【カオス通信】ワーキングプアは本当に『蟹工船』を読んでいるか?


最近、小林多喜二の小説『蟹工船』が売れているというニュースを目にします。私は、そのブームとやらが全く実感できなかったのですが、漫画版も出ているということなので試しに読んでみました(ちなみに『蟹工船』を読むのは今回が初めて)。

結論から書きますが、私にはそれほど面白いとは感じられませんでした(※一部漫画を除く)。確かに現代社会に通じる部分もありますが、この作品の舞台は"蟹工船"という特殊な密室です。その中で起こった出来事を、そのまま社会一般に置き換えるのは、ちょっと無理があるように思えました。

それにしてもいったい誰が『蟹工船』を買っているのでしょうか? 本当に将来に不安を抱える若者や、ワーキングプアと呼ばれる人々が買っているのでしょうか? 売れているのは事実らしいのですが、どうもスッキリしません。気になって調べていくと、どうやらこのブームは書店の店員が火を付けたということがわかってきました。

その発端は東京・上野にある書店の店員(元フリーター)が、作品を読んで「この現状、もしや……『蟹工船』じゃないか」という手書きのポップを書いたのがきっかけだったんだとか。その後、出版社がこの手法を真似て、ポップを大量印刷して全国の書店に配り、ブームとなったようです。

どうやら『蟹工船』ブームは売り手主導のブームというのが真相のようです。この本は、流行のキーワードに反応した人たちが買っているというのが実情で、ワーキングプア層に愛読されているというのとは違う気が……。ともあれ、一応ブームになるくらいですから作品もそれなりに見所はあってしかるべきでしょう。

とりあえず、原作小説も含めた感想を以下に書いてみますので、「ブームみたいだけど、面白いのかな?」と考えてる方は参考にしてみてください。『蟹工船』は格差社会やワーキングプアの問題が云々という側面で語られる場合が多いのですが、ここでは純粋に娯楽作品としての評価を書いてみます。初めて読む人にとって大事なのは「いま読んで面白いのかどうか」だと思いますしね。

■『マンガ蟹工船』(漫画)
原作:小林多喜二
作画:藤生ゴオ
発行:東銀座出版社

●原作再現度:★★★☆☆
●オススメ度:★★☆☆☆

小説をほぼそのまま漫画化した内容となってます(ただしエログロ表現は控えめ)。私が最初に読んだ『蟹工船』がこのA5版サイズの漫画版でした。特徴的なのは、特高警察による拷問で獄中死した小林多喜二の死を悼むシーンの描写が、物語の最初と最後に描き加えられている点でしょう。これは企画・編集をした「白樺文学館多喜二ライブラリー」の意向によるものと思われます。
井上ひさし推薦の『マンガ蟹工船』。小林多喜二が好きで、原作を読んだことがある人にとっては興味深い内容だと思いますが、純粋に漫画として読むと色々と問題が……。

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