爆発的ヒットの秘密を探る!iPhoneアプリ・クリエイター インタビュー【注目クリエイター列伝】


話題のクリエイターを紹介する「注目クリエイター列伝」の第5回は、「ToyCamera」や「QuadCamera」などのiPhoneアプリの開発者として知られる深津貴之さんに登場していただいた。深津さんはデザイナーでもありFlashクリエイターでもある、いわゆるマルチクリエーターだ。

■独立後は自分磨き
深津さんは神奈川県の出身。29歳。Flash/iPhoneを領域とするデザイナー兼ディベロッパ、そしてブロガーだ。もともとFlashのWEB広告関連の仕事をしている会社「tha ltd.」に勤務していたが、2009年4月に独立した。
iPhoneアプリ「ToyCamera」や「QuadCamera」の開発者として知られている。

現在の状況をうかがってみると、「体力のあるうちは自分の勉強をして、クライアントワークは少なめにしようかなと思っています。」とのこと。4月からはあえて外部からの仕事を控えて自社のプロダクトに集中しているという。近々会社を立ち上げる方向でも活動しているそうで、受注開発とのバランスも考慮中とのことだ。

■良いアプリ=ライフスタイルを変える
深津さんといえば、「ToyCamera」や「QuadCamera」などのiPhoneアプリの開発者として有名だ。そこで深津さんに、「良いアプリとはどういうものか」をうかがってみた。
「個人的には、ユーザーのライフスタイルを変えられるアプリだと思います。」という。

深津さんが言う「ライフスタイルを変える」というアプリは、一発ネタのアプリのようなものではなく、日常でアプリを起動してそれを使うことで生活のリズムや趣味が変わるツールだという。それが深津さん的な良いアプリというのだ。
iPhoneアプリについて語る、深津貴之さん

■アプリを作る前に時間を掛ける
深津さんに、どのようにiPhone アプリの開発をしているのかをうかがってみた。
「手を動かす前に考え込むほうですね。」と言う答えが返ってきた。

深津流iPhoneアプリ開発の極意は、「実装の前に時間を掛ける」ことというのだ。深津さんによると、
「何を作るか、機能用件の定義、UIまわりなどに時間を掛けて、実際に作るときにはエイ!ヤァ!と気合いを入れて作って終わりという感じです。」と、アプリの構成に多くの時間を割いているというのだ。

「『ToyCamera』や『QuadCamera』の場合は、初期の実装期間が1?2週間ぐらいで、調整に1ヶ月ぐらいを費やしました」

さらに、アプリを作るときのアイデアを導き出し方をうかがってみた。
「リサーチですね。まず自分の日常の不便があって、それを解決する方法がすでに提供されているなら、めでたしめでたしで、それがなかったら自分で実装するという感じでしょうか。」

深津さんのiPhoneアプリが爆発的にヒットした秘密は、どうやらここら辺にありそうだ。

■Objective-Cとアプリ公開までに苦戦
iPhoneアプリでも知られる深津さんにも苦労はある。なんと、iPhoneアプリを作るうえで必要なObjective-Cを覚えるのに苦戦したのだという。Objective-CはMacintoshのプログラミングにしか使わないので、特殊な使い方も多い。

これからiPhoneアプリを開発する人へのアドバイスとしては、「習うよりもなれろ!」の精神で、とりあえずプロトタイプを作ることが、Objective-Cマスターへの近道だと語ってくれた。

また、iPhoneアプリを公開するにあたり、契約関係が難しく、なかなかアプリをリリースできなかったそうだ。
深津さんいわく、「だいぶ初期だったので、制作者側もApp Store側も苦労した感じです。」とのこと。iPhoneアプリを公開するには、現在でもiTunesへの登録と米国の納税者登録などが必要となる。

深津さんの場合、iPhoneを購入後1週間ぐらいでアプリの開発に取り組み始めた。アプリはすぐにできたが、契約などの絡みで公開までに2ヶ月の歳月を要したそうだ。
iPhoneアプリ開発の苦労話を語る、深津貴之さん

■説明が必要になったら負け
企業が依頼する仕事ではアプリにすべての機能を詰め込んで終わりというパターンが多いという。
「(iPhoneアプリは)機能が20個ぐらいあるものを5個ぐらいに減らすことに意義があると思うのですが、機能を削ると単価が下がるという感じで、なかなか折り合いがつかないことも多いのです。」と、深津さんは語る。

iPhoneアプリでは、たくさん機能が付いているアプリが必ずしもユーザーに支持されるというわけではなく、直感的で使いやすいシンプルなアプリのほうがユーザーには響くという。iPhoneアプリでマニュアルを読まなければ使えないというのは、一番のセールスポイントを自ら失っているというわけだ。

■ユーザーの反響が嬉しい
仕事で一番うれしかったことをうかがってみると、iPhoneアプリを作るようになってからは、ユーザーのフィードバックが直接かえってくることが、開発をするうえで大きな励みになっているそうだ。またユーザーからのフィードバックがiPhoneアプリに反映されることもあるという。

■移動時間は、趣味の読書を楽しむ
深津さんのプライベートは、どんな感じなのだろう。
深津さんは現在、横須賀の実家にお住まいだという。意外なことに学生時代から実家派だそうだ。また、部屋の整理とかは好きではないらしく、さほど整頓されていないという。

そんな実家派の深津さんに、好きな果物をうかがってみた。
「プラムですね。なんか、美味しいじゃないですか。あと、果物の中では皮をむかなくて済むし、サイズも手頃なところが良いですね。」と、笑いながら語ってくれた。

1日のスケジュールは、メールをチェックして、作業があれば作業をするという感じだが、週の半分は以前に働いていた会社のデスクを有償でレンタルしているので、今でも東京に出て仕事をしているのだという。
「外に出ないと完全に引きこもってしまうので、外に出るようにしています。」と照れくさそうに語ってくれた。

趣味は読書で、最近は夏野剛著「グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業」や、 村上龍著「コインロッカーベイビーズ」などを読破したという。本のジャンルは問わずに何でも読む読書家なのだ。

いつ読んでいるいのか気になったので聞いてみると、
「東京まで往復で1日3時間あるので、早ければ1冊。遅くても2日で1冊は読める感じですね。」と、深津さんは通勤で使う電車移動の時間に読書を楽しんでいるという。できるクリエイターは、時間を無駄にしないということだろう。
趣味について語る、深津貴之さん

■使ってもらえてなんぼ
最後にポリシーをうかがってみた。「『使ってもらえてなんぼ』というところですかね。作っても使ってもらえなかったら、悲しいじゃないですか。必要があるとすれば、自己表現は削ってでも使ってもらえるようにしようと考えています。」とのこと。

将来の夢については、「将来の夢なんてないですよ。あまり働かないで作品を作って食べられたらいいぐらいです。」と、アプリ開発の計画性とは違い、意外にも楽天的な一面を見せてくれた。

深津さんは、10月に開催されたイベント「FlashユーザーのためのiPhoneアプリ開発入門」に出演し、独自のiPhoneアプリ開発について紹介された。現在、詳細レポートが公開されている。

深津貴之(ふかつたかゆき)
Art & Mobile
fladdict
ロクナナ
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