仮想化技術はコスト低減に有効!「VIOPS-3 Workshop」レポート【デジタルネイティブと企業】


情報通信技術の進歩にともない、仮想化技術によるシステムの高集積化が起こりはじめている。Webサービスを提供する企業はこうした仮想化技術の導入により、従来と同じサービスを安価に提供できるだけでなく、メンテナンスの効率を大幅に向上させることができる。

仮想化技術を啓蒙する仮想化インフラストラクチャ・オペレーターズグループ(Virtualized Infrastructure Operators Group:VIOPS)は2009年5月29日、慶應義塾協生館2階「藤原洋記念ホール」において、システム技術者向けのイベント「VIOPS-3 Workshop」を開催した。

「Webサービスが求める仮想化技術」と題したトークセッションでは、株式会社はてな 執行役員 田中 慎司氏と、株式会社ライブドア 執行役員 池邉 智洋氏が、自社サービスでの仮想技術の導入事例を語った。


■運用コスト低減とリソース効率の向上が可能 - はてな 田中氏
株式会社はてな 執行役員 田中 慎司氏は、「ウェブサービスとはてなと仮想技術」と題し、同社における仮想技術の実例を解説した。

数年前から世の中的に仮想化技術というのが注目を集めてきたことから、はてなは2007年の夏に仮想化技術を導入しはじめ、2008年から本格的に仮想化技術によるWebサービスの提供を開始した。
現在では、サーバ全体の半分以上が仮想化技術を利用している。
株式会社はてな 執行役員 田中 慎司氏

仮想化技術のメリットについて、はてなの田中氏は、「サーバー仮想化のメリットは、運用コストの低下と、サーバのリソース効率の向上ができる点にある。」と、仮想技術が如何に有益な技術であるのかを強調した。

はてなでは、仮想化を前提としたハードウェアを自社で内作し運用している。仮想化技術の導入によりアプリケーションのサービス仕様からミドルウエアやOSのレベルまでを管理できるので、安いハードウェアのサーバでも品質の高いインフラを構築することができるという。

はてなは2009年5月現在、Xenによる1000個の仮想サーバーを500台の物理サーバーで運用しており仮想化技術の導入により物理サーバーを半分に減らすことができている。

株式会社はてな

■オープンソースで公開したい - ライブドア 池邉氏
引き続き、株式会社ライブドア 執行役員 池邉 智洋氏が「Webサービスが求める仮想技術」と題し、同社での仮想化の取り組みについて語った。

同社は2008年10月より仮想化への取り組みを開始した。使用環境は、XenでParaVirtualizationで運用。
Webサービスでは、データの広がりが予測不可能なため、いかに大量のデータをうまく束ねて扱うのかが大きな問題となる。世の中には、いろいろな効果のソリューションが存在するが、同社は無料または安価なサービスが多いことから効果測定にあまりコストを掛けられないのが現状だ。
株式会社ライブドア 執行役員 池邉 智洋氏

同社では、独自の技術やいろいろなコンポーネントを組み合わせることで仮想的に巨大なストレージを実現することを目指したという。さらにWebサービスにおけるデータの一貫性にある程度のルーズさを許容できるという特性を生かすことで、従来よりもコストを掛けずに必要なサービスを提供できる仕組みを実現させた。

具体的には、ブログや写真共有などをターゲットにした分散ストレージをApacheモジュールなどで実装し、クライアントからはHTTP PUT/GETで操作するかたちをとっている。さらにストレージノードは、安価なサーバにHDDを積んで使用し、ファイルは複数のノード間にレプリカが作成され、レプリカの状態がおかしくなったら自動復旧するように設定しているという。

ライブドア 池邉氏は、「サーバ仮想化は同一構成を並べるWebサービスに有効。ストレージはWebサービスについては要件が特殊だ。」と、仮想化への取り組みの現状を語った。

ライブドアでの仮想化ホストは、ホスト全体の5%ぐらいで、まだ100ホスト程度とのこと。現時点での仮想化技術の導入は独自実装で非公開だが、将来的にはオープンソースで公開していきたいとしている。

株式会社ライブドア

■カスタマイズしやすい - パラレルズ 長谷川氏
パラレルズ株式会社 長谷川 章博氏は、「Next Generation of Optimized Computing」と題した講演を行った。同社は、ハードウェア仮想化(ハイパーバイザ)とOS仮想化(コンテナ)という2つの仮想化技術を使用した製品を提供している。

ハイパーバイザは、ハードウェアへのアクセスを仮想化する。複数のハードウェアのインスタンスを作成し、ホストOSおよび個々のゲストは完全なOSを持つことができるのが最大の特徴だ。一方、OSへのアクセスを仮想化するコンテナは、複数の仮想OSのインスタンスを作成できるため、集約率はハイパーバイザと比較しても2〜10倍ほど優れている。
ハイパーバイザとコンテナは、それぞれに得手不得手があるため、ユーザーに適切なほうを選択して欲しいというのが同社の考えだ。
パラレルズ株式会社 長谷川 章博氏

パラレルズ 長谷川氏は「運用する際、コマンドラインや独自のツールを使っている方も多いと思う。他社の製品やオープンソースの製品、弊社の製品を混在して使うと、それぞれにツールが必要だったりする。弊社の製品であれば、コマンドラインが使えるので、一度、ツールで作っていただければ、目的のゲスト環境をコンテナにするか、バーチャルマシン(ハイパーバイザ)にするか、運用側で自由に設定することができる。我々の製品は、カスタマイズしやすい。」と、さまざまな製品に対応できる柔軟性が同社の製品の強みであることを述べた。

パラレルズ社では、単に仮想化の技術を応用した製品のみを販売するのではなく、自社製品に対応したツールやコマンドも提供することで運用コストを下げることができるとしている。

パラレルズ株式会社

■仮想化でガチンコ勝負! Xen vs VMware
「Xen vs VMware 徹底技術比較」と題したトークセッションでは、シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社 平谷 靖志氏とヴイエムウェア株式会社 小松 康二氏が、それぞれの仮想化技術についての優位性を語りあった。
ライバル会社でもある両社の担当者同士で自社製品の良さをピーアールしてもらおうというわけだ。

シトリックス・システムズ・ジャパンは、Xen Sourceの買収を経て仮想化ソフトウェア「Xen」の技術を引き継いだが、最近「Citrix XenServer」の完全無償化を発表したことで、システム開発者の間でも話題を呼んでいる。

Xenは、準仮想化(Paravirtualization)と呼ばれる実装技術を標準で採用している。準仮想化では、ハイパーバイザコールを呼び出す仮想的なハードウェアを構築し、仮想マシン環境を実現することができるだけでなく、ハードウェアの完全仮想化機能も提供可能なため、実ハードウェア用に用意されたOSをそのままXen上でも動作させることもできる。

講演では、平谷氏がXen上で既存のOS環境を高速クローンで複製するデモンストレーション披露し、わずか数秒でクローンができる点をアピールした。
シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社 平谷 靖志氏

シトリックス・システムズ・ジャパン 平谷氏は、「Xen Serverの機能はシンプル。機能が少ないと思われる方もいるかもしれないが、すべての機能はコマンドで対応可能で、必要なものだけを持ってきている。」と使いやすさを強調し、機能を絞り込んでいるメリットを述べた。

ヴイエムウェアは、仮想化ソリューションおよびサービスを提供する老舗のメーカーだ。とくに「VMware ESX」は世界初のハイパーバイザー(一般OSを必要としない仮想化ソフトウェア)としてリリースされている。

VMwareでは、仮想マシンにインストールするOSを「ゲストOS」と呼んでいる。ゲストOSからみた仮想ハードウェアは、最適化されたデバイスとして認識されるため高い安全性と堅牢性があり、スムーズにさまざまなOS環境を構築することができる。

講演では、新バージョンで提供されている準仮想化SCSIコントローラによって、物理環境とそん色ないディスクI/Oを実現できるなど、VMwareであれば高いパフォーマンスが実現可能であることがアピールされた。
ヴイエムウェア株式会社 小松 康二氏

ヴイエムウェア 小松氏は、CPUの世代をまたがったVMotionを可能にするEnhanced VMotion Compatibilityや、物理サーバの障害時にもダウンタイムなくサービスを継続できるVMware FTなど、可用性をはじめとする仮想化の高度な機能にも一日の長があることを紹介し、「本番環境での利用にVMwareが最適である」と述べた。

シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社
ヴイエムウェア株式会社

VIOPS

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