仮想化はメタボになったコンピューター技術の垢落としか【デジタルネイティブと企業】


2009年は「仮想化」というキーワードが話題となっている。企業にとってはコスト削減や業務の効率化ができる新技術として脚光を浴びているわけだが、導入と運用における実態は必ずしも正しく伝わってはいない。そんな仮想化技術を正しく共有しようというのが、Virtualized Infrastructure Operators group(VIOPS)、日本語でいうと「仮想化インフラストラクチャ・オペレータズグループ」である。

VIOPSは、仮想化技術に関わるエンジニアたちによる情報共有により仮想化技術のオペレーターやエンジニアを支援する活動を展開している。VIOPSの活動に参加するエンジニアと企業を通して、仮想化技術の現状と未来を追ってみたいと思う。

今回は、インターネットマルチフィード株式会社 取締役 外山 勝保氏にお話を伺った。

■ホスティングとハウジングの違い
まず、外山氏にインターネットマルチフィード株式会社での仮想化技術の導入状況について伺ってみた。
「インターネットマルチフィードは、ホスティングサービスではなく、ハウジングサービスを主な業務としています。ホスティングとは違うこともあり、まだ仮想化は導入に至ってはいません。その理由としては、ハウジングサービスを展開するインターネットマルチフィードのお客様である企業様が独自にサーバのチューンや運用効率化を高めているケースが多く、導入した場合のメリットをまだ検討している段階だからです。」
※ハウジングサービス
顧客のサーバを、回線設備の整った施設に設置するサービス。ホスティングとは異なり、サーバなどの機器は顧客が用意したものを使い場所と回線、電源などを提供している。

外山氏は、仮想化技術も導入仕方で、その成果は大きく変わるという。
「仮想化技術に期待されていることは、効率化とコスト削減にあると思うのですが、小規模であれば仮想化せずにlocalで運用したほうが、安定して低コストで使えるということもあります。
また、私共のお客様のように自社でサーバをチューンしている企業様の中には、仮想化導入での成果にはまだ疑問をもっている企業もあります。
自社でカリカリにチューンしてサーバ運用をしている企業様では、仮想化の導入に対しては慎重というのが現状です。ですが、自社でそこまでチューンできるエンジニアを抱える企業は、それほど多くないのも事実ですから、仮想化のような新しい技術は、どんどん取り組んで欲しいと思っています。」

外山氏は仮想化すれば成果が出るわけではなく、成果をだすには、仮想化を活かす相応のシステム設計と運用での取り組みが必要だという。

■仮想化はベーシックな技術、トータルなサービス設計こそが必要だ
複数台のサーバを1台のサーバに集積化することで、サーバ台数を減らし、1台あたりの低かった稼働率を上げることで効率化の向上とコストダウンが図れるというのが仮想化のメリットだ。またSI業界にとっての仮想化は価格が崩れている低価格サーバから高性能サーバへの切り替えというチャンスにもなっているという。また、仮想化というだけで、企業側も受け入れやすいという市場マインドも見逃せない。

しかし、そうした単純なメリットだけで仮想化をとらえるのは間違いだと外山氏は指摘する。
「サーバを集積化しても稼働率を上げなければ成果にはなりません。しかし稼働率を上げれば、サーバの負荷も多くなり破損や消耗しやすくなりますし電力の消費も増えます。これまで以上にサーバの安全運用とバックアップは重要になり、それを支えるシステムが求められるのです。また、稼働率アップによる電力の確保と空調の維持なども、グリーンITなど環境問題は叫ばれている今、見逃してはいけないポイントですね。
つまり、仮想化技術を導入するということは、それを運用するシステムもあわせて設計する必要があるのです。」
インターネットマルチフィード株式会社 取締役 外山 勝保氏


仮想化技術はベーシックな技術であり、それをサービスとして活用するには、運用やオペレーティングを含めたシステム設計と運用フローが不可欠だというのだ。

また仮想化技術は業界によっても適性が異なるという。WEBサービスでは、複数のサーバ構成が決まっている傾向があり、それらを1台に集積化すればサーバ台数の削減と稼働率を上げられるため仮想化には向いているという。
例えば、5台のサーバ構成の場合、バックアップを含めるとその倍近くのサーバが必要となるが、仮想化で1台にまとめればバックアップをあわせても2台ですむといった具合だ。逆にエンタープライズ系では、WEBサービスのようにはいかないという。

■二極化するエンジニアスキル
仮想化技術は、最近出てきた技術でなく昔から取り組まれてきた技術である。

外山氏は、仮想化技術に対しての期待をこう語る。
「仮想化技術は、今できたものではなく昔からずっと研究されてきた技術なんです。エンジニアにとっては、合理化や最適化というのは、ある意味王道であって、常に目指して取り組んでいることなんです。私たちもプログラムやスクリプトを少ないメモリやステップ数で効率よくと、これまで少しでも無駄をなくすことに懸命に取り組んできたわけです。そういう意味でも、仮想化技術を含めた新技術の登場には期待しています。」

また外山氏は、今後、コアなエンジニアだけで乗り切っていくことは難しいとも指摘する。
「システムのチューニングや管理システムを設計できるコア技術に精通したエンジニアが必要な反面、そうしたエキスパートエンジニアの育成は時間がかる上に、なかなか育たないのが現状です。
今後は、エキスパートエンジニアのほかに、運用や管理を担う汎用エンジニアとの二極化が大切になると思っています。」

■仮想化技術こそ、筋金入りエンジニアの出番か
仮想化技術は、コンピューターのハードウェアなどの仕組みを知ってる必要がある技術だと外山氏はいう。
「仮想化技術は、ハードウェアやOSを知らないと制御できない技術のひとつでもあります。そういう意味では、我々のように少ないメモリを工夫して使った、オヤジ世代のエンジニアの出番なのかもしれません。」と、苦笑いしながら語ってくれた。
笑顔で語る 外山 勝保氏


外山氏の意見を聞き、
現代のコンピューターはハードウェア偏重で進歩してきた反面、エンジニアを軽んじてハードの高性能化頼りに肥大化してきたのではという懸念を抱いた。

その点を外山氏にもぶつけてみると、
「ここ20年ほどは、エンジニアの作業コストよりハードウェアが安いという状況が続き、技術力でなんとかするよりはハードウェアを増やして対応するなど、エンジニアの技術力が軽んじられる風潮が蔓延していたんですね。ある意味、エンジニアは力を発揮させてもらえない不遇の時代だったといえるかもしれません。
それが、景気も後退して、ハードウェアも限界近づいて来て、コストダウンだの仮想化だとなり、ようやく力のあるエンジニアが腕を振るえる時代がきたのかもしれませんね。」と、にこやかに語ってくれた。

仮想技術の登場は、メタボになった今の時代のIT技術の垢を落とす時代がきたことを知らせているのかもしれない。

【デジタルネイティブと企業】をもっと読む
- 特集:仮想化技術で現実を変えていくエンジニアたち-
第1回 仮想化・クラウドの霧の中でIT日本の背骨が見えてくる技術者のしゃべり場を
第2回 仮想化技術はコスト低減に有効!「VIOPS-3 Workshop」レポート

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