聖地とは? 森山大道氏が語る写真展「S′」


株式会社リコーは、フォトギャラリー「RING CUBE」において写真家 森山大道氏のトークショー&サイン会を行った。同氏の写真展も連続で開催する。

■自分の見方で見て欲しい - 森山氏
編集部:「S'」のタイトルの由来を教えていただけますか?
森山氏:もともとは雑誌の連載をやっていて「聖地へ」というタイトルでしたが、写真集にするときに「聖地へ」とはしたくはなかったのと、「聖地へ」という本はほかにもあるので、スポーツの「S」やスピードの「S」などいろいろな「S」を絡ませたかったからです。

編集部:無人の競技場をテーマに選んだキッカケを教えていただけますか?
森山氏:僕の友人でライターで編集もしている写真集の担当者に与えられたテーマです。スポーツが嫌いだという森山にスポーツを撮らせてみたら、どういう写真を撮るだろうということだったと思います。僕自身が設定したテーマではなく与えられたテーマだったけど、逆に面白かったです。

こういうことがなければ競技場には足を運ばないだろうし、ましてや無人のそういう場所に行く経験というのもないだろうから面白かったですね。

編集部:見所を教えていただけますか?
森山氏:見所といっても、競技場はどこも似ているでしょ。たとえば、競馬場とオートバイのレース場はよく見ると全然違うけど、風景としてはよく似てますよね。微妙に似ているんだけれども、よくよく見ると空間のありようが全然違うというのを感覚できるし、似たようなこういう大きな空間をどういう風に撮ればほかの競技場との違いが出るのかは、ゲームでした。
写真1 森山大道写真展「S'」の会場写真2 森山大道写真展「S'」の会場

編集部:とくに印象に残った競技場はありますか?
森山氏:写真集にする段階では、許諾がおりなかった国技館の「土俵」です。あれは僕がけっこう好きな写真だったんですけど、それが本に使えないし今回も使えなかったので、それがちょっと残念です。土俵の輪っかだけがピーっと光っている1枚なんだけど、それがどこにも使えなかったのが残念ですね。

横浜のプールも面白かったよね。プールの下のほうから水をのぞき込むような感じでね。なかなかイマジネーティブな感じでね。

編集部:「S'」シリーズとして続編もお考えでしょうか?
森山氏:今のところは考えていませんね。本の連載が7回ぐらいで終わってしまって、そのあとに写真集を出すためにいくつかを撮りたしたので、僕の中ではだいたいその辺でいいだろうということになっています。何度もやるもんじゃないよ。「聖地へ」というのは聖なる開戦みたいなもので、1回でいいんじゃないの。

編集部:リコーのカメラをお持ちだとうかがったのですが、何か思い出はございますか?
森山氏:僕はカメラマンのくせにカメラにあまり入れ込まないたちなんだよ。ただリコーのGRというフィルムカメラのは、出て間もない頃に有名な写真家の田中長徳さんからもらったんだけど、大きさといい軽さといい性能といい、僕のカメラワークにピッタリだったので、それからもう十何年も使っています。

写真集は何冊か出していますけど、ほとんど90%以上はそれで撮っています。ちょっと大げさな言い方をすれば、皮膚呼吸をするのと近い感じで写真が撮れるようなものです。

編集部:最後に写真展に足を運んでくださるかたにコメントを頂戴できますか?
森山氏:写真はまったくそれぞれのご自分の見方で見ていただければよいと思うので、それでどこか感覚や視覚が共有されればいいと思うんだけど、別に共有されなくてもいいんだよね。とくにこう見て欲しいというのはないけど、なるべく多くの人に見て欲しいと思います。

編集部:本日はありがとうございました。


●森山大道展トークショー&サイン会
2008年12月9日(火)、フォトギャラリー「RING CUBE」において写真家 森山大道氏によるトークショー&サイン会が開催された。

トークショーでは「S'」の元となる写真集「聖地へ」の企画裏話が編集担当者から披露された。「聖地へ」は森山氏とゴールデン街でお酒を飲んでいたときに「最近、大坂に行ってない」という話になり、「大阪で何かやりますか」という自然な流れで企画が練りあげられたそうだ。

森山氏のトークは、実際の写真を見てもらったほうが質問もしやすいだろうということから「S'」の会場へ移動しての開始となった。
写真3 展示会場の写真を自ら語る、森山大道氏写真4 銀座四丁目の交差点を撮影する、森山大道氏

「S'」の写真は透明なアクリルで飾られているのだが、森山氏によるとフレームに入れて見せるよりもアクリルで透明感を出して上からぶら下げたほうが外の空間という感じが出て、この場所(RING CUBE)にはふさわしいという。「RING CUBE」はガラス張りになっており、カーテンを開くと外の光が転じ会場に差し込むことから外の光を活かす趣向という訳だ。

「写真を選択するときに悩まないのか?」との質問に対して、森山氏は「まったく悩まないことはないが、悩むときりがないので、気合いで決めてしまう」という。あとから確認ができるので、まずは直感で選んだものを並べるそうだ。

「一番お気に入りの写真は?」との質問には、「みんな気に入っている」とこたえ、自然な笑いを誘った。
写真5 森山大道氏のトークショー写真6 森山大道氏のサイン会

トークショー後、森山大道写真集「S'」を持参した人および「RING CUBE」で購入した人に対してサイン会が行われた。サイン会では、iPhoneへのサインやデジカメによる撮影を求められるシーンもあったが、森山氏は快く応じてくれた。イベントの参加者には、良い思い出となっただろう。


●森山大道写真展「S'」
本写真展は無人の競技場を撮影した最新の大判写真集「S'」(2008年5月講談社刊)から26点を選択し展示している

開催日時:2008年12月3日(水)〜12月28日(日)
森山大道写真展「S'」


●森山大道写真展「銀座/DIGITAL」
森山大道氏初のデジタルカメラでの撮りおろし作品展。下記のとおり開催の予定。

開催日時:2009年1月7日(水)〜2月1日(日)


RING CUBE
東京都中央区銀座5-7-2 三愛ドリームセンター(9F受付)地図
RING CUBEの連絡先: 03-3289-1521

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銀座を見渡せるフォトスポット!写真とリコー歴代カメラのある空間「RING CUBE」

森山大道展トークショー&サイン会
森山大道写真展 「S'」 「銀座/DIGITAL」 を連続で開催
「RING CUBE」 - 公式サイト
株式会社リコー

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