じるや、所属していた会社を退職、現在の合同会社に専念するようになったといいます。

もちろん、どんなWEBリテラシーやマーケティングのスキルがあったとしても、容易に新規参入が成功する業界などはどこにもないでしょう。事実、若林さんの立ち上げ時も「初日はニンニク3個で600円の売上でした」と苦笑い。まともに収入を得られない辛い期間を長く経験しながらも、必死にノウハウを築いてきました。

これまでの発想にはとらわれないアイデアや商品を投下し、また、マーケティングの基本に立ち返っては、お客さんとの対話を大切にし、「絶対に対面販売はなくさない」と断言する若林さん。ネットで販売することだけが“最先端”というわけではありません。リーベル・アソシエイツがやろうとしているのは、農家の現状や農業ビジネス全体を考えた“本当の成長”に他なりません。

野菜を売る若きイケメン社長に、さっそく話を聞いてみました。


青空市場では、生姜(しょうが)だけを取り扱う「Organica Tokyo(オーガニカ東京)」その深い理由とは?


――若林さんはなぜ農業ビジネスに参入を決意されたのですか?

「たまたま営業案件として、埼玉にある企業と提携をしたら、その会社は有機野菜をリアカーで売るという事業もやっていたんですね。提携して野菜販売を共にやっていくには、当然、僕らも野菜や農業のことも勉強しないといけない。

ただ、これらを学び、実際に話を進めていくうちに、ビジネスの世界で当たり前のことが、農家さんの人達には真っ白だったりするわけですよね。例えば、家族や同族経営でやってるから人件費の意識がなかったり、農家さんによってはJAが農作物を全部買ってくれますから、それでいいやっていう方もいるでしょう。でも、それは現状に甘んじているわけで、事業としての成長が止まったままになっている農家さんが多くあったりするわけです」

――農業ビジネスの現状・・・とまではいかなくとも、幾つかの問題点を肌で感じたわけですね。

「もちろん、非常にリスクの高い事業ですから、農家さんに対し補助金等はあるべきだと思いますけど、品質の改良や天候対策など、しっかり考えて実践しているところがどれだけあるのか。彼らの意識として、お客さんがJAになってしまうと、農作物をJAの規格に合わせるのがスタンダードになってしまいますよね。

ただ、本当に見るべきものは消費者ですから、長期的な価値ある物作りはできないんじゃいかなって感じたんです。よく産直、産直っていわれていますけど、トレーサビリティといわれ、消費者から生産者の顔は見えるようになりましたが、やっぱり逆は見えていないのが実情なんですね。

直売所にしても、生産者が価格を決められることのメリットが強調されますが、実はこれも、消費者をよく知らなければ適正な価格なんてつけようがないはずなんです。

まずは消費者と生産者をより近づける必要があります。だからこそ、絶対に対面販売はなくさない。これをすることで、生産者のコダワリや情熱をきちんと伝えるだけでなく、消費者の方の意見や要望を僕らの方でまとめて、農家さんのほうに声を挙げていく。そんな逆のトレーサビリティが可能になってくる。とにかく両者のコミュニケーションが欠けていますから、今すぐ“マーケティングの意識を持て”って言葉だけで言われても、やっぱり難しいですよね」


ボランティアの学生と一緒に楽しそうな姿が印象的だった若林さん


――リーベル・アソシエイツでは、三輪自転車を使って移動販売もされているそうですね。

「はい。事業として初期投資が少なくて済むこともありますが、一番の理由はお客さんに近いからなんです。お客さんの住んでいる近くまで行って、個人対個人で接する。そうすることで、関わりが一段深くなって、他にはない意見を吸い上げれるようになったりする。

例えば、弊社で七味ニンニクっていう加工品を販売しているのですが、ネット通販で売れても消費者の方のニーズが分かりませんから、なぜ売れたのか、または売れなくなったのか、正確には把握できません。それが対面販売だと“重いわね”とか“パウチないの?”といった声を貰える。そうすれば、“小瓶を作って、詰替え用のパウチを作ろう”とか新たな展開を加えることができますよね」

――ちなみに現在はどのような販売スケジュールになるのですか?

「基本的には月曜日と木曜日に大井町駅前で三輪自転車による販売をしています。で、土日が青山のマルシェジャポンで。今月からは六本木のアークヒルズでも青空市に出店させて頂けることになりましたし、来月からは更に販路を増やしていく予定です」

――販売しているのは、生姜やニンニクが中心ですよね。その理由というのは?

「最初は野菜全般をやってたんですね。全ていい野菜だったんですが、結果だけいうと売れなかったんです。なぜかというと、青空市ですから30店、40店のプロ達が集まってくるので同じことをやっていてはダメですよね。

また、キャベツとか里芋とか重いものもありましたので、果たして、青山とか六本木にお出かけ感覚で遊びにこられている方が、キャベツを買っていくのだろうか……と」


英語も堪能な若林さん。外人のお客さんがきても、しっかりとコミュニケーションをとって生姜を販売する


――確かにおっしゃる通りですね。

「その時点で、僕らも消費者視点が足りなかったんです。だとすれば、小さい、あって困らない、長持ちする、何かに使える――っていう観点でニンニクを入れたら、これが飛ぶように売れたんですよ。

でも、ニンニクが売れると、周囲の店舗が取り扱い出した。そこで、同じ特性を持ちマルシェの主な利用者である女性が必要とするものとして生姜を入れることになりました。

今は二日で2、30キロ売れています。実は生姜やニンニクを扱っているのは、極めてビジネス的な判断ですよね。スペース単価や一個あたりの送料も大事になってきますから」

――では、今後も生姜やニンニクを中心に販売される予定ですか?

「でも、それは会場全体30店舗の中の1店舗としての戦略というか布陣であって、売れるものだけ売ったら農家さんのためになりません。一方で三輪自転車の場合は、お客さんにとってみれば自転車一台が全会場ですから、キュウリや人参など一通り揃えて、ニーズに応えていく予定でいます。

今、大井町でやっていますが、春からは都心の繁華街でも販売できるように準備を進めています。一箇所ですと、やはり特定の消費者の方の意見でしかないですから、店舗を増やすことで、色んな消費者の方の意見を聞けるように。三輪自転車の台数を増やして、その一台一台を担当する人を増やしていくイメージですね」

――土地に馴染むのには時間がかかるのではないですか?

「そうですね。初日はニンニク3個で600円の売上でしたよ。3ヶ月やってやっとですよね。町の人に受け入れられるようになるまで、まず1ヵ月掛かりましたから」

――今後の展望は?

「あくまでも対面販売で買って頂いたお客様への付加価値サービスとして、加工品や生鮮野菜の一部をインターネットで販売していったり、販売スケジュールや仕入れ情報などを定期的に配信できる仕組みも考えています。

我々がやっている“Organica Tokyo|オーガニカ東京”というブランドに固執したフランチャイズ的な展開は意識していなくて、もし興味があって協力して頂ける企業さんがいれば、暖簾分けという形で独自のブランドでやって貰ってもいいですし、まずは農家さんと消費者の橋渡しをする機会を増やしていくことですよね。

スーパーやコンビニは、もはや対面販売とはいえないですから、“商売というのは、消費者とリアルで接してナンボ”っていうことを証明したいですね」


青空市場や三輪自転車を駆使して、農家さんと消費者の橋渡しをする機会を増やしていくという若林さんの熱意が農業を変える!?


■関連リンク
リーベル・アソシエイツ公式サイト
Organica Tokyo|オーガニカ東京公式サイト
若林輝男さんのツイッターはコチラ

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